mizuki | 目端に映る短編小説

短編を書きたい人 22/8/10~22/11/17短編100日で100作投稿達成。 …

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短編を書きたい人 22/8/10~22/11/17短編100日で100作投稿達成。 島根県出身の98年生まれ 米文学研究科修士 #短編小説 #作家志望

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【短編小説】セピアのメンバー

 ふたりが君の親友になるのに、時間はそうかからなかった。きっかけはドラマサークルでの作業だった。  ふたりは個性的で、魅力的だった。  拓太は派手な見た目とは裏腹に、他人の懐にすぐに入り込めるやつだった。入学1ヶ月にして、キャンパス内を真っ直ぐ歩けないくらい友人がいた。彼に話しかける人間は、みんなタイプが違って、色々なグループに属しているように見えた。とにかく彼を嫌う人間はひとりもいないように思えた。よく、後輩たちと蚤の市に行ったり、逆に彼らとフリーマーケットをして物を売った

    • 【短編】結婚式のメンバー

      最初の一言に詰まると、僕は途端に気持ちを伝えることができなくなってしまうから、その日、僕は「おめでとう」のひとことが出てこなくなってしまった。 「かわいいね」とか、「素敵だよ」とか、「好きだよ」というひとことがいつも出ないから、僕は人生の大半を後悔と一緒に生きてきた。君が結婚するというのは、周知の事実だったし、その日が、君とふたりでワインを飲む最後の日だっていうのに、僕は、ついに思いを伝えられなかった。 「なんだか少しだけ、今日は寂しいね」と、君は言った。まるで、僕の心の家

      • 【短編小説】夏のせんたく

         コインランドリーから洗濯物を引き出すと、元カノのブラジャーが出てきた。  何一つ残っていないと思っていたけれど、それだけどうやら取り残されていたようだ。そもそも今の季節なら1ヶ月に一回しかコインランドリーには行かないから、まあ、無理もない。一人暮らしを始めてから2年、僕はまだ洗濯機を買っていなかった。単純にお金がなかったというのもあるけれど、設置をしたり、そもそも大きな買い物をするということが面倒だった。浴槽の掃除をしなきゃいけないと思うと、気も重くなった。  ブラジャーだ

        • 【短編小説】風にピアス

          「必ず読むよ、あなたの小説」 そう言って君は結婚した。相手がどんなやつだか、僕は知らなかったけれど。 大した人だと思う。その一言が聞けただけで、僕は死ぬまで書くことをやめられなくなってしまった。 チェーホフも、僕くらいわかりやすい人間ならば、それなりに可笑しく、誠実に、を僕を描写してくれるんじゃないかと思う。もう3年くらい、彼の小説を読んでいないけれど。 4月。 僕は上京した。新宿はまだ寒かった。しかし一週間後には、都民は一人残らずエアリズムを着ていた。 とにかく何もかも

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          聞こえない喝采

          「今日、登板ね。いけるか?」と監督が声をかけてくる。はい、と答えてから、ユニフォームに着替えて、たった3人しかいないチームメイトの顔を見る。楽屋には弁当の匂いと、試合開始前の選手紹介をする実況と解説の音声が響いている。10年前にプロ麻雀士として活動を始めてから、ずっと夢見てきた舞台に、私は今日、初めて登板する。 「思い切り打ってこい。これは受け売りだが、『デビュー戦は一度しかない』ってやつだよ。」と、ベテランの先輩が声をかけてくれた。 その日、私はなぜか初めて見たサッカーの

          「不器用な男だと思う。 でも、不器用にすらなれない男もいる。 男なんて…男なんて。」

          「不器用な男だと思う。 でも、不器用にすらなれない男もいる。 男なんて…男なんて。」

          【短編】カフェ、教室、それからあの頃はまっていたバンドのあの曲

           気になってしまって、翌日、僕はいつものカフェに行った。 「大切な常連さんですから、今後も来てくださいね!」と、昨日卒業した馴染みの店員さんはそう言ってくれたけど、その人がいなくなってしまったカフェは、いつも通りの賑わいを見せていたけれど、やっぱり寂しさを感じてしまう。  本当は持って帰るつもりだった。テイクアウトはほとんどしたことがないとしても、今日は、この店内にいると何も手につかないと思っていたから。でも、結局マグカップに入れてもらって、ソファ席に腰を下ろした。作業も読

          【短編】カフェ、教室、それからあの頃はまっていたバンドのあの曲

          【短編】アクシデントと受話器

           「スタッフコール!!C1!!!!!!スタッフコール!!C1!!!!!!!」  それは突然、大音量。病院のスピーカーが、こんな風に鳴り響くなんて、と僕は思った。心臓に疾患を持っている患者なんかは殺されてしまうんじゃないか? 「準備ができたら、一度ナースコールを押してくださいね。」看護師は僕に、そう言って部屋を出て行った。彼女が出て行った時、廊下で「私が行きます」と息を切らしながら走っている別の看護師が見えた。  お腹になにか、重たい石でも入っているかのようで、まだ手術の痛

          【短編】アクシデントと受話器

          新年早々、ずっと温めていた作品を投稿しようと思います。 そして、今年からは、定期的に短編を投稿し続けたいなと、考えています。とにかく描くのみ。 作品が見つけやすいように、これまでのつぶやきは一旦非表示にすることも考慮中。 本年もよろしくお願いします!

