赤ちゃんを守るお部屋(保育器)
保育器は、NICU(新生児集中治療室)で体温管理などを目的に使用されています。新生児は体温調節がまだ未熟で環境温度に影響を受けやすいため、低体温や高体温になりやすい特徴があります。(新生児の熱代謝について投稿予定)
□閉鎖型保育器(クベース)
閉鎖式保育器は、保温、湿度、酸素管理、感染防止、観察の役割を果たしています。
(メカニズム)
閉鎖式保育器の構造は2層に分かれています。上の層に児を収容し、下の層(本体)には温度、湿度などを制御する機械が収容されています。下の層で外気を吸い込み、酸素供給バルブ内で混合された酸素と外気がフィルタを通り、濾過されて(バクテリアフィルタを通すことにより細菌の侵入を防いでいる)、本体内に入ります。本体内に入った気体は、循環用ファンによってヒーターに送られ設定温度まで上げられ吹出口より器内(上の層)に入ります。吹出口から出た気体は、処置窓と内壁パネルの間を通り(手窓や処置窓を開けた状態にすると、保育器内の温度や湿度が保育器外へ逃げたり、生じた対流によって児の体温低下を招く)、内壁パネルを温めると共に、臥床台上を循環して、均等な温度状態を作り出します。器内に送られた気体は吸い込み口で、新たに取り込まれた酸素と外気を合流させて循環します。
この循環システムによって器内温度を保ち、輻射や対流による温度低下を防止します。
(閉鎖式保育器の技術)
室温によって保育器の壁が冷やされ、輻射による熱喪失を防ぐためにダブルウォールとエアカーテンがあります。
①温度管理の方法
温度管理の方法には2種類あります。マニュアルコントロールかサーボコントロールです。
マニュアルコントロール
器内温度を設定すると温度センサが器内温度を測定し、設定温度になるようにヒーターの出力を調整してくれる。
サーボコントロール
目標体温を設定すると体温プローブが児の体温を測定し、設定体温になるようにヒーターの出力を調整してくれる。
出生時の保育器の設定温度は多数の報告があるのでその1例を示します。
一般的には修正35週頃になり、保育器温度を30~31℃に下げることが出来ていればコットへの移床が可能とされています。
②湿度管理
閉鎖式保育器は湿度管理も可能です。早産児は皮膚が未熟であり、蒸散による熱喪失や水分喪失が起こりやすいです。そのため、湿度管理も保育器の重要な役割でもあります。上の層には湿度センサもついており保育器内の相対湿度を制御しています。湿度を設定すると、下の層にある加湿槽で水蒸気を作り加湿された空気を上の層に流して相対湿度を上昇させています。水は100℃近い温度で蒸気化されているので細菌はほぼ死滅しています。さらに、水分子レベルでは細菌を一緒に運ぶことは困難なので安心して使用できます。水は滅菌精製水か注射用水を使用することを推奨しています。
超低出生体重児は出生時には80%以上の保育器内湿度が必要です。現時点で湿度の下げ方に関しては明確な基準はないそうですが、最終的には60%まで下げていきます。
③器内酸素濃度
閉鎖式保育器では酸素濃度を設定することも可能です。酸素セルが内蔵されており、酸素投与した器内の酸素濃度をモニタリングすることができます。正しく酸素濃度を計測するために、保育器を使用する前は酸素セルの校正が必要です。(劣化や定期点検にて交換する必要もある)
保守点検
(使用前点検)
✓電源および配管は接続されているか?
✓温度・湿度の設定、酸素濃度センサ校正を行ったか?
✓加温槽に滅菌蒸留水を入れましたか?
(使用中点検)
✓処置窓のロック、手入れ窓の締め忘れがないか?
✓温度、湿度、酸素濃度は正常か?
✓加温槽の滅菌蒸留水の残量はあるか?
(使用後点検)
✓外気取り入れ口のフィルタに変色、汚れはないか?
□開放型保育器(ラジアントウォーマー)
(メカニズム)
機器上部についたヒーター(遠赤外線)で温めることで新生児の熱損失を抑えることができます。クベース同様、体温モニタリング機能も備えています。
ベットが開放されているため、児を観察しやすく、処置がしやすいのが特徴です。
しかし、湿度や酸素濃度を調節できないので肌などが未熟な児に関してはあまり使用されていません。
皮膚が成熟し、不感蒸泄が比較的少ない成熟児を管理する際に用いられるています。蘇生などの処置が行いやすいですが、対流や蒸散による熱と水分の喪失が増大するため、早産児には適さないです。
保守点検
(使用前点検)
✓電源および酸素配管は接続されているか?
✓温度やヒーター出力を設定したか?
(使用中点検)
✓ベビーガードはしっかりと固定されているか?
✓ヒーターの温度は保たれているか?
□複合型保育器(デュアル)
(メカニズム)
クベースとウォーマー両方の機能を備えています。
出生直後や手術、院内での移動などで使用されています。
クベースに比べて若干大きいのと器内の気流漏れが生じるのが欠点です。
□搬送用保育器
搬送用保育器は閉鎖式保育器の一種ではあるが加湿性能はなく、酸素投与もできません。救急車やドクターヘリにて使用されています。
いつでも使用できるように加温しておくことが多いです。そのため、バッテリーの劣化も早く、1年毎での交換が必要になります。バクテリアフィルタも外気を取り込むので早い間隔での交換が必要です。
(余談)
光線療法や窓際で日差しが強い場所に保育器があると保育器の壁が温められてしまい、輻射によって児の体温が上がってしまうことがあります。保育器には空気を温める機能はあるが空気を冷やす機能はないです。そのため、保育器内を30℃以下に調節することが難しいとされています。このような保育器の温度調節の特徴を把握し、中性温度環境を念頭に入れ、新生児の正常体温とされる(直腸温度)36.5~37.5℃となるように管理していきます。
(その他機能)
(参考)
・周産期医学vol.51 No.10,新生児医療におけるME機器 正しい使い方とトラブルシューティング:特集 保育器(東京医学社)
・完全版新生児・小児ME機器サポートブック:第2章治療のための機器 ②保育器(松井晃・メディカ出版)
・ナースのためのME機器マニュアル第2版,Ⅱ病院内で使用するME機器.呼吸を助ける機器:21保育器(閉鎖型、開放型、複合型) (医学書院)
あかちゃんまん👶🍼(あか座)
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