少年鑑別所における行動観察の記載に関する一考察〜医療業界で使われる記録方法を参考に〜
※ある法務教官からのもらいもの。
その方曰く、何年も前に考えたもので、正式にどこかに発表されたものではありません。
そのため実際に使われているわけではなく、こうできないかなーというあくまで個人的考えです。どこか正式な機関に承認をもらっているものでもありません。記載内容に間違いがあった場合は全て個人の責任となります。
…とのことです。公開は御本人に了承得てますが大丈夫かな??ヤバそうならご指摘ください。
1 はじめに
少年鑑別所の鑑別部門で勤務する法務教官(以下「観護教官」という。)の専門性が何なのかということについては,昭和 24年1月に全国49の少年鑑別所が一斉にスタートしてから60年以上経過した現在(これが書かれた時点)においても各人によって受け止め方が違うというのが現状ではないだろうか。これは,若手の少年鑑別所の観護教官に「先輩職員に聞きたいこと」というアンケートを行うと「観護教官の重要性を高めるために何が必要なのか。」 、「少年鑑別所では,原則処遇を行わないが(※),少年とどう関われば非行を改善できるのか。」 といった質問があることからもうかがえる。
※ 本来、「処遇」はたんに「やっていること」と置き換えられるもので、処遇をしていないという質問自体が??。この当時「処遇=教育」と考えている方もいたよう、という話です。
その中で,筆者は,昭和50年頃に開催された「少年鑑別所における最近の問題」として座談会において 当時関東医療少年院の分類保護課長が述べている「(少年鑑別所は,)野球のチームで言えば,1番とか2番。「リードオフマンとしての仕事を伸び伸びとやっていただきたい(「刑政」第 86巻(昭和50年)第1号より抜粋。)」 という言葉が観護教官の専門性を表していると考えている。
では,具体的に観護教官がリードオフマンとして行っていることは何かというと,「行動観察」であろう。
しかし,これまでは,内容を充実させようと努力すると,結果として読みにくいものになるとしづ矛盾を抱えていた。栄養価の高い食事であっても口に合わず食べられることがなかったら意味がないように,どれだけ思いを込めて記載しても,読まれることがなければ役には立たないのである。そこで,見てもらえる,見たくなるような記録の方法はないだろうか,そう考えているときに応用できるのではないかと考えたものが,医療業界で使われている「 POS(ピーオーエス)」による診療記録となる。
POSとは,「Problem Oriented System」の頭文字を取ったもので,アメリカの心臓専門の内科医の教授であるウィード(Weed,L)によって1968年(昭和43年)頃に始められた診療記録の新方式によるシステムであり,日本では昭和46年( 1971年)頃に聖路加看護大学の日野原重明医師が紹介を始めたものである。
POSの理念は,「患者志向・問題志向」と「チーム医療」の二つの柱とされるが,筆者は,「患者」を「少年」に,「医療」を「処遇・鑑別」に置き換え,この理念とともに記録方法を少年鑑別所に取り入れることができないかと考える。
2 POSによる経過記録
POSの構成は, i )基礎データ,ii)問題リスト, iii)初期計画, iv)経過記録及び v)退院時要約の五つであるが,このうちの経過記録が POSの一番の特徴であり,少年鑑別所の行動観察に応用できるのではないかと考える部分である。
POSの経過記録は,四つの項目に分けて書くという一定の形式によって記載される。これを「 SOAP(ソープ)」と呼ぶ。 SOAPとは,「 S:Subjective (自覚的症状)」,「O : Objective (他覚的所見)」,「A : Assessment (感想・判断)」及び「 P : Plan (方針)」の頭文字を取ったものである。
具体的な説明に入る前に,田邉研二・吉田文子(1994)が「精神科POSの手引」に示している例により,S及びOの記載例を示す。
( 1 )従来の経過記録
廊下の壁に向かつて両手を差し出し手先を振っている。 トイレに行くもいつまでたっても出てこないため見に行くとトイレの中でぼんやり立っている。介助で部屋に誘導するも,どこへ行けばよいのか分からないんですと小声で言われ,同一場所をぐるぐる回っている。点滴する旨を説明するも,理解できないのか行動にまとまりがなく,室内を徘徊したり,死んだ人が・・・など意味不明のことを口にしたりする。表情すぐれず,イライラしていけない。