          新年早々、ずっと温めていた作品を投稿しようと思います。 そして、今年からは、定期的に短編を投稿し続けたいなと、考えています。とにかく描くのみ。 作品が見つけやすいように、これまでのつぶやきは一旦非表示にすることも考慮中。 本年もよろしくお願いします!

          「この締め切りギリギリの日々に、他のやるべきことが一気に片付いたことは幸運であった。 確かにもう余裕はないように見える。 けれども心のありようは全く反対だ。 目の前のことを慈しむべき刹那に、それを大いに許す心の余裕が生まれたのだから。」 或ることば

          「この締め切りギリギリの日々に、他のやるべきことが一気に片付いたことは幸運であった。 確かにもう余裕はないように見える。 けれども心のありようは全く反対だ。 目の前のことを慈しむべき刹那に、それを大いに許す心の余裕が生まれたのだから。」 或ることば

          「カーテンに区切られた大部屋は真っ白だった。 とても清潔な顔をしているからだろうか。 僕は自分が汚く見えた。 何日間もベッドの上にいたからだろうか。」 --或ることば

          「カーテンに区切られた大部屋は真っ白だった。 とても清潔な顔をしているからだろうか。 僕は自分が汚く見えた。 何日間もベッドの上にいたからだろうか。」 --或ることば

          「恐ろしいことがあった。 ある文章を読んだんだけど、そいつは立派なことに、歴とした学術論文として掲載されていた。 でも、『葡萄』と『季節』を間違えていたんだ。あそこには『季節』と書かれなくてはいかなかったのに。 僕はもう読まなかったよ。つまらなかったから。」 ー或ることば

          「恐ろしいことがあった。 ある文章を読んだんだけど、そいつは立派なことに、歴とした学術論文として掲載されていた。 でも、『葡萄』と『季節』を間違えていたんだ。あそこには『季節』と書かれなくてはいかなかったのに。 僕はもう読まなかったよ。つまらなかったから。」 ー或ることば

          テレビがノイズを立てている。 私は電源を消すボタンを押した。 寝転がっている夫が「なんで消したんだ。見ていたんだ。」と言う。 私には聞こえていない。 私には、夫がそう言うことがわかっていた。 私は、つまり、腕を少しも動かさずに待っていたから、効率よくもう一度ボタンを押した。

          テレビがノイズを立てている。 私は電源を消すボタンを押した。 寝転がっている夫が「なんで消したんだ。見ていたんだ。」と言う。 私には聞こえていない。 私には、夫がそう言うことがわかっていた。 私は、つまり、腕を少しも動かさずに待っていたから、効率よくもう一度ボタンを押した。

          「自由なる創造とは、運命の出会いと同様なのだよ、君。 無限のキャンバスに絵は描けないということが、ちょうど、無限の宇宙に散らばってしまっては誰とも出会いないのと同じなのだからね。」 或ることば

          「自由なる創造とは、運命の出会いと同様なのだよ、君。 無限のキャンバスに絵は描けないということが、ちょうど、無限の宇宙に散らばってしまっては誰とも出会いないのと同じなのだからね。」 或ることば

          「君は芯からその人を知ってなんかいなかった。 君は愛してなんかいなかった。 『愛している』という偶像に踊らされた、ただの小僧、小娘だ。 だから厄介なんだ。 『愛』ってのは、本物だろうと偽物だろうと、君たちを踊らせてしまうんだから。 見分けられないのさ。」 或ることば

          「君は芯からその人を知ってなんかいなかった。 君は愛してなんかいなかった。 『愛している』という偶像に踊らされた、ただの小僧、小娘だ。 だから厄介なんだ。 『愛』ってのは、本物だろうと偽物だろうと、君たちを踊らせてしまうんだから。 見分けられないのさ。」 或ることば

          「兎角何かを愛することに理由を探し出した時点で、それは仕方のないことだと諦める他ないのだから。懸命に生きなさい。」 或ることば

          「兎角何かを愛することに理由を探し出した時点で、それは仕方のないことだと諦める他ないのだから。懸命に生きなさい。」 或ることば