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一句鑑賞:うつくしきあぎととあへり能登時雨/飴山實


うつくしきあぎととあへり能登時雨 飴山實

飴山實句集『少長集』

季語:時雨(初冬・天文)

「あぎと」とは顎のこと。
時雨降る能登の地で、作者の眼はひとりの女性の姿をとらえます。
はじめは、傘をさすシルエットだったように思いますが、だんだんと作者との距離が狭まると、さす傘の下から覗く、その女性の顎の形に吸い寄せられます。

初冬の能登といえば、もうそこそこの寒さでありましょう。降り続く時雨は、少し強めの風もともなっていたのかもしれません。女性は、少し前屈みに傘をさして歩きます。
決して明るくはない道で、その女性の細く白い顎が際立ちます。その清楚な美しさは、作者の「時」を止めたほどだったのだと、と想像いたします。

句は、「あぎと」だけへのクローズアップ。ですが、その女性の楚々とした所作、立ち振る舞いまでもが、読み手に伝わります。
同時に、「うつくしきあぎととあへりのとしぐれ」という音から、なんともいえぬ艶めきも。

能登での震災があって、間もなく一年を迎えます。
今の私には、この句がとても美しく、同時に、哀しくも感じられます。


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私が、飴山實氏の句集に出逢えたのは、以前、南風の村上主宰に「何かおすすめの句集はありますか?」とお尋ねしたところ、ひとつが石田波郷の句集、もうひとつが、飴山實の句集であったから。

取り敢えず手に入れられたのが『辛酉小雪』。
その中には、今回鑑賞をいたしました句と少し印象が近い一句がありますので、ご紹介します。


水の香の早乙女といますれちがふ 飴山實

飴山實句集『辛酉小雪』

能登時雨の句ほど、艶やかさはないものの、代わりに、手を触れたら壊れてしまいそうな、初々しい美しさを感じることができます。

そして、両方の女性に共通なのが、凛とした美しさ。
飴山氏の感性に、とても惹かれる私です。

現在、廃版『少長集』を古書で取り寄せ中。読むのが楽しみであります。



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南風でご一緒の、五月ふみさんの企画への参加記事となります。
来週半ばには、クリスマス🎄ですね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

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卯月紫乃
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