コピーライターに出会ってしまったからだよ
類は友を呼ぶって言葉、本当にあるんだなと思った場所がある。20代中盤に通っていたBARだ。
奇人変人が顔を寄せ合いながら自論を展開している日もあれば、閑古鳥が鳴く声すら聞こえないほどお客さんが来ない日もある、極端な店。店自体がもうカオスだ。
芸能人、モデル、広告業界、絵描き、書道家、写真家、売れてない本物ミュージシャン、フリーターなクセに毎日来る奴、インテリぶって知識を大盤振る舞いする奴、羽ぶりが良い経営者、あげたらキリがないくらい、面白いメンツが揃うBARだった。
もう今は別のお店になっていて、当時の面影は建物の外観で少し分かる程度。
BARのオーナーとは知り合った当初、めちゃくちゃ仲が悪かった。お互い若く、生意気で、同族嫌悪の様な、言葉にしなくてもお互いが態度でキライを示し合う、そんな間柄だったのに、ぼくは彼のBARがオープンすると、ほぼ毎日通った。
なんでだろうね、不思議。
苦手なワインがキッカケ
ある日、1人のオジサンが先にカウンターに座っていて、白ワインをボトルで開け、店に居る人たちにも振る舞っていた。もうね、カオス。飲めや歌えや踊れやでなんでもアリな、クラブかって雰囲気…マジか、苦手なやつだ…一杯だけ飲んで帰るか、と思っていたんだけど。
ぼくが座るや否や、そのオジサン、オーナーにぼくの分のワイングラスをお願いする。
注がれた白ワイン。実はワインは苦手なんだよなぁ、と思いながらもタダだし、酔っ払いたいし、乾杯することにした。
それが、そのオジサンとの初めての乾杯であり、その後も数えきれないくらい乾杯をさせてもらえることになる。
知り合ってから結構な時間が経って、実はこのオジサンが只者ではない事を知る。
有名なコピーライターだった。
名前を書けば分かる人にはわかっちゃうし、その人が手がけたコピーを知っている人もたくさんいる。だからここでは「森田さん」と言うことにする。これ、完全なる仮名。本当に森田さんというコピーライターがいらっしゃった場合、その方とは別人ですので悪しからず。
森田さんはコピーライターとして長年勤めていた会社をセミリタイアし、自分がやりたい事を自分のペースでやっていた。
元々の仕事での繋がりや、森田さんへ直営業してくる仕事の依頼もあったり、広告系とは全く違うビジネスをやったりと、すごく忙しい人に見えた。あなたのペースって一体・・・
実際忙しくしてたし、そろそろペースを落としたいなんて事を漏らしたり。それはあなたの自由でしょと思ったけど。
森田さんの正体を知るまでは、ただの面白い変わったオジサンだと思っていた。
やたらと家はオシャレだし、デザイン系の本やアート写真集、誰かの詩集や昔の写真、この辺で気付く人は気付くんだろうけど、その人がどんな人であろうと、ぼくにはどうでも良いことで。
大事だったのは、一緒にいて面白かった、ただそれだけだった。
彼の正体を知ったあとも家に行っては美味い酒と美味い料理、時にはデザインやアートの話で盛り上がった。遊びに来る人達も、いわゆる業界の人も多く、ぼくにとっては新鮮でシャキシャキなレタスを毎日丸かじりしているような出会いばかりだった。
毎日が楽しく、ほぼ入り浸り。ひどい時には365日中、300日は彼の家にいたんじゃないだろうか。
家賃もかからない、食事も冷蔵庫を開ければ何かしらある、なんて贅沢な毎日だ。
そんな彼の仕事の一端を見る機会が訪れた。
キャッチーなコピーをライティングする人
とある町の広報誌に彼の連載があった。毎月1回くらいのペースだったか、取材に行くのだが、帯同しても良いと言ってもらえた。
実はこの旅には森田さんと一緒に行きたいという人が殺到していたのだ。そりゃコピーライターの仕事を間近で見れるし、なんといってもその土地で美味しいものを好きなだけ、ワイワイと食べたり飲んだり出来るのだ。
取材費で10万ほど貰っていたらしいが、貰った分、その土地でしっかりと落とす、それが決め事だと言っていた。カッコいいと思ったが、実は赤字がほとんどだったらしいけど。カッコいいを通り越して、カッコカッコいいわ。ちょっとなに言ってんのか、自分でも迷子。
ぼくは彼の仕事を近くで見たいと思ったことがなかった。周りからは、もったいない!と言われたこともあったけど、仕事での付き合いをする事で、今までの関係が壊れてしまうんじゃないかって思っていたから、極力避けてたんだろうな。
