明日はどっちだ?
ーハチの一刺し(上)
スズメバチに刺されると、ガラスを踏んだような痛みが走るというが、本当にそうだった。場所は義父が所有していた別宅の風呂場。湯船に浸かろうとしゃがんだところ、足の裏に激しい痛み。やがて全長3cmくらいのスズメバチが足元から這い出てきた。スズメバチに刺されるのは初めての体験で、痛みと驚きで一瞬呆然。我に返り、毎年スズメバチに刺されて死ぬ人がいることを思い出す。この先、どうなるんだ。戸惑いの中で思い浮かんだのは、アニメ『あしたのジョー』のテーマソングの一節:「明日はどっちだ?」
アナフィラキシーショック
知らないうちにスズメバチを踏みそうになり、反撃を受けたようだ。確認すると、足の裏に小さい赤い穴が空いていた。湯気が立つ心地よさそうな湯船を目の前にして、かけ湯さえすることなく、風呂場を出る羽目に。
洗面所で服を着直し、応急処置。水道から出る湯を患部にあて流しながら、爪で毒をしぼり出す。上手くできているのかは分からないが、自分でできる範囲で考えられる限りの対応を講じたつもりだ。
最も危ないのは、刺されてから1時間以内に兆候が現れるアレルギー症状。「アナフィラキシーショック」という。ひどい場合には、意識が朦朧(もうろう)とし、痙攣、意識消失、血圧低下などがあるそうだ。
小野市消防本部(兵庫県)によると、ハチに刺されて亡くなる事例は「血圧の低下と上気道の浮腫による呼吸困難」が一番多いとのこと。だが、現時点で体調は変わりない。深刻な事態は避けられたらしい。
"最悪最強の呪い"
ただ、本当に焦るのはこれからだ。太田総合病院(福島県郡山市)によると、今後スズメバチに刺されるたびに、アナフィラキシーショックになる確率がどんどん高まるという:
"スズメバチ ・ 足長バチの毒の最大の特徴は、刺された回数が増えるほど、その症状が重篤化すること。一度毒が体に入ると、体が毒を覚えており、次に毒が侵入してくると初回よりもひどい症状を発症してしまうのです。従ってスズメバチ・足長バチに刺されたのが2回目である場合、全身のかゆみ・発赤が出現してきた時点で直ちに救急車を要請してください。3回目以降のスズメバチ・足長バチ刺傷になると症状はさらに悪化し、刺されて数分のうちに血圧の低下により意識を失い、最悪の場合、心臓麻痺に陥るのです"(太田総合病院ホームページ)
まるで、スズメバチが自分の生命と引き換えに放った"最悪最強の呪い"をもろに受けたかのようだ。そう奥さんに話すと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。ただ、そのわけについては敢えて尋ねずに放置。
奥さんの渋い表情が、"異世界系ライトノベル"に出てきそうな言葉で伝えたことに対する幻滅感なのか、それとも、今後アナフィラキシーショックになりやすくなることへの惻隠の情なのかは分からないままだ。
知らないでいた方が要らぬ諍いを招かないで良いこともある。(続く)
(写真〈上から順に〉:ハチの一刺し=写真ACの素材を基にりす作成、『あしたのジョー』のオープニングテーマ=LyricsTranslate.com、風呂場のスズメバチ、キイロスズメバチだろうか=りす)