何とかしてほしいと訴え,○○を注射施行する。指示の点滴施行。昼食拒否。
(2) SOAP形式の経過記録
S)どこへ行けばよいのか分からないんです。
死んだ人が・・・
イライラしていけない。何とかしてほしい。
0)廊下の壁に向かって両手を差し出し手先を振っている。 トイレに行くもいつまで立っても出てこないので,見にいくとトイレの中でぼんやり立っている。介助で部屋に誘導するも,同一場所をぐるぐる回りながら,点滴の説明も理解できず行動にまとまりがない。表情すぐれず。昼食拒否。指示の点滴施行。○○注射施行。
以上は,精神科で記載された経過記録を機械的にSOAP形式に書き換えただけのものであるので AやPは記載されていないが,このSとOを分けて記録することに POSの「患者志向」が表れている。なぜなら,Sを書こうと意識するならば,患者の訴えを聞かないと書けないからである。そのため,自然と患者と接触できていないことに気付くことができ,患者の声に耳を傾ける習慣が付いてくるとういわけである。
少年鑑別所においても,ややもすると寮内が落ち着いていれば問題なしとするような考えに陥り少年一人一人の悩みや心配事に対する関心が薄れるといった可能性もあるため,「少年志向」は大切である。結果として「一日居室で静かに過ごしていた。」というような無味乾燥な行動観察はなくなり,より鑑別に資する行動観察の充実にもつながると考える。例えば,体調について尋ねた答えを「普通っす。」「ばっちりです。」「大丈夫です。」「特に問題ありません。」など一言記載するだけであっても,その少年の特徴がいきいきと伝わるであろう。
3 項目別記載の仕方
(1) S : Subjective
少年の発言を記載する欄である。少年の言葉のみを記載しても良いが,職員の問いに少年が答える形であれば問答形式で書いても良い。面会が来たことを告げた際の行動観察ならば,
S)親父も一緒ですか。(来てないよ。)あ一良かった。
などである。少年の語り口をそのまま記録することを基本とするが,その記録で伝えたいことによって書き方を工夫することはあって良い。例えば,言葉遣いの特徴を伝えたいのであれば,「~っす。」「~なんじゃないっすか。」など語尾のみを記載することもあるだろう。また,記録の意図が資質鑑別の資料としてよりも疎明資料としての意義の方が強い場合は,「当番弁護士希望」など事実のみを記載することも考えられる。
(2) O : Objective
客観的に観察した事項を書く欄であり,少年の表情,態度,話し方,場面の状況などのほか,職員の行為,助言なども含まれる。要するに,我々の慣れ親しんだ行動観察がここに当たると考えて良い。
( 3 ) A : Assessment
S及びOの内容に基づき,職員の判断を記載する欄である。一見,従来の行動観察にはなく,とまどうところであるように思われるが「収容鑑別の基準について」に「印象,解釈等の主観的な記載が必要である場合には,括弧内に記載するなど,客観的な事実と区別できるよう配意する。」とあるように従来から記載することが想定されているものである。
以下,具体的にどのようなことを記載するのか幾つか例を交えて示す。
ア 少年の状態の把握と理解
少年がどのような状態なのか。どのようなことに困っているのか。なぜそうなったのか。
A)入所を予想していなかったようで状況が理解できていない様子。引き上げによる入所であるが,本日夕方から交際相手と会う予定だったとのことであり,目下 そのことが気になっている様子である。
イ 少年は何を望み どのような気持ちであるのか。
A)同室者の独り言が気になる様子。少年から特段の申し出はないが,部屋替えを望んでいるように見受けられる。
ウ 助言や働き掛けの評価
職員などの助言や処遇がどう影響したか。
A)職員を変えては同じ質問をしている。自分が安心する答えを得たいと思っている様子である。職員の助言は耳に入っていないように見受けられる。
エ 今後の見通し
今後はどのようなことが予想されるか。どのような計画が望ましいか。
A)交際相手への思いが強い。交際相手へ手紙を出しているが,返信の内容によっては心情不安定になるおそれがある。
