失恋忘備録
夢が醒めたら嫌だから
それだけの気持ちで、惰性でなぞった愛情らしきものに、己が求める安寧はあるのかと自問自答を繰り返しながら今の夜を迎える。
ただ祈るような、己の情欲を体良く綺麗事で片付けたような、あくまで形式的な情愛をただ抱えている。
正直な話ね、そんなものは、いらない。
私はただ愛したいだけ。
己の懐にいた可愛い子たちが健やかであればいい。
建前上そう思う中で此奴を想い、此奴の幸せと繁栄を願い、此奴が笑む日々をただ願う。
そうだ、ただの利己だ。此奴の幸せを祈り願うという体を為した、利己だ。
万が一をすれば私を共に、側に、と思わんでもない。
だが、此奴の"しあわせ"に私という存在が不相応なのもわかっているから、だから尚こそ、己なんぞおらんとも無事に幸せになってくれやと思う。
殆ど呪いに近い。
だがね、虚しいよ、虚しい。
己の目を掛けた此奴の生活に、己が尽くせるものを尽くした此奴のからだに、己が望んだ此奴の幸せに、己がおらん。
だが、それは利己だ。
己がおらんでも其奴は幸せになれるという事実がある。まぁ正直それは私にしたら無常な摂理だ。
だがね、それでいいよ。私はただ愛したいだけ。
私の愛した此奴が幸せだと。だがその場に己がおらんと。
いいじゃないの。そんなことはあってもおかしくない。
ただね、認めたくないだけよ。私がね、人間として矮小で醜くて嫉妬深いからね。
だがね、此奴の幸せを祈るのは本心さ。
私のね、全てを一瞬たりとも受けてくれた此奴に私は感謝しているよ。
だからね、こんなものなんてね、受け流して、忘れて、どうかこの上なく幸せになってほしいのよ。
わかるかなぁ、わかってよ。
賢いあんたならわかるやろ。
どうかね、どうか。
どうかあなただけはしあわせであっていて。