溶けた火薬
まっさらな滑走路から八月の海の青さを教えてもらう
さとうきび畑ばかりの道路にも正しい距離で電柱は建つ
太陽が水平線に近づいて島の空気が濃くなっていく
夕暮れの港湾道を屋仁川へ集団下校のように歩いた
ハブ講習を終えて毒吸引器の丸い跡を何度か指でなぞった
びっしりとカズラの巻いた電柱のようにつま先ばかり見つめる
玄関から望める海のリゾート地めいた写真を家族へ送る
潮風に晒され続け錆びていく金具のように替えは利くのだ
砂浜に白い珊瑚を並べてはこうして終わりたいと思った
潮風の生まれる場所を知っている右側ばかり錆びた自転車
日焼けした腕を奄美の色と言う妹の乳白色の肌
滑走路灯をランウェイみたいだと思う 夜の奄美空港
瘡蓋は自然と剥げる 室外機の錆の欠片がベランダに散る
咲く前の花火を水に浸けていく溶けた火薬は鮮やかだった
少しずつ島の空気を吸って吐く 声を好きだと笑ってくれた
(近藤芳美賞 入選作)
奄美で過ごした三年間を短歌に残せて嬉しいです。