以上の例を見て分かるように,現在でもほぼ記載されている内容である。あるいは,行動観察としては記載していないが,職員聞の申し送りでは言っている、メモを残しているということだろう。つまり POSやアセスメントなどというと全く新しいことを行うような印象を受けるかも知れないが,基本的には,今までやられていたことを整理しようということなのである。その上で,このように項目分けをするメリットは,これまで余りアセスメントに当たる部分を記載していなかった職員も書くようになることで,職員間のばらつきを軽減するということにある。
(4) P : Plan
A (アセスメント)の判断評価,考察に基づいて,今後の処遇・鑑別方針を考え,記載する欄である。この Planが, POSの理念である「チーム処遇・鑑別」の表れと言える。例えば,注意欠如・多動症が疑われる際,
P)日常場面で忘れ物が多くないか,じっとしていることが苦手な様子はないかなどに注目して行動観察に当たる。
など記載されていれば,翌日以降の職員も気に掛けて処遇するようになるだろう。また,これまでも「指示に対する理解力が低い少年であるため,丁寧な説明が必要。」など引継ぎはされていると思われるが,少年鑑別所においては,非番や週休(指定休),出張等の関係などで全ての職員がいつも顔を合わせるわけではないため,
P)他少年よりも丁寧に説明し,説明後は理解できているか確認する。
など行動観察として明記しておくことは,職員の処遇の統一のためにも有効であり,「さっき言ったでしょう。」というような少年との不要な軋轢も減らせると考える。
そして,このように可視化することのメリットは,別の機関へ記録が移った際,どのような方針で処遇・鑑別を行っていたのかが分かりやすいということにもある。このことは,少年鑑別所が保護観察所や少年院など次につなぐ機関であることから特に重要な点であると言えよう。
(5)補足
PO Sに関する書籍を読むと SOAP形式による記録を医療現場に取り入れる際に一番難しいと考えられているのはアセスメントに関する部分であることが分かる。これに関しては,少年鑑別所で取り入れる際も同じことが言えるであろう。そこで,やや繰り返しになる部分もあるが,アセスメントについて補足する。何を書いて良いのか分からないというときには,深く考えず,SとOから得た情報を見て,あるいは,実際に少年と接してどう思ったか,どう感じたかを書けばよい。少年の話を聞いて,観察して,その上で全く何も感じないということはあり得ないであろう。具体的には,「○日前に接したときよりも元気な印象。 」「審判が近いため不安な様子。」などである。また,常に断定的な記載をする必要はなく,「~か。 」「~の疑い。」,でも良いし,少年の状態が理解できなければ,「分からない。」と記載しでも構わない。後のプランにつなげれば良いのである。例えば,少年がどことなく元気がないと感じるものの,なぜ元気がないのかは分からない場合は アセスメントにはそのままを書き,必要があれば,プランとして,「元気のない理由を探る。」と記載することになるだろう。もちろん,いつも「分からない,分からない。」
では困るが,大切なのは,分からなかったことをそのままにせず,自分で勉強する,他の職員に相談するなどして分かるようになる努力をするという姿勢である。これが,SOAPにAが含まれる POSの大きなメリットとも考
えられる。分からないという事実に気付き,アセスメントをしっかり書けるようになろうと意識することが自然と少年の理解につながるのである。
4 SOAPによらない記録
上記で説明した SOA Pに基づいて,いざ,入所時の行動観察から記載しようとするとさっそく戸惑うことになる。なぜなら,入所時間や入所回数であるなどSOAPのいずれに当たるかよく分からない情報も多いからである。このようにどこに記載すればよいか分からないものは全てOに記載することで構わないで
あろうが,入所時の場合,むしろ,多くの庁で既に実施されているように入所時専用の行動観察票を作成しておくことの方が,分かりやすい記録を目指すPOSの理念に適っているであろう。また,矯正局長通達「保護室への収容について」では,被収容者を保護室に収
容したときや収容を中止した場合などに必要事項を行動観察票に記録することとなっているが,このような場合なども専用の行動観察票を作成した方が,必要事項の記載漏れをなくすという観点からも有用と考える。その他,施設の内部規則で,「要注意指定者の行動観察は 15分に1回記載する。」というようなものがある場合なども専用の行動観察票を作成することを考えて良いであろう。必
ずしも SOAP形式による記載が一番ではないのである。
5 経過記録以外のPOS
