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山口昭男句集『木簡』を読む。

山口昭男句集『木簡』より、四十五句選。


塵取は土のしめりの浮寝鳥

ペン軸をくはへ裕明忌を修す

土色の顔の出てきて飾売る

少年の鉱石ラジオ日脚伸ぶ

鶏の真直ぐな首卒業す

大根の咲いて半熟卵かな

てつぺんにあきて天道虫おりる

立葵本に茶色のハトロン紙

汗の人隣の汗を見てをりぬ

エンジンの吹き出し口のねこじやらし

つかのまのねむりのふかき十二月

山眠るパンに少しの干しぶだう

木蓮や行李の中のうすき本

葉桜や卓布の上の白き布

門開いて中がまる見え源五郎

嘴の五月雨色となりしかな

合歓咲いて水の音する水枕

秋の蝶空気ほころぶところより

冬日浴ぶ校長室の眼鏡かな

家中に箱がたくさん鳥の恋

芽柳のびつしりとあるすきまかな

木簡の青といふ文字夏来る

万緑や牛の貌あるミルク罐

ひとりづつ包む九月のバスタオル

鶏頭の重たき影の並びをり

さからはぬ子規の妹烏瓜

大根に大根の葉のはりつきぬ

桃咲いて扁桃腺を切る話

体操の最後の呼吸すみれ咲く

薬の日さらりとソースかけにけり

竹林は風住むところ星祭

ふりむいて蟷螂の貌かたむいて

極月の音の大きな洗濯機

盆梅のその奥にある金庫かな

宝石の小さな値札春の風

木の中の水音はやき弥生かな

一泊の娘の蒲団合歓の花

見えてゐる水鉄砲の中の水

教室の地図の光沢草の花

麦秋や土よりはがす鳥の影

その人の母と話して天の川

やはらかく馬肉かみたる厄日かな

木星の模様やすらか返り花

桃色の鳥の蹼大試験

一本の線より破れてゆく熟柿

青磁社、山口昭男句集「木簡」より抜粋




     ・・・・・

数々の俳句誌や句会で、私のとても惹かれる句を詠まれ、優秀な成績をおさめていらっしゃる句友、押見げばげばさんに、山口昭男先生の魅力を教えていただいたのが、約ひと月前。直後、『木簡』を手にしました。

『木簡』を読んでの驚きは、「取り合わせの句の多彩さ」であります。(もちろん、一物の魅力的な句もありますが)
私自身が、もともと取り合わせがあまり得意ではないので(ついつい季語と近くなりがちで、程よい距離感が難しい)、今回は、非常に刺激的、且つ、大きな学びとなりました。

自分自身で面白いな、と思ったのは、一回目の読み、では、割と季語と近めの取り合わせに惹かれ(恐らく、私が詠みそうな句に共感を得たから)、二回目の読みでは、「おおっ!これもアリなのか」に惹かれ、三回目には、ちょうどその中間に落ち着いた、ということであります。

ですから、読み手によっては、今回の私の四十五選(無理やり、この数に収めた感あり)とはかなり違う選になるのではないかと思いますし、私自身もまた、一年後には、違う句に惹かれるかもしれません。

また、「しりとり俳句」でご一緒の、月石 幸さん(「麒麟」所属)には、西村麒麟先生が、やはり山口昭男先生の「礫」をすすめていらしたと伺ったので、そちらもまた読んでみたいと思います。

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卯月紫乃
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