見出し画像

ペザントの独り言 〜わたしたちは語ることができるか〜

この時期になると、朝起きてもまだ外は暗く、窓から入り込む風は冷たい。
空は段々と明るくなり、今日も朝日に向かって車を走らせる。時折すごくまぶしい。
まだ人気のない畑で、鳥のさえずりと、軽トラのエンジン音と、荷台で揺れあうコンテナが響く。
しばらくして、積んだ野菜を地面に下ろす鈍い音がする。
新聞紙や段ボールが擦れ合い、ハサミの音、カチカチと鳴るペンの音が行き来して、それに交差しながら、それぞれに挨拶が行き交っている。
やがてコップが触れ合う音とともに、お茶の時間が始まる。
いつもと変わらない風景。
今日もここにいると、景色や音が胸を打つ。

そして、この場所の延長には、戦争、排除、破壊、暴力、多くの生の喪失があることを思い出す。
毎日のように破壊や暴力に晒される場所と、そうでない場所は、地続きにある。
地続きに感じられないのは、分断を煽る言葉が蔓延しているだけ。

初めて出会う人達と火を囲んだ、あの日の光景から、不意に「素晴らしい世界」の歌詞を思い起こして、そしたら次の瞬間(ああ、「素晴らしい世界」っていまは言葉にして言い切れない。)と思った。
素晴らしい世界・・・今いるこの場所は確かに変わらず美しいけど、はて世界はそうだろうか。

形を変えて会えるなら
悲しみもろとも引き連れて
繰り返す時の狭間で
醒めない夢の調べ

まだこの感じは、全然言葉になっていない。
必ずしも素晴らしいとは言い切れない、総体としての世界で、閉じこもるよりは沢山の人と出会いたい。火を囲めたらなお良い。
そして社会が、世界が、いま経験していることについて、時間をかけて言葉にしたい。
そうやって、これまでの分断の言葉を塗り替えていかなきゃ、と思う。

いいなと思ったら応援しよう!