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アプリで出会った医学部の年下男子が、セックスの時に避妊も前戯もしなかった。

アプリで出会った医学部の年下男子が、セックスの時に避妊も前戯もしなかった。

私は思った。これは性教育の敗北だ。
正しくは、家父長制のシロップに脳が浸かった、性教育を鼻で笑うおじいちゃん政治家達の作った人権もリスペクトもない教育政策の敗北だ。
聞いてる?文部科学省。
あなたに言ってるんだけど。
そして彼は男らしさに縛られ、道を歩けば必ず車道側に行きたがる。
メンズノンノのデート特集で、お願いだから道で車に轢かれる心配よりも避妊が失敗する心配をしてほしいって誰か書いてくれないだろうか。

一番むかついてしょうがないのは、避妊に失敗した時、相手が避妊してくれなかった時に、私の身体を大事にしない相手を、社会の原因の矛先を、
自分へと向けてしまうこと。

一瞬だけでも、「私が自分の身体を守る最善を尽くせなかったのが悪い」という泥と侮蔑のついたメッセージを飲み込んでしまいそうになること。
目を閉じて、最近報道でみた赤ちゃんの死体遺棄で逮捕された女性を思い出す。
1人で妊娠はできないのに、まるで彼女一人っきりで産んだかのようにニュースは流れる。

出すだけ出したあいつはどこに行ったの?
何も向き合わない。馬鹿な女だと笑われたのは、
私だったかもしれない。


私が優しくないんじゃなくて、世界が私を優しくさせてくれない。
整形と脱毛と育毛と痩身の広告と一緒に電車に揺られ、隈があるから人生が不幸なんだとでも言いたげな女性の瞳と写真越しに目が合う。
工場の検品みたいに私の身体を評価してくる社会で、一体どうやって、
自分を愛せっていうの?どうやって?

本当は怒っているというより、ずっと悲しいのかもしれない。大事な話をしたいのに、のらりくらりと対話のリングから降りて、
隣にいないあなたが悲しい。

何度も言われる「昔よりは随分良くなった」という言葉。
ジェンダー平等を目指して長い長い年月をかけて社会を変えてきた人々が編み上げた努力の恩恵を受け、彼らのたくましい背中をこの胸の中にしまって、今列の最後尾あたりで、私はなんとか踏ん張っている。

だけど時々、この途方もない道のりに疲れてしまう。22歳の私の目が白くなっても、ジェンダー平等は実現しないという確信があるから。
あとどれくらい走り続ければいい?何度バックラッシュに耐えればいい?
社会運動に参加していることを口に出した途端、「意識が高い」という薄くて見えにくい、でも硬い板のようなものを間に置かれるこの日本で。

大学1年生の頃、「生理が重くて辛い」とツイートしたら、「はしたない」と同じテニサーの男の先輩に言われた。
身体が辛くて兄に生理用品を買ってくるよう頼んだら、なぜか母親に叱られた。

毎月くる子宮の痛みを、私たちは黒いビニールバックに隠さないといけないんだって。

拝啓、あの時前戯も避妊もしなかった年下男子へ。
残念だけど、あなたが朝から晩まで勉強しても前戯も避妊もできないのは、
自分や相手を尊重する方法をまともに教えてこなかった教育のせいです。
性犯罪への処罰があまりにも軽い司法のせいです。
女の身体を紙よりも軽く扱ってきた社会のせいです。


でも、あなたがクズなのはあなたのせい。

つい最近、滋賀医科大生の強制性交事件に無罪判決が出ましたね。
私は判決が出たあの日、頭の中が真っ暗になって上手く眠れませんでした。
あなたは、どう思いましたか。
私は、いつかもしあなたが誰かに無理やりセックスを強要したり、避妊してと言われても自分の快楽を優先してできなかったとき、どこにでもいる「クズ」じゃなくて「性犯罪者」としてきっちり制裁を受けてもらいたい。

空気。なんとなく言い出せない、空気。
「私はその板のような雲のようなそれを、くちゃくちゃに丸めて言葉で抗いたい。
わきまえないって言い続けるしかない。
いつか社会に置き去りにするのはこっちだ。

(i女の新聞 第1312号 寄稿文を加筆修正)



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