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10年ぶりに大川の風に吹かれてきた話ー天翔ける風に2023年版観劇感想



はじめに

 2013年のクリエ版以来、10年ぶりに『天翔ける風に』が帰ってくると聞いて、池袋の東京芸術劇場まで行って来ました!
 10年前、クリエでコムさん(朝海ひかるさん)とカズさん(石井一孝さん)ペアで観劇した際の印象が良い意味でとても強く残っており、音楽にも力強いダンスパフォーマンスにも、そして熱気のすごいお芝居にも圧倒されてフラフラになりながら帰路についた記憶があったので、発表時は「おぉぉぉぉ!!」と歓声を上げてたのですが、アナスタシアと時期が丸々重なってたり、自分の仕事の予定が大々的に変わったりでなかなか日程が決まらず、当日券、2階席最後列での観劇に。クリエ8列どセンターで圧倒されていた2013年とは劇場の規模も舞台からの距離も違っていたので、果たしてこの距離で今日、今の私が受け取れるものは一体どんなものだろう、とわくわくしながら着席。

以下ネタバレしています

 演出や本筋に触れながら書いています。そういうのは観た後で、という方は、ご観劇後に戻って読んでいただけると嬉しいです。

音楽

 天翔ける〜といえばあのゾクゾクさせる玉麻先生の音楽!!!印象に残る素敵なメロディは沢山ある中、一番好きなのはやっぱり二幕冒頭で倒幕ダンサーズ(と勝手に呼んでしまうのだけど多分通じるはず)の方々が歌う「時代を変えよう〜」のナンバー。2013年観劇時はあまりにもこの曲にハマってしまい、”音源無いんですか?!どこに行けば聞けますか?!”と帰宅後稽古場動画をこれのためだけに再生しまくったくらい好きなナンバーだったので、劇場で聴けた際は「お帰りー!!!」と身体中じわじわ喜びに震えました。
 英(はなぶさ)と才谷(さいたに)が大川を前に歌うメインテーマも健在で、初夏の「緑が目に染みる」隅田川を眩しく瞼の裏に浮かべながら、2階最後列にて一緒に風に吹かれるのも堪能。芸劇のチャイム(そろそろ始まるよ〜の合図)が今回この曲をアレンジしたものを使ってくれていて、開演前に「うわああああ懐かしい!!!」と嬉しくなったり。受注生産とかになっちゃうだろうけど、オルゴール風とかにしても合いそうだよなーと思ってます。結構血が飛んでぐりぐり負の部分を抉りに来る物語の中で、とても貴重な清涼感あるナンバー。

 オケ。10年も経つとかなり記憶が曖昧で、あれ、当時から三味線の方いらしたっけ…?なのですが(少なくとも舞台上にはいらっしゃらなかった記憶が…違っていたらすみません!!)、太鼓と三味線が舞台上でものすごい精度で聴かせてくださったのがめちゃくちゃ素晴らしくて、心から拍手喝采でした。  

 畳み掛けるような、野田脚本ならではのぎっしりした台詞に津軽三味線の疾走感がドンピシャにハマり、広いプレイハウスの空間をぎゅっと掴んで舞台の世界にぐいぐい引き込んでくれる力があって、実に爽快。
 太鼓も、体の前にある大小の太鼓だけでなく舞台セットを拍子木のように打ち鳴らしたりと大活躍で、舞台の呼吸を0.00何秒で感じ取って刻まれ打ち込まれる響きがずっしり2階最後列まで届き、今後劇場のサイズが許す限り是非この試みは続けてください!!!!!と思えるパフォーマンスでした。  

 公式HPによれば、津軽三味線は匹田大智さん、太鼓は辻祐さん。きっとまた他の舞台でもお見かけ出来るだろうな、とわくわく。先に観劇していた先輩が「二幕は早めに席に着いておいた方が良いよ〜」と事前にふんわり教えてくれていたので、幕間ラストの音楽とダンスの見事なパフォーマンスも自分の席から堪能でき、充実でした。