先に,POSの構成は, ⅰ )基礎データ,ⅱ)問題リスト,iii)初期計画,iv)経過記録及び v)退院時要約からなる旨の説明をしたが,経過記録以外のことに関して医療現場での内容を紹介しながら 少年鑑別所で応用できること
がなし、か考えていくことにする。
( 1 )基礎データ
患者の治療・看護を進めていく上で基礎となるデータ。項目を列挙すると,次のとおりとなる。
ア 患者のプロフィールに関すること
(ア)氏名,住所,保護義務者,連絡方法
(イ)生活歴(生い立ち,職業,学歴)
(ウ)一日の過ごし方 日常生活場面での特徴
(エ)性格,趣味,特技
(オ)身体的特徴
(カ)年金福祉
イ 家族背景に関するもの
(ア)家族構成
(イ)家族成員の状況
(ウ)家族問の関係
(エ)家族歴
(オ)家族の病気や治療などに対する考え
ウ 病歴
エ 検査所見,検査結果
これらを見ると 少年簿と重なる部分が多いことに気付かされる。医療現場においても POSを取り入れる前からほとんどあったものであるが,この中で「一日の過ごし方」というものが POSの特徴であるという。具体的には,起床及び就寝時間や食事の時間,仕事や学校に行っている時間などを記載するものであるが,これらを知ることが患者のことをより理解することにつながるというのである。これは,少年鑑別所のデータとしでもあって良い
と考える。小・中学校時代,本件非行時や逮捕前の一日の過ごし方を生活史の中に入れるのも一案であろう。
(2)問題リスト
基礎データから得られた患者に関する情報から,患者の解決されるべき問題点あるいは課題をリストアップしたもので, POSの出発点といえるものである。その内容は次の三つとされる。
ア 患者にとって解決されなければならない問題点の一覧表
イ 全人的立場からの患者の把握
ウ 治療・看護の目標となるものであり,記録の目次
本来のPOSでは,経過記録は問題リストに基づくものであり,問題リストなくして経過記録は書けないともされるものではあるが,少年鑑別所は,言わばこの問題リストを作る機関であるため,医療現場と同じようには考え
られないで、あろう。
ただし行動観察票を読みやすくするという観点から目次に当たるものを作成することは考えたい。
( 3)初期計画
入院当初に定められる計画であり,POSでは,次のとおり三つに分けられる。
ア 診断計画
イ 治療計画または看護計画
ウ 教育計画
この初期計画も教育・治療を行う施設ではない少年鑑別所にそのまま当てはめることはできないが,「収容鑑別の基準について」の中で,「収容鑑別のための調査を適切かつ計画的に行うため個々の少年ごとに,調査の実施内容,重点事項,実施時期等に関する方針を定める。」とあり,これが初期計画に代わるものと考えられる。これに関して,現在は,定めた方針を少年簿に記載する欄がないため 目次を作成の上,そこに重点事項も記載することを提案したい。
(4)退院時要約
患者が退院するとき,あるいは診療科が変わるとき,転医するときに,現在の状態の評価と主な問題点や今後の課題を示すものでサマリーとも呼ばれる。少年鑑別所では「行動観察の要約(鑑別結果通知書の第4ページ) 」がこれに当たると考えられる。退院時要約に関しては, SOAPのSを抜いたOAPの形式で記載する方が良いとする説(田邉研二・吉田文子,1994)や分かりやすいようにただの箇条書が最適とする説(林茂,1991)など様々てであるが,筆者としては「収容鑑別のための執務手引一行動観察-」において示されている「内省的態度」に関する部分を SOAPのPを抜いた形式で記することを提案する。この欄は,ほかの「入所時の状況とその後の経過」や「対入場面における行動傾向」などに比べて職員の主観によるところが大きく,何に基づいてそう判断したのかが特に分かりづらいと考えるからである。例えば,上記手引では,「内省的態度」の例として,「作文等では一見内省めいたことを書くが,内容に深まりや具体性がなく,被害者への謝罪や被害者の立場に立ったものの見方も全くない。親に関する記述においても内省的なところは見られなかった。所内生活は一生懸命にやっているが,与えられた課題をしっかりやって自分をよく見てもらおうとする構えばかりが強いように見受けられた。」と記載されているが,作文などは次の機関へ引き継がれない
ことを考えると具体的にどのような根拠からアセスメントが導き出されたのかをはっきりさせておく必要があるだろう。また,文章能力の関係で作文や日誌の内容と口頭での質問の答えに差がある少年もいるため記載物のみから判断するのではなく実際の発言を取り上げることが大切であると考える。
