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浮遊。取り留めもないこと。日常の証左。

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浮遊。取り留めもないこと。日常の証左。

最近の記事

君の悪い夢も私が全部食べてあげる / 241021 / 三秋縋『君の話』

三秋さんの作品を初めて読んだのは、高校3年生の冬だったと思います。受験勉強の隙間に(あるいは勉強時間と睡眠時間を削って)私は読書をしていました。当時の私は、今思えばなんてことない、子どもにとってありがちな悩みを抱え、人生に薄ら絶望していていました。そんな中で手に取った本が『三日間の幸福』でした。 そこには私が思い描いていた理想の物語がありました。伝えたい思いが、すべてそこに書かれていました。先生の作品は美しい標本のようでした。誰もが一度は思い描いたことのある理想の世界がいつ

    • 地下鉄で泣くより車で泣くほうがいい / 241013 / 落下の解剖学

      以前映画館の予告を見て気になっていた『落下の解剖学』がPrime Videoで配信されていたので見る。真っ白な雪を背景に、倒れる男性。それを見つめる親子と思われる女性と子ども、そして一匹の犬。 この映画は2023年度のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した作品である。人里離れた雪山で、ベストセラー作家であるサンドラの夫サミュエルが転落死をする。死体発見者は、視覚障害者である息子のダニエルのみ。これは事故なのか、自殺なのか、それとも殺人なのか。 この映画をジャンル

      • 戦闘力が下がった夜に / 241004 / ソナチネ

        惑星Xへの宇宙船に乗れなかったので、全てがどうでもよくなった。この半年ずっとそのために生きていたので、本当に悔しい。そんな可哀想な自分を慰めるため、近くの映画館で仕事終わりに『ソナチネ』を観に行く。一週間限定でのフィルム上映だった。 客層のせいもあるのだろうか、始まりを待つ緊張に似た静寂と微かに香るタバコの不健康な匂いが劇場内に満ちていて、いつもとは違う何かを感じさせていた。フィルム特有の揺れや色彩の質感がどこか目新しい。少し霞がかったような、褪せた美しい沖縄の海のブルーや

        • あのときせいいっぱい生きていたもの同士 永遠に / 240601 / Tempalay Tour 2024 “((ika))”

          Tempalay Tour 2024 “((ika))”の内容を多分に含みます。 思ったこと、感じたことを、好きなように記録しておりますので、 これからライブに行く人は、ご注意ください。 誰かが書いているのを見たのだけど、Tempalayのライブは『あの世』を感じる。彼らのライブを形容するならば、この感覚が確かに一番近い。ここではないところへ連れて行ってくれる感覚。長い人生が終わって天国に向かうまでの幕間。終わりに向かう緩やかな多幸感。 焚かれたスモーク、熱気。点滅する

        • 君の悪い夢も私が全部食べてあげる / 241021 / 三秋縋『君の話』

        • 地下鉄で泣くより車で泣くほうがいい / 241013 / 落下の解剖学

        • 戦闘力が下がった夜に / 241004 / ソナチネ

        • あのときせいいっぱい生きていたもの同士 永遠に / 240601 / Tempalay Tour 2024 “((ika))”

          きっと人生は革命 / 240505 / Tempalay (( ika ))

          夜に特に理由もなく外に出た。季節外れに寒いのも、面倒なのも、いつもだったら嫌になることの全てが、どうでも良くなる。いつもの騒がしさが息を潜めた商店街。車も人も通らない横断歩道で点滅する信号。夜の色を落とし込めたような川。冷たい夜の酸素に包まれていると、何かが変わったわけではないのに、すこし自分が浄化されたような、洗練された存在になる気がする。 Tempalayのアルバム『((ika))』が先週発売された。19曲もの曲が収録された今回のアルバムは、タイトなスケジュールで製作さ

          きっと人生は革命 / 240505 / Tempalay (( ika ))

          9月1日をこえた私へ / 230902 / CLOSE

          =================== 昨日は9月1日だった。 照りつける熱が湿度が辛かった。 たくさんの視線、感情、言葉。 あの日のことをまだ全部覚えている。 =================== 友人と映画『CLOSE』を観た。ベルギーの映画で、映像がひたすらに美しかった。美しいが故に残酷で、こんなにも丁寧に「終わり」を描いた映画もきっと珍しいと思った。映画を観る時に、私たちは何かドラマを期待してしまう。現実には起こり得ない、どんでん返しのような、起伏のようなもの

          9月1日をこえた私へ / 230902 / CLOSE

          髪の色は本当は好きだ / 230826 / エターナル・サンシャイン

          夏になると、毎年「こんなに暑かったっけ?」と思う。それと同時に「寒いって、冬ってどんな感覚だったっけ?」とも思う。何度経験しても毎回新鮮に感じることができて、ちょっと面白い。朝晩が過ごしやすくなってきた気がする。きっともう少しでまた思い出す。 =================== 朝、時間に余裕があったので、ずっと気になっていた『エターナル・サンシャイン』を観る(ブルーロックの凪が好きな映画らしい)。 バレンタインを控えたある日。ジョエルは喧嘩別れした恋人がクレメンタ

          髪の色は本当は好きだ / 230826 / エターナル・サンシャイン

          君の知らない世界になったよ / 230811 リバー、流れないでよ

          高校時代のTちゃんと数年ぶりに会うことになったので、駅に迎えに行っている。新幹線口の改札から出た彼女は、良い意味で全く変わっていなくって安心したのだけれど「これ、お土産」と言って、ウシがタコを抱えたパッケージのバタークッキーを渡してきた時に、笑ってしまったのと同時に、もう彼女にとって大阪が帰る場所になってしまったのだと、少し悲しい気持ちになる。 =================== なんとなく友達と会う時は映画を観る流れになることが多くて、今回も市内にある劇場に足を運ん

