気まぐれで野暮

 暇を持て余して、気まぐれで野暮に、自分の短歌連作の裏側をつらつら書く。
 2021年2月の連作。


運命

1首目
「バス停に着いたらメールして」と来て「着いた」のあとの絵文字を迷う

「バス停に着いたら電話して」とメールが来て、「わかりました」のあとの絵文字を迷ったのは本当。

2首目
アパートの踊場で手を振る君に早く会いたいかかとが軽い

アパートの踊場から片手を上げられて階段を駆け上がったのは本当。階段を駆け上がるときはかかとが地面に着かないなって思った。

3首目
玄関に靴をそろえる暮らしってたぶんこういうことだと思う

玄関に靴をそろえて部屋に上がったのは本当。こういうことってどういうことだよ。

4首目
イタリアンハーブミックスふりかける魔法使いのような手つきで

イタリアンハーブミックスがそこにあったのかは覚えてない。そのとき自分が個人的にハマってたのかも。だからあんまり本当じゃない。

5首目
美しいエビの背わたの取り方を君に教えたのは誰だろう

「俺、エビの背わた取るの上手いから」と自慢されたのは本当。教えたのは意外とインターネットだったりして、知らんけど。

6首目
割り箸の尖った方が私ならもう片方は君だと思う

私が割り箸割るの下手だったのは本当。

7首目
ワンテンポ遅い私はどくどくと畳に染みてゆくハイボール

缶を倒して、畳にハイボールをこぼしちゃったのは本当。

8首目
飲み物を買い足しに行くこの道を知らずに生きる道もあったこと

コンビニに飲み物を買い足しに行くとき、近道を教えてもらったのは本当。

9首目
めちゃめちゃにふにゃふにゃだったジャムモナカ分け合う君と同期の私

嘘。ジャムモナカ買ってもないし、同期でもない。

10首目
星にでもなったつもりで赤信号瞬いていて止まってあげる

帰り道で赤信号が瞬いていて、ちゃんと止まったのは本当。

11首目
タイトルを知らないままで眺めてる映画みたいにあなたが好きだ

これは完全に場面が違って、実家で父が映画の『沈黙-サイレンス-』を観てたときだ。私は途中から父の隣の、自分の定位置に座って、なんとなく眺めてて、映画のタイトルも知らないし、ストーリーも途中からなのになんか引き込まれて、人を好きになるのってそういう感じかもって思ったりしたのよね。

12首目
それなりに酔っているって思っても真っ直ぐ歩いて帰れてしまう

結構飲んで、タクシー呼べって言われて「わかりました。」って返事したのに、歩いて帰りたくて歩いて帰った。一時間。遠かったな。

13首目
星がよく見える夜なら街路樹も私も影絵この世の中で

星が綺麗だったのよね。街灯とかなくて。車はたまにしか通らなくて、人は一人も歩いてなくて、街路樹が影絵みたいだった。

14首目
手を洗うとき口ずさむ歌があることを心にまだ持っている

手を洗うときには歌を歌うといいって教えてもらった。ハッピーバースデー・トゥー・ユー

15首目
君んちに傘を忘れたわざとではなくてそういう運命だった

運命ではなかったけど、傘を忘れたのは本当。家に帰りつく一歩手前で忘れたことに気がついて、この一首を思いついて、連作にしようって思った。

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