6 導入上の留意点
実際に制度として取り入れる際に留意したい点を幾つか挙げたい。
(1) POSのシステムそのままではなく,理念を導入しようとする
医療現場のシステムをそのまま導入することはできないし,目的ではない。
POSに何を期待するのか目的を明らかにし,その上でその目的を達成するためにできるだけ簡便で使いやすいものにする必要がある。
(2)アルファベットや片仮名を強調し過ぎない
POS, SOAP,アセスメント,プランなど横文字や片仮名を見るだけで拒否反応を示したり抵抗を覚えたりする人も少なくない。導入する際には,そのような職員がいる可能性も考え,「少年鑑別所の処遇・鑑別はいかにある
べきか」の議論から,少年志向の必要性,チーム処遇・鑑別の必要性などについて合意を形成し,そのための手段として POSというものも有用ではないかと示したい。
(3)デメリットを認識する
これまでになかったAやPなどを積極的に記載していくということからも時聞が掛かるということや紙面を使うという明らかなデメリットがある。時間ばかりが掛かるようでは長続きはしない。「時間も掛かるけどいいかも。」と思えるようメリットとデメリットのバランスを考え,可能な限り簡略化する工夫をする。ただし,導入当初は大きな問題として感じられるものであっても定着して慣れることによりほとんど問題にならなくなるということも考えられる。
(4)できることから始める
初めからきちんとしたものにしようとせず,できることから始めるように考える。例えば, SOA P形式で行動観察を記載しようとした際,どうしてもAやPが書けないということになれば,とりあえず,SとOを分けること
を意識することから始めてみるなどである。
また,職員配置や収容状況などにより,全ての少年鑑別所で一斉に開始することは難しいと考えるため,例えば,1年間の新収容人員が○名に満たない施設をモデル庁に指定して一定期間試してみるということや過去に少年院への入院歴がある少年など一部の少年についてのみ対象にするなど部分的に始めることがよいだろう。
(5)急激な変化に対する抵抗感を生まないようにする
人聞は誰しも変化に対する抵抗感を持ちやすいものである。抵抗感を減らすために導入に当たって用紙類についてはできる限り従来のものを使用し,新たな用紙の作成や変更は最小限にとどめる。定着してきたら発展段階における各ステップで新たな用紙の在り方などを検討したい。
(6)一通りのガイドラインを作成する
SOAPの各項目に何があてはまるのか,アセスメントはどう立てるべきかなど 10 0パーセントではなくてもある程度満足が得られるようなガイドラインを作ることが必要である。そうすることにより,より取り組みやすく
なるだけでなく,一定水準レベルが維持できるほか,担当者によるばらつきが少なくなり,質の向上と均質化が期待できる。
7 終わりに
POSは,日野原医師が日本で紹介を始めた当初は,医療と医学教育を考え直すーつのシステムとして,主に医師と医学生を主な対象としていたが,後に熱心な看護師を中心に広がりを見せ始めた経緯があるという。実際のところ,現在,POSを紹介する書籍は,看護師のために記載されたものがほとんどである。
POSが医療現場に大きな変化をもたらしたように少年鑑別所に大きな変化を起こす際,その中心となるのは法務技官(心理)ではなく現場の観護教官ではないだろうか。そのことを観護教官一人一人が認識し,積極的に取り組む姿勢こそ何よりも大切であろう。
なお,今回の研究をするに当たり,医療現場という異業種の取組を見てきたが,このことは,自分たちの行っている業務を改めて考える良い機会となった。
特に,医師と看護師が一体となって医療を行っている点などは,技官と教官が協力して鑑別を行うという少年鑑別所の状況と共通するものがあり参考になることが多かった。
今後,業務を振り返る際などは,このような周辺他分野について考える視点を大事にしていきたい。
引用文献
収容鑑別のための執務手引き一行動観察一, 1992 法務省矯正局
田邉研二・吉田文子(1994)精神科POSの手引.医学書院
参考文献
日野原重明(1973)POS一医療と医学教育の改革のための新しいシステムー.医学書院
日野原重明・岩井郁子・片田範子ほか(1980)POSの基礎と実践.医学書院
林茂(1991)わかりやすい POS-ナースのための使いやすい POS-.照林社