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梅雨を彩る“七変化”の花木 イジュ
沖縄の新聞「琉球新報」に毎週木曜日に折り込まれる副読紙「週刊レキオ」にて、連載「葉っぱで分かる木々明解」をたまに書いています。ご好評につき、今年度も継続することになりました。2021年4月29日号に掲載されたイジュの記事をアップします。
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4年ほど前、東京に住む人から、銀座に植えられた白い花の木の名前を尋ねられた。写真を見ると、なんと沖縄のイジュではないか。沖縄ではゴールデンウィーク前から咲き始め、梅雨のやんばるの森を白く彩る、あの木である。
イジュはツバキ科の常緑高木で、奄美〜西表島に分布し、小笠原に分布する亜種はヒメツバキと呼ばれる。本島中南部に住む人に馴染みが薄いのは、この木が石灰岩地には育たないためで、沖縄市以北の山地に行けば普通に生えている。
そのイジュが、内地の都会で緑化樹として植えられ始めているのである。東京ディズニーランドにも植えられているようだし、筆者も神戸市の三宮でイジュを見かけて驚いたことがある。沖縄では町中に植えられることはまれだが、梅雨の花木としてもっと活用してほしい木だ。
ところでこのイジュ、花が咲いていればすぐ分かるけど、葉だけだと見分けにくい木の代表種。ギザギザのある長い葉が、枝先に集まってつくことが特徴だが、細い葉、短い葉、ギザギザのない葉など、葉の形に変異が多い上、樹皮も網目状に裂けたり、縦に裂けたり、ほとんど裂けなかったりで、植物調査のプロもよく悩まされるのだ。
筆者らはこれを「イジュの七変化」と呼んでいる。イジュと間違えやすい木といえば、タブノキ、ホソバタブ、オキナワウラジロガシ、アマミアラカシ、マテバシイ、ヤマモモ、ホルトノキなど、優に7種は挙げられる。
もっと簡単に見分けるには、果実を探すといい。茶色で丸く、種子を飛ばした後も枝に長く残り、木の下にもよく落ちているので、見つけやすい。どんぐりやイルカンダのタネと並ぶ、沖縄の森のおみやげとしてもいかがだろうか。
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沖縄の木の見分け方や特徴を詳しく知りたい方は、沖縄の自生樹木全種を収録した拙著『琉球の樹木』(文一総合出版)もぜひご覧ください。