ウツボカズラ・ゾンビーノ【ショートショート1000文字】
白衣の女性が、名刺を差し出した。
食虫植物研究所
ウツボカズラ・ラボ
主任 岳樺 笙子
その部屋には、無感染のAから、感染重度のEまでの人が集っている。
僕は、感染中度のDラベルだ。
令和の時代からのウィルスは、次々と新種を生み出し、その感染力を動植物にまで広げた。
感染した動植物は、種の存続を失うものもあれば、逆に、進化を進めたものもあった。
なかでも食虫植物については、感染した昆虫を蝕すことで、自らの進化のDNAを大きく変化させ、結果、巨体化し、動物までもが餌食となった。
そして、最大の食虫植物、ウツボカズラの巨体化は甚だしく、今やヒトにも、その脅威は及んだ。
岳樺笙子は、僕たちを別の部屋に誘導する。
僕は車椅子で後に続く。後ろにはストレッチャーのEがいる。
幾つかの部屋を通った後、重そうな扉が開くと、眼下に巨大化したウツボカズラがあった。
「どうぞお寛ぎください。」
そう、僕たちはここで何をしてもいい。
個別の部屋には、生活に困らないだけのものが揃っている。居心地はいい。
ただ、扉はなく、全てが透明。その中心の階下にウツボカズラが静かに佇んでいる。
契約は、10日間をここで過ごすこと。それだけだ。
報酬は僕の半年の給料に匹敵。
2日目、ベッドで点滴をしていた隣のEに変化が起こった。
自ら点滴のチューブを抜き、ベッドから降りる。恍惚とした表情で、中心へゆっくりと歩む。螺旋階段を下り、その途中でウツボカズラの口に近づくと、中を覗き込み、そして、静かにポトリと落ちた。あまりに自然な一連の動作。
次は、僕なのか?
まさか、僕はきっと平気。
また2日が過ぎた。
You Tubeも見飽きた頃、僕の鼻孔がピクッと引きつる。
僕の大好きなバニラプリンの匂い?
ベッドの周りには、いつの間にかシダが蔓延っている。
瞼が重くなる。
すると、シダの間から微かな声が聴こえ出す。
「ゾンビーノ、ゾンビーノ」
50cmほどの小柄なウツボカズラが蔓を伸ばし、僕の右手を握る。
あぁ、なんて美しいんだ。
キミが僕の手を握ってくれるなんて、光栄だよ。
「ゾンビーノ、ゾンビーノ」
うん、わかった。行けばいいんだね?
そうしたら、僕はキミとずっといられるんだね?
できたら、バニラプリンを食べたいな、キミと一緒に。
え?いいの?
ありがとう、嬉しいよ。
ああ、キミのお母さんに挨拶に行けばいいんだね?
わかったよ、喜んで行くよ。
「ラベルD、捕食完了」
岳樺笙子がキーを叩いた。
・・・・・
こちらへ参加させていただきました!
怖い系は初めての挑戦でした。
あまりゾンビではないですね💦
とりあえず、宜しくお願いいたします!