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吉本ばななの「キッチン」を読み始めた。本屋に行くと、読まなければならないという使命感に駆られてしまい、思わず手に取ってしまった。吉本ばななは読んだことがない。私が最近好んで読んでいるのはもっぱら江國香織だ。(友人に勧められた)
本を読んでいると、私もその世界に没入できて、現実逃避が出来て好きだった。私は幼少期から本を沢山読んだ。
「キッチン」を読んで思い出したのはSNSで見たある文章のこと。
その人は恋愛をしていても、本気で人を愛したことがなく、誰かと恋をしても「この人なら私を匿ってくれるかもしれない」という淡い期待を抱いてしまうそうだ。「私はこの人が好きなんだ」と思い込んで、愛おしく触れ合っても、大事なものを捧げても、結局みんな自分の元から離れていってしまう。その人はそんな状況から抜け出すために、マッチングアプリを始めたという。
私もマッチングアプリをやったことがあるし、人と会ったこともある。会う前からその人の趣味、性格、相性がある程度わかる仕組みだ。身長や年収、兄弟の有無さえも分かってしまう。
恋人が欲しい、なんとなくいい人がいればいいなという感情を抱えるうちに、うっすら恋人候補の取捨選択をしている。マッチングアプリなんてほぼ顔で決まる。可愛い人やかっこいい人は何もしないでもいいねが付く。
その人はマッチングアプリで自分の好きな本や音楽、映画を勧めたと言う。わざわざ「キッチン」を買って読んでくれた人もいたと。
私も江國香織を勧めたことがある。でも、いくら同じものが好きでも、会ってる間に思うことは、この人を本気で好きになれるのかなといった感情だった。
今年の春、マッチングアプリで出会った人と本を交換しあった。この私でも上手くいってるなと思ったほどであった。私は江國香織の「すみれの花の砂糖漬け」を貸した。すごく、すごく大事な本だった。その本をふと読み返すだけで心がほっとするような、大切な詩集だった。
「まだ就職先が分からないので夏まで待ってほしい」
そう言われた。この人、付き合う訳でもないのになんでアプリなんかやったんだろう、と思った。時間を無駄にした、私のドキドキを返して欲しい。そう思った。夏まで待ってられないと思ったので、SNSはブロックしてお別れした。大事な、大事な本は返して貰えなかった。
それからというものの、今後、大切な物(本やレコードなど)は本当に大事な人にしか貸さまいと思った。返してもらえなきゃ、困る。
確かに、趣味を知ることは大事だ。でも、音楽や映画、同じものが好きになったとしても、その人の中身を好きになるはずがないのだ。
「もう少し○○さんのこと知りたいです」
それって何を?趣味?性格?
私には、心底マッチングアプリのようなインスタントな恋愛が向いていないのだと思った。
もちろん、会う約束をしてデートするのは楽しみだ。でも、再び会うことがなかったり、その日限りで連絡を切られることが多々ある。実にお手軽だ。友人でも、恋人でもない。
大体、「はじめまして、よろしくお願いします!なんて呼べばいいですか?」から始まる恋愛などあるわけがない。
画面の向こうで、こんな品定めがされていると思うと涙が出てくる。
私の素敵なところはそんな「プロフィール」上だけじゃ伝わらないと思っている。
(私はそんなに自分の顔に自信が無い)
イケメンだって、可愛い子だって、例えば口が悪かったり、平気で浮気してしまうような人が溢れている。結局は顔なんかじゃない。第一印象で分類されてしまう仕組みが悔しい。(これでも身なりや服装には気をつけている方だ)
私自身、趣味や好きな食べ物が合うから好きになることがほぼない。今までお付き合いした人だって、趣味はバラバラだ。いつも中身を見てしまう。だから、中身が見えづらいマッチングアプリは私には合わないのだ。その人の中身を深く知りたい、そう思っている。価値観だとか、考え方だとか。
私の素敵なところは、みんなが気づかないだけでたくさん、たくさん秘めている。例えば、人に優しいだとか。ちょっとマイペースすぎるところとか。当たり前のように見えて、優しくすることは当たり前なんかじゃない。
前の恋人はすごく優しい人だった。(浮気されてたけど)「○○ちゃんは素敵だからきっといい人が見つかる」と言われた。なんでお前が言うんだ、こんなに優しくていい子を手放すなんて、見る目がない人だなぁと思った。
恋愛がお手軽になってしまった現代で、めげずに、私の素敵なところが伝わるように生きれるといいと思う。