セット/舞台効果

 前回は割と直線的な上下二分割&下の階は板を回転させて屏風にしたり扉にしたりだった記憶でしたが、今回大川にかかっていたのは太鼓橋。で、橋の下は木組で割と影が多く、溜水さん家(言い方…)の屏風は可動式。
 せっかくプレイハウスだしね、と太鼓橋案には賛成でしたが、橋の下のごちゃごちゃが若干もて余されてた感があったのと、あとは可動式の屏風が2階席からは割と向こう側が見えてしまってて、おそらく客席に見せる計算はしていなかっただろうだけに惜しかった感。。。うーん、2階最後列だけなのか、他の皆さんは気になってなければいいけど、基本注釈付きじゃない限り、劇場のどの座席に座っても狙った画が視えるようになっている筈、と期待してしまうのでもやもや。屏風を高くすれば良かったのかな。。。左官屋の壁と屏風を兼ねてたせいなのかそうじゃ無いのか、道楽に湯水のように金を使える悪趣味な(って設定だったはず)溜水邸の屏風にしてはなんだかみすぼらしい印象に見えてしまったのも若干気がかり。2階席からだとライトと相性悪かったのか、1階席で見ると違うのか。。
 照明が様々に床に模様を生み出していくのは2階からの眺めが大活用できとても美しく楽しめました。

 今回一番視覚的に印象に残ったのは、龍馬が「宝石箱」をひっくり返すシーン。かなり長い時間、きらきらと本当に美しい金の紙吹雪が静かに上空から降ってきて、時が止まっているようで。2階奥からは見事に一枚画として正面に幻想的な景色を収めることができ、ただただ見惚れました。

衣装

 2013年版に比べてだいぶカラフルに振ったなぁという印象。
 暗闇に浮かび上がる赤い彼岸花みたいだったクリエでの衣装(黒地に濃い赤の刺繍)から一転、今回の英は白と赤でかなり華やか。塾での紅一点だもんね!!というのと、割と黒や暗い色多めの舞台だったのもあり、よく映えて納得。珠城さんの、背の高いすらっとしたシルエットと相まって、出てくる度に大輪のユリの花が現れるよう。
 才谷も、かなり暗めな色だったところから、鈍く青緑に輝くライダースジャケット的なトップスに刷新されていて、おぉぉこれはこれで新鮮で素敵かも!と。
 塾生ダンサーズの衣装は、最初こそ学ランだったものの、途中からええじゃないかチームがお堀の周りを駆け回る二幕からはかなりスタイリッシュな赤白になっていて、え、いいのかこんなかっこよくて、え、この実行力に欠けてただひたすら他力本願な群集心理の塊として描かれる彼らがこんなかっこよく見えてしまっていいの?!とどきどき。プログラム買わないで帰って来てしまいましたが、細部まで見てみたかった!

俳優さんあれこれ

 2013年版の印象があまりにも強いので、どうしても比較せずにはいられないのを先に断っておきます。読んでくださる方の望むようなフレーズでは無いかもしれないですが、一観客の率直な呟きとして下記いくつか:

志士ヤマガタ

 一幕終わる前から何度も「誰あの子!!!名前は何?!」となった筆頭が、原嘉孝さん。おそらく今回my初見。めーちゃーくーちゃーいーいー声ーーーー!!!で、しかもダンスがきっっっっちり踊れて爽快(元来私はダンサーさんが好きです)。ええじゃないかチームのリーダーとしてのカリスマ性にも説得力あり、「思想」の元に盲目的に突っ走る、若さを持て余した危うさや、群れの中で頭ひとつ飛び出して知恵が働いていそうなところもしっくり。え、絶対他にも出てる筈、と今更ながら調べたら舞台作品も色々受けてくださってるようなので、今後別の作品でも観るのが楽しみな俳優さんがめでたく1人増えました。

才谷梅太郎

 清涼感と清潔感で良い意味でカルチャーショックを与えてくれたのが、才谷の屋良朝幸さん。こちらも舞台で拝見するのはおそらく私は初。ポスタービジュアルでの印象と真逆で(ポスター初めて見た時、え、才谷なんか役柄変わっちゃったの?!って思うくらい記憶にある印象と違ってびっくりだった/謝先生のコンセプトでもちろん撮ってるのだろうけど)、ちゃんとおおらかで、どんな目的のためだろうが血が流れるのは良しとしない、あの作品の中で貴重な良心であり、英を包み込んで愛し救ってくれる才谷としての役割は果たしつつ、まっすぐで素直で、一生懸命感が溢れる瞬間がいくつもあって、「こういう龍馬像もあるのか、、、ありだ!!!!!」と。
 誤解を恐れず書くと、2013年のカズさん版はいわゆる「大柄でむさ苦しくて、清潔感とは無縁で、でもその荒々しさや危険な感じが絶妙に色っぽい、いかにもヤベェ奴」な龍馬像だったから(そしてそれが、私が色々な創作・作品で重ねてきた龍馬像そのものだったから)、屋良さんの、汗臭さとは無縁そうで下品な香りも無い、人をくったような雰囲気どころか澄んだ瞳が印象的な好青年才谷はかなり衝撃で、「これは令和版」と感じました。それこそ一幕で大川の風を二人が感じる場面での下ネタとか「急にどうした!どうした爽やかな龍馬よ!!!」ってこっちがそわそわしてしまうほど。
 才谷の人道的なところ、なんとか流血を回避して時代の扉を開けようとする必死さ、英を真摯に救おうとするピュアさ、最後まで彼女を疑うことなく信じ続けた友人としての面を最優先に役作りされたんだろうな、そしてそれは見事に叶ってる、という。
 ただでさえ運動量多そうなのに、二幕冒頭で東山さんと迫力のダンスパフォーマンスもされてるので「ええええええ!!!」と嬉しい悲鳴でしたが(カッコ良かった。。。身体芸術を目一杯生で魅せてくださるのとても好きです)、どうかお怪我無く走り抜けられますよう!

