Morisawa Fonts| ロゴデザインのお話
こんにちは、ジャガーです。
このたび、株式会社モリサワ様の新サービスのロゴデザインを担当いたしました!
今回は、そのデザインプロセスについて書いてみようかと思います。
お時間があればぜひ読んでみてくださいー。
ぼくとモリサワとフォント
モリサワ様が、これまで提供されてきたサービス「MORISAWA PASSPORT」から、クラウド型フォントサービス「Morisawa Fonts」にリニューアルするにあたり、ロゴやタグラインを刷新されるとのことで、弊社にご依頼をいただきました。
モリサワ。そう、あのモリサワ。
デザイナーなら誰もが耳にしたことがあるであろうモリサワ。
そう、言わずと知れた、日本を代表するフォントメーカーです。
そんなモリサワのサービスロゴを作る機会がくるなんて。
18歳の自分に伝えたい
遡ること数十年前。
18歳のぼくは、デザイナーになることを夢見る芸大生でした。
当時最新だったMac G4が大学に数台あったので、IllustratorやPhotoshopをワケもわからずイジイジして、雑誌っぽい表紙を作ってみたり、商品パッケージっぽいものを作ってみたり。
あの頃の僕は”デザインにおけるフォントの重要性”などは全くもって知らず
「この太い文字使ったらなんかそれっぽくなるな」
とか
「丸っこい文字使ったらなんかかわいいな」
くらいの認識ではありました。が、これまでに出会ったことのないカタチの文字たちにワクワクしていたことは覚えています。
そして大学卒業後、デザイン事務所に就職して”フォント”というものときちんと向き合うことになるのですが、そのときに出会ったのが「モリサワ」でした。大学のMacにプリインストールされていたフォントとは違い、かっこよかったりかわいかったり、丸っこかったりトゲトゲしてたり。
とにかくたくさんのフォントたちに驚いた記憶があります。
そして、それからのデザイナー道の隣には、いつもモリサワがいました。
そしてそして、今ぼくは、そのモリサワの新しい門出に立ち会い、ロゴを作ることになったのです。
18歳の自分にこの事を伝えてあげたい。
ついでに、あんまり私服にタンクトップとか着ないほうがいいよ と伝えてあげたい。
ガチンコの戦い
さて、実際にロゴを作るにあたって、まずはじめは「コンセプト」を考えていきます。今回のサービスリニューアルで一番の目玉は「クラウド化」なので、それをロゴで表現する必要がありました。
個人的に、この序盤が本当に大変。
ロゴは何度も作ってますが、何度やってもここは時間がかかるし、精神と体力がガンガン削られます。
とにかく、思いつく限りのアイデアを絞り出して、その中から良さそうなものをピックアップして、ざっくりと形にしてみる という作業を繰り返していきます。
もう絞りカスしかでないぜ。。くらい出し尽くした結果、それらのアイデアの中から最終的に選ばれたのはこちらです。
「開かれた扉」をモチーフに、
・クラウド化により、いつでもモリサワフォントと繋がることができる。
・フォントによって、新たな世界への扉が開く。
・その扉が、頭文字のMになっている。
などといった意味がこもっています。
うん、シンプルながらも芯のある、よいアイデアとコンセプト。
ただこれ、僕のアイデアではないのです。
弊社CD「山下遼」のアイデアなのです。
弊社では、案件がスタートする際に、その案件に興味があるスタッフ全員にオリエンがあります。そして、次に集まるタイミングまでに各々がアイデアを持ち寄ってぶつけ合います。そこに役職などは全く関係ありません。CDだろうがADだろうがエンジニアだろうがデザイナーだろうが、いいアイデアを出せれば採用です。
ガチンコです。
そして今回、ロゴデザインのアイデア出しで、見事彼の案が採用されたわけです。
ぼくが負けたのではない、彼が勝っただけ。
そういう話です。
このあたりはうまくごにょごにょして、うまいこと18歳の自分に伝えたい。
そしてデザインへ
ここからはデザイナーのお仕事です。はりきって手を動かしていきます。
形状
とてもシンプルな形状ではありますが、それだけにディティールやバランスが非常に重要でした。
例えば、ドアの両サイドにあるアールの部分ですが、錯視で膨らんで見えてしまうので、ほんの少しだけ削って膨らみを抑えたり。
ロゴタイプは「Sharoa」というフォントをベースにしているのですが、全体的にラインをまっすぐに直したりもしてます。文章として組んだときの読みやすさのためにあえて少し曲線的にしているのだと思いますが、ロゴタイプとしては直線的なほうが組んだときに美しかったので調整しています。
カラー
モリサワのコーポレートカラーでもある「青」を基調にしよう ということは決まっていましたが、一口に「青」と言ってもとても幅が広い。
個人的に、青の色幅が一番広くて深いイメージがあります。
余談ですが、ぼくの長女は「碧(あお)」、長男は「蒼(そう)」という名前でして、どちらも「青色」にまつわる漢字を使っております。
絵の具などで画を描いているときも、青は他の色と混ぜても濁らず深い色になっていく印象があったので、いろんな人と交わりながら人として深い色を出してほしい という想いを込めて名付けたのですが、それくらい「青」という色には思い入れがあるわけで。
そんな幅広い青色の中から選ばないといけないわけですから、これはなかなかに大変です。
落ち着いた青・スッキリとした青・元気を感じる青・新しさを感じる青 etc…
ひとえに青色といっても、ほんとうに多様な印象の青色があるわけで。それらの中から、今回のコンセプトにマッチしそうな色をいくつか選んでいきます。
そして、選んでみた青色がRGB・CMYK・カラーチップでどう見えるのかを確認しつつ、色覚多様性に配慮したシミュレーションも行っていきます。
Photoshop上で「P型」「D型」での見え方を検証し、
・形状を認識できるか。
・色の差が意図と近く見えるか。
・受け取る印象に大きな差がないか。
を中心に確認していきました。
フィニッシュ
これらのように細かな調整も含めて、何度も何度も向き合って、やっと最終的な形に着地できたのは、アイデアを考え始めてから4ヶ月が経ったころでした。
4ヶ月といえば、産まれたばかりの赤ちゃんが寝返りできるようになるくらいの時間。
ふぅ。
そして、最終的なロゴがこちらです。
苦労したぶんだけ、かわいいぞ!!
あらためて見ても「シンプルだなー」と思いますが、コンセプトが太い分、そのシンプルさがよりロゴを強くしていると思っています。
今後、様々なメディアで展開されたときも、周りの情報に負けずにしっかりと存在感をはなってくれると信じています。
親心
さて、もちろん手塩にかけて出来上がったロゴはとてもかわいいのですが、さきほども書いたように、弊社ではアイデアガチンコ勝負をするわけで、もちろんぼくも色々とアイデアを出したわけです。
本来なら、採用されなかったアイデアは日の目を見ず、ただただこれからのぼくの糧として肥料になるわけですが、せっかくこうやって制作過程をまとめたので、少しだけでもを日を浴びさせてやれればと思います。
親心です。
1 . リニューアルした ということを強く表現
一見、山のようなロゴに見えますが、実はリニューアル前の「MORISAWA PASSPORT」のロゴを分解し、新しいロゴを形成することで、これまでの歴史も継承しながらも新たなステージに向かう姿勢 を表現してます。(いちおう頭文字の「M」になっている)
わりと飛び道具的なアイデアですが、個人的には気に入っていた案でした。
気に入ってはいたのですが、振り返って「なぜ採用されなかったか」を