なかなかの珍道中だったのだが、細かく書くと、いつかどこかで、森田さんの目にこのnoteが止まって暴露したのがバレるとイヤだからここは内緒にしておく。本当はここが面白いところなんだろうけど。いつかパート2でも書くかな。
コピーライターという仕事は、その商品やサービスを、わかりやすく、短い文章で表現できるかが腕の見せ所だと思う。すみません、コピーライターでもないクソ素人が勝手に言っている。大変恐縮です。
たくさん分析して、考え、アイデアを出しては捨てて、ブレインストーミングというアイデアの出し方も彼から教わった。その後使うことはあまりなかったけど。
そして彼からは、モノの捉え方を教わった。
モノの捉え方は1つじゃないし、自分が見えてるモノが全てじゃない。出し尽くしたと思ったアイデアのその先に、実は大切な答えが隠れていたりする。これは今のぼくの考え方やモノの捉え方にすごく影響している。
森田さんの作品ではありません。車窓から見えたポスターを撮りました。望遠で撮ったのでボケボケ。ちゃんと撮りたかったなぁ。どなたの作品か鋭意探し中です。
あとは、句読点の使い方だ。
プロのコピーライターの方の作品を見ると、なぜここに?という使い方をしている句読点が多い。これが1番引っかかっていた。
そして彼の書く文章もそれだ。
「森田さん、ここの点って、なんで入れてるんですか?」
「あぁ、読む時にさ、ブレスするでしょ、そこに意識的に入れてるの。喋るときと一緒。本当の使い方を国語の授業で習ったかもしれないけど、読みやすい方が良いじゃない」
「それと、実際にポスターとか紙とかWEBに文章を掲載した時の見え方を考えてるんだ。これ、ぼくの技だから、盗まないでね!」
ストーーンと腑に落ちた。喉に詰まってた餅が急に胃に流れてきて、どんどん身体に吸収される様な。餅は消化のスピードが早くないんだっけ。とにかくね、胃がフル回転で消化してくれたんだ。
AdobeのソフトにIllustrator(イラレ)というものがある。彼は自分でデザインもしていたので、その製作現場も見ていたが、文字間にもこだわりがあった。その後、ぼくがイラレを使う時には、彼の教えに沿って使っている。やっぱり視覚的に見やすくなる。すげーな、プロは。
プロフェッショナル仕事の流儀的に言えば、この会話が彼の「プロフェッショナルとは?」の答えなんだ。相手が読みやすい、見やすいモノを提供する。それがコピーライター、プロの仕事だ。
(この辺から、スガシカオさんのprogressを聴きながらお読みください)
文章は短くとも長くとも、誰かの目に止まるわけだ。
こんなエッセーでも「公開する」ボタンをポチッとすると、世界中の誰かの目に偶然止まって、貴重なお時間を頂いて読んでもらっている。
必ずぼくの先には相手がいる。
人が生きていく上で、その先には人がいる。
森田さんから教えてもらったモノはこれだけじゃないけれど、人生という自分だけのストーリーには必ず誰かが関わっている、その教えが今のぼくを作っている。今回描かせてもらって、そう思えた。
また会えるかな
ここ何年もお酒を一緒に飲んでいない。相変わらず、彼の周りにはたくさんの奇人変人がいる。
人を寄せ付ける、天性の才能ってあると思う。彼はその才能の持ち主だし常に好奇心のカタマリのような人。
彼の周りにいる今の若者達と若かった自分が重なって、ちょっと眩しくも見える。森田さんは若い。きっと彼の生きる上での好奇心が若さの秘訣なんだろう。
彼がぼくに一銭も払わせない理由を話してくれた事がある。
「若い頃に、年上の人にごちそうになってたんだよ、今のぷるぽみたいにさ。で、その先輩が言ったんだよ。『俺に何か奢ってくれるよりも、お前に後輩が出来た時に、同じように奢ってやれ。それが俺に対するお礼だよ』って言われてさ。だから、本当はお前に奢りたくないけど、その人へのお礼だと思って奢ってやってんだー!バカやろー!」
後輩に対して、やっぱり同じようにしている自分がいる。で、全く同じ話をする。年上の人からこの話された人も多いんじゃないかな。
いい伝統だと思うよ。ただしい社会のいい循環。
でも、ぼくはその言葉を鵜呑みにして、森田さんに対してちゃんとした席を設けたことが無い。本当にバカだ。
だから落ち着いたら久々に連絡してみようと思う。
森田さん、久々に乾杯してくれませんかね?
ちょっと高めの美味しいワインを、そろそろ買えそうです。
とかね。
さまざまな人に出会うために旅をしようと思っています。 その活動をするために使わせていただきます。 出会った人とお話をして、noteで記事にしていきます。 どうぞよろしくお願いいたします!