溜水石右衛門

 東山さんの溜水さん。溜水?!って衣装重いよね?!む?ダンスあったっけ…どうしよう思い出せない、せっかく東山さんを連れて来るのにダンスは?!え、まさかダンス封印?!と勝手に不満をもち始めてたら、バリバリ二幕冒頭で踊ってくださって、ヒャッホーとなりつつも今度は逆に心配になりました(なんなんだ私…)。。幕間のはカンパニーTシャツ(デザインシックで素敵だったー!)と袴だったけど、かなり本編でのお衣装暑いだろうし、涼しくなってきたとはいえ、どうかご無理ないといいな。。
 文句なしにごりごりな曲者担当で、黒幕全振りの東山さんいいなー、こってこてのいいなー、そして東山さんやっぱり声もいいなー、と割と冷静に浸って楽しんでいたところ、二幕後半銃を持った智と向き合う場面での、「愛してくれないのか。。。」から抜け殻のようになるのが想定していた以上に惹き込まれる時間で、心乱されました。
 作品中で最も純粋な、絶対に抵抗しないだろうとおそらく確信し、よりどころにすらしていたかもしれない智に求めていた癒しや清らかさに拒絶されて、智が、脆く儚いどころか自分が思っていたよりも強く立っているのを知って、自分が裏切り制圧していたつもりの世界が崩れてしまった溜水の、砂になって風に流されてしまいそうな儚さが辛かったです。
 時々急に関西イントネーションが出てたのって東山さんだからこその新規のアレンジかなぁ。吉野さんの時もそうだっただろうか。ピリっとさせる場面でニクい感じに効いてました。

三条智

 抜群の透明感と清らかさの智、加藤梨里香さん。2階最後列でも全く距離を感じさせないくらいたっぷりした声が、まるで綺麗な岩清水が溢れるようにこんこんと喉から歌になって解き放たれていて、あぁ美しいーーー、と浸りました。クリエ版の彩乃かなみさん然り、この役はずば抜けた透明感と歌声の美しさが求められる役ってことね、と理解。
 序盤の、夢に夢見る的なところから、二幕終わりの私を返して!と叫ぶところまでの流れも不自然な感じがなくて観やすかったです。

都司之介

 英を追い詰める警察役の今拓哉さん。これまた流石、くらくらするほどの良い声。
 一見とても良識ある、無害で職務に忠実な紳士といった風情で草履屋の情報に踊らされる姿を序盤から見せてくるだけに、とぼけた振りを重ねながらまんまと「語るに落ちる」へ英を誘導する流れでの底知れない不気味さ、終盤で英に取引を持ちかける場面での、本性剥き出しの狂気すら感じさせる凄みに圧倒されました。
 この人もこの作品の良心だったような、、、?と本編の展開を忘れて信じてしまいそうになってただけに、後半ぐるんと裏切られる怖さが際立ちました。怖かった。最初からいかにも悪い溜水さんとか、最初からいかにも二転三転長いものに巻かれてそうなお父さん役とかよりも、こういう、良心がありそうに見えてた人が実は手を汚さずに悪事を淡々と進めようとする役でした、とゆっくりじわじわ明かされて、まんまと客席で裏切られるのが好きなので、くーっ!と楽しみました。

甘井聞太左衛門

 英の父、甘井聞太左衛門。弱くて、弱い自分に嫌悪感を持ちつつも目先の明るさを求めて地を這い、生に執着しながらしぶとく生きようとする代表。どうか英が、才谷の下手人が父だと気づくことなく暮らせますように…と祈るけど、きっと無理だろうな、きっとお父さん喋っちゃうだろうな…そしたら英にはまた地獄が…と描かれていないところまで毎度ながら想像して、帰り道また辛くなっちゃったり。

