
【インタビュー】ある日突然、車椅子ユーザーの妻に。私を支えてくれる人は誰?
家族で幸せに暮らしていたある日、夫が突然事故で脊髄損傷の車椅子生活を余儀なくされることになった主婦、ナツさん(30代)現在育児をしながら介助生活を送る彼女に心の内を聞いてみました。
ある日突然、車椅子ユーザーの妻に
ーーーご主人がある日突然事故に遭われて、まず不安だったことは?
ナツさん:「この人は何言ってるんだろ……。」そう思いながら、夫の状況を説明する先生の白衣のボタンをぼんやり見つめていました。
手術はいつするの?あれ?夫の職場には連絡した方がいいのかな?そうだよね、いつ仕事に行けるかわからないものね。そんなことばかりを考えていたことしか記憶がありません。事故後数か月は、退院する頃にはきっと良くなってるに違いないと信じていました。そういう幻想に縋りついていました。
でも気付いたら私は、”車椅子ユーザーの妻”を生きなければならなくなっていました。
さよなら、描いていた未来
ーーー車椅子ユーザーの妻をするにあたり、ご主人や周りの人には言えない気持ちもおありですか?
ナツさん:ありますね。ここだけの話ですが、ふとした時にモヤモヤすることはたくさんあります。夫には言えません。最近では友達の妊娠を聞いた時に気持ちがずしんと重くなりました。
自分の描いていた未来がそこにあるというのかな。
すごく仲の良い友達で、結婚するタイミング、第一子を妊娠するタイミングもすごく似ていたんです。2人で「そろそろ家を建てたいよね。」って言ってたんですけどね……。そのタイミングで夫が受傷したんです。友達はそのまま家を建て、最近第二子を授かったという報告でした。
一方の私は育児も家事も1人ですべてをこなし、加えて介助介助の生活。どこにも、誰にもぶつけられないやるせなさも感じてしまいますよね(笑)
ーーー比べる対象があるとどうしても考えてしまいますね。そんな時の発散方法は?
ナツさん:感情を噛み殺すしかないですよね。何に当たったところで解決するわけでもありません。もし誰かに愚痴って夫の耳に入ったら「自分のせいで。」ってなるだろうから口には出せません。
本当に些細なことで苦しくなってしまって、人知れず泣くことはあります。
なんとなく予感はあるんですけどね、「そろそろ心がやばい」的な。そんな時は出来る限り気分転換をしようと思うのですが、現実は甘くはありませんね。介助と子育てをしてるとそんな時間もなかなかとれません。
子どもを夫に預けてちょっとランチへ、なんてできませんからね。子どものことは私が100%担うしかありません。
ただそんな時は受傷してなければどうだっだたろう?と考えるんです。
「あ、夫は土日も仕事の日があったから結局預けてランチはいけないな」って。そう思うだけで少し心穏やかになったりもします。
私を支えてくれるのは誰?
ーーーなかなかユニークな考え方ですね。
ナツさん:正解がないですからね。自分が心穏やかになる方法を手探りしてる状態です。今は『もし障害を負ってなくてもわたしが望む子育てをしてくれなかっただろう』ということにしてます(笑)
じゃないと夫が受傷したことを責めることになりますから。私が本音を話すことで夫が苦しむことになるんです。なら私の感情を押し殺せばいい。私の人生も生活も、ある日突然変わってしまいました。
『夫を支えるのは私』世の中の全ての人がそう思っているんじゃないでしょうか。
じゃ、私のことは誰が支えてくれるのよ……なんてね(笑)
ーーー妻だって、ある日突然人生が変わった当事者であることに変わりないんですね。他のパートナーも「ここだけの話」を持ってると思いますか?
ナツさん:そりゃたくさんあるでしょうね。私も本当はもっともっと吐き出したいです(笑)ただ、それは許されません。
介助を担うパートナーの愚痴は、ただの愚痴として認めてもらえませんからね。言いにくいんです。
少しでも介助が大変だなんて言おうもんなら、色んな声が飛んできます。
「頑張って」「覚悟して一緒に居るんでしょう?」「わかっていたことじゃない」「支えてあげて」「しっかりしないでどうするの?大変なのはご主人なのよ?!」「介助が必要な人間は生きるなということなの?」
介助がイヤだって言ってるんじゃないんです。ただ、辛いものは辛い。私だって辛い。
『介助・介護は美徳』な感じがします。
語り合いたい、共有したい
ーーーすごく共感できます。介助・介護をしていると本音が言いにくくなりますよね。
ナツさん:元々私が本音を言い合う人は少ないんですが、気を遣うことが増えた感じですかね。
本音の本音は、受傷前の生活に戻りたい!ですけどね(笑)
あの頃の夫に会いたい。あの頃の生活に戻りたい。でも、それはもはやタブー化されてます。お互い決して口にすることはありません。
そう思ってるんだろううなとはよく感じますが、夫もはっきりとは言ってきません。前を向いていかないとと思ってるんでしょうね。
ーーー貴重なお話ありがとうございます。
ナツさん:こちらこそありがとうございます。同じような境遇の奥さんたちと知り合えたら気兼ねなく色んな愚痴も言い合えて、妻あるあるとか作れそうですね(笑)
でも本当に、私たちはどうしても家庭内で終わらせようとしがちになるので共感や話を聞いてくれる場所があれば良いなと思います。きっとこんな気持ちなのは私だけでないでしょうからね。
またよかったらここだけの話をさせてくださいね(笑)
まとめ
ナツさんありがとうございました。ある日突然生活が一変し、戸惑ったり苦しんだり、喪失体験をするのはパートナーもまた同じこと。周りからはケアラーであることを強要され、「一番つらいのは事故に遭った本人」という呪いをかけられ、好き勝手に励まされ、自分の気持ちを押し殺しながらケアに奔走するパートナーが多いのも現実です。
パートナーもまた、パートナーという名の当事者なのだなと考えさせられます。
事故に遭った本人のケアをしてくれる人はたくさんいるのに、パートナーをケアしてくれる人やそのサポート体制はありません。
受傷した夫が自宅に戻ってきて生活が落ち着くころに、うつ状態になるパートナーも少なくはありません。こうしたパートナーの心の拠り所を作りたい。それは私たちの思いでもあります。
みなさんはどう感じますか?ナツさんの本音は不謹慎だと思われますか?
ウィルチェアファミリーは有志で活動しています。ショップにてステッカー販売等も行っています。またブログではメンバーの体験も綴っておりますのでよろしくお願いします。
いいなと思ったら応援しよう!
