男湯の金魚
ー2021年の初湯(中)
初湯の男湯。露天風呂。先に浸かっていた高齢者と一緒に肩までしっかり湯に浸かっていた。静かだ。わずかに聞こえる注ぎ足される湯の音、屋外の雑踏の声、内風呂の水をかける響きが心地良いBGMに思える。そんな中、別の高齢者が現れ、湯に浸かってきた。やがて、その高齢者。やにわに湯船の壁の縁を掴み、うつ伏せ状態で全身を伸ばし、下半身だけ左右に揺らしだした。いわゆる「金魚運動」というヤツだ。静かだった湯が波立ち、思わず湯が口に入り、慌てて吐き出す。心の叫び:「おい、爺さん、マナーを守れ」
関連リンク(「2021年の初湯」シリーズ):「カオスとアブノーマルー2021年の初湯〈上〉」
マイスタイル
行きつけの銭湯には内風呂のほかに露天風呂がある。どこぞの温泉リゾートや温泉宿のように豪華な設備ではないが、見上げても天井がない吹き抜け感がたまらない。屋外の空気や音を感じながら、目を閉じて肩まで湯に浸かって静かに楽しむのがマイスタイルだ。
湯に波を起こす人はもってのほかだ。静寂を打ち破られ、先に入っていた高齢者と一緒に迷惑そうな表情を浮かべる。ただ、張本人はうつ伏せになっているので、こちらの表情が見えるはずもない。悪いことに、金魚運動に悦なのか、しばらく珍妙な動きを続けた。
幼い子どものようにはしゃいで水しぶきを立てるようだと注意もできる。ただ、この金魚運動が立てる波の高さが微妙だ。肩まで浸かっていると、口まで入ってきて迷惑極まりないが、胸の辺りが水面から出る程度に身体を起こすと、そこまでではない。実に微妙なラインを突いてきやがる。
救い
どうしようか悩んでいるうちに、"波の震源"は勝手になくなった。金魚運動を存分に満喫したのか、あるいは飽きたのかは知らないが、颯爽と湯船から出て内湯に戻って行った。湯船に残された高齢者と二人。視線が合い、お互いに苦笑い。どこか救われた気がした。
銭湯からの帰り道、奥さんにこの話をする。もちろん、"満点大笑い"。
(写真〈上から順に〉:露天風呂で金魚運動する高齢者〈イメージ〉=フリー素材を基にりす作成、テレビ番組『爆笑レッドカーペット』でお馴染みの「満点大笑い」=番組グッズの画像を基にりす作成)
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