三条清/おみつ

 高利貸しの老婆おみつさんと、英の母二役のウタコさん(剣幸さん)。おみつさん、本来は「殺害されたって仕方ないんだ!」という英の持論を最大限支えられるよう、憎ったらしい記号であればあるほど良いんだろうなと思うんですが、あんな短いシーンなのにおみつさんにもいろんな過去や事情や、もしかすると英たちが知らない裏での善行があるやもしれぬと思わせる雰囲気が(私から観ると)そこはかとなくどうしても滲んでいて、「あぁウタコさん。。。!!!」とエリザベート稽古場でイケコ(小池修一郎氏)がゾフィーに出したという言葉が思わず蘇りました(「あなたそれじゃただの人の良いおばさんです!!!」分かる。なんかどうしても、ピュアな悪役じゃない、隠しきれない重層的な奥深さみたいのが出ちゃう。でもそれも含めてウタコさんが私は大好き)。
 
 この二役は贋作〜の方では野田さんがされていたと聞いてなるほどね、と。清の前半はかなりコメディ担当。うーん、これだけのためにウタコさんを呼んでくるのはなんだか正直勿体無いような…と思いつつ、一方で、お母さん終盤どうなるんだっけ、と完全に展開を忘れた状態で迎えた二幕後半、英が別れを告げに清を訪ねるところがとても苦しくて、その狂ってしまいながらも口からぽとりぽとりとこぼれてくる台詞が哀しくて、今回の観劇で一番やるせない場面として刻まれました。お調子者でゲンキンで、体面ばっかり気にしてたお母さんだけど、娘や夫を大切に愛おしく思う真摯さは確かにあって、純粋に英を信じて誇りに思っているのがひたひたと伝わってきて、あぁこれを、この人を、これから驚かせ悲しませ悩ませることになるのか、という苦しさで痛かったです。

三条英

 珠城さんの退団後の作品としてはmy初観劇。ピガールのときあまりにも可憐で、全く違和感なく男女二役をやってらしたので、卒業後もあっという間に女性役として生き生きされていくんだろうなーと心配せず客席に着きましたが、才谷との身長差といい、アクションの迫力といい、きっちり「リニューアルした」5度目の再演です、と銘打つにふさわしい、新しい英を咲かせてました。鋭く尖った煌めく短剣のようだったコムさん版(今も大大大好きです、私)とはまた新たに違って、一振りで何人も敵を薙ぎ払うような、美しく磨き抜かれた鉈のような珠城さん版。
 殺陣でのキレや見栄えも健在で、視覚的にも楽しかったです。

 「彼女ならできる」、「私ならできる」、「君にならできる」、「彼女はそれを飛び越えてしまう人間だ」。理想のためなら多少の犠牲は仕方ないんだ、大きな目的のためなら必要な血は正当化されるんだ、口先ばかりで自分の手を動かさない奴らと違って、私には実行するだけの気概も、逃げ切るだけの知恵も、そして勇気もある!!!という迸る若さと思い上がり、眩しいほどの自信、同時に常にそれと離れることない良心の呵責や、発覚を恐れての焦りや恐れにずっともがき続ける役で、今はどっちの気持ちが勝ってるか、どっちに揺れてるか、割とはっきりした振れ幅で伝えるお芝居をされてるなぁ、という印象でした。自分の行いの正しさを心底信じてるわけじゃないだけに、自分から自分を守るために何度も「やれる」「できる」と、まるで頭から毛布を被るように繰り返し言い聞かせて、でも最後才谷と対峙するに至っても自分の中で才谷側(人道的な方)に回れない自分に苦しんでいて(「殺人を正当化している自分に悩まなきゃいけない筈なのに悩めない自分」そのものに悩んでいるように見える)、その慟哭が、多分これきっともっと回数を重ねるにつれてどんどんいい意味でどろっどろに(!!)これでもかと洗練されていくんだろうなぁ…と感じさせる舞台でした。
 東京でスタートする公演で、かつ東京の折り返し手前で観てしまったので、兵庫愛知と追いかける方々はどんどん研ぎ澄まされたものを楽しんでいかれるんだろうなぁ…と思い、公演の無事の開催を祈りながら応援しています。 

おわりに

 かなりダンス側に振ってリニューアルされたな、という印象だったものの、やっぱり大好きな曲たちは一つ一つ今も魅力的で、好きだーーー!!と玉麻先生礼賛で帰宅しました。
 アンサンブルの方も殺陣に群舞に旗回しにとかなりの運動量だと思うので、どなたも怪我することなく、大千穐楽まで安全に、全日程完走できますように。

 最後に、大切なお時間でここまで読んでくださった方、ありがとうございました!!

参考にしたもの

公式HP

2013年版の稽古場動画

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