          君の知らない世界になったよ / 230811 リバー、流れないでよ

          効力は続くが永遠ではない / 0717 君たちはどう生きるか

          初めて劇場で観た映画は『千と千尋の神隠し』だった。小学生の時、強烈に覚えている。今はもうなくなってしまった地元の映画館で、叔母と一緒に。 =================== 忘れられないシーンがある。 沈んでしまった街、線路。 誰もいなくなった、夜をかける列車。 =================== 子どもの時に観たあのシーンは、わたしの中に深く根を張り、日常のふとした瞬間に顔を覗かせる。遅延性の毒のように。逃げ道を作るように。 ===============

          効力は続くが永遠ではない / 0717 君たちはどう生きるか

          日曜日の足掻き

          まだ日曜日を終わらせたくなくて、地元の映画館に夜駆け込む。寂れた商店街の中にある小さな劇場の客足は疎らで、シアター内は2.3人ほどしかいなかった。自由席。赤く硬いシート。 流れてきたのは、殺し屋たちのラブストーリー。ネオンが退廃的に輝いていて綺麗だった。湿気と熱に溢れた部屋。ビデオ。雨。ハイネケン。夜のトンネル。 =================== 外はジメジメとして纏わり付くような空気が漂っていて、朝のニュースで「今年もあと半年です」と言っていたアナウンサーの言葉

          日曜日の足掻き

          いつもいつも一瞬 ひとときの愛してる / 230701 Tempalay 全国ツアー / ドォォォン!!

          Tempalay 全国ツアー『ドォォォン!!』の内容を多分に含みます。 思ったこと、感じたことを、好きなように記録しておりますので、 これからライブに行く人は、ご注意ください。 =================== 足元は朝まで降り続いた雨で濡れている空気は梅雨のジメジメした湿気をはらんでいて、気持ち悪い。如何わしい店と安っぽいネオン、広島でも有数の歓楽街のど真ん中、なんとなく感じる治安の悪さ。色んなものが溶けこんだ独特の匂い。そんな中にライブハウスはあった。 一人で

          いつもいつも一瞬 ひとときの愛してる / 230701 Tempalay 全国ツアー / ドォォォン!!

          誰かにしか手に入らないものは幸せって言わない / 230626 怪物

          ============================= ピアノの音がずっと耳に残っている。不規則で震えていてその音を聞くだけで、何か落ち着かない気分になって、立ち止まって普段は見ないふりをしていることを考えなければならないような気持ちになる。 ============================= 映画は三つの視点から描かれ、やがて一つの真実に収束する。 対岸の火事であったはずの出来事が、他人事ではなくなっていく。 視点が変わるたび、全く異なる真実が浮かび上がっ

          誰かにしか手に入らないものは幸せって言わない / 230626 怪物

          これが愛じゃなければなんと呼ぶのか / 230610 米津玄師 2023 TOUR / 空想

          米津玄師 2023年 TOUR / 空想の内容を多分に含みます。 思ったこと、感じたことを、好きなように記録しておりますので、 これからライブに行く人は、ご注意ください。 ---✟-----✟-----✟-----✞-----✟-----✟-----✟--- 米津玄師の曲を初めて聴いたのは高校の教室、放課後、友達のiPodで。流れてきたのはviviだった。もう10年以上前のことになる。 初めて行ったライブは「花ゆり落ちる」だった。それから「音楽隊」「脊椎がオパールになる

          これが愛じゃなければなんと呼ぶのか / 230610 米津玄師 2023 TOUR / 空想

          私の人生に「劇的」は起きない。

          2020年は特別な1年になると思っていた。 根拠はない。ただなんとなく。 何かが変わるような気がしていた。 2020年、世界は未曾有のパンデミックに陥った。 どこに行くにもマスクが必要になった。会いたい人に会えなくなった。延期されたオリンピックは開催したみたいだけれど、なんとなくみんなピリピリして余裕がない気がする。 夜。夏が本番をむかえたようで、横になっているだけで汗が滲む。扇風機を回してもなかなか寝付けなかったので、最近芥川賞候補に選ばれたくどうれいんさんのエッセイ

          私の人生に「劇的」は起きない。

          外に出ると思ったよりも夏だったので。

          昼。リンゴジュースだと思って飲んだら、お茶だったので少し残念な気持ちになる。今日も嫌になる程暑い。まだ始まったばかりだというのに、今年の夏も乗り越えられるか不安である。 夕方。帰りの電車に乗り込むと、学生の集団で溢れている。明日から夏休みになるところが多いようで、学生たちの顔は心なしかあかるい。「社会人になるとまとまった休みを取ることが難しくなるから、今のうちに死ぬ気で遊んでおけよ」と余計な一言をかけたくなる。 夜。最近は歌集を読むのにハマっていて、寝る前は紅茶を片手にパ

          外に出ると思ったよりも夏だったので。

          ただ忘れないでいるということ。

          最近人生が行き場をなくしているのを感じる。 なんとなくこの気持ちを忘れたくないと思ったので、noteに記録しておく。 特段ほしいものがあるわけでも、どこかに行きたいわけでも、誰かに会いたいわけでもない。けれど漠然と何かが停滞しているようなそんな感覚。 コロナ禍で約2年ほど行けていなかった祖母の家を訪れる機会があって、せっかくだからと以前住んでいた町を歩いてみた。目的の駅に着いたときに降りたのはわたし1人だけで(山間の田舎町なので1時間に1本しか電車はない)、目に入る景色の

          ただ忘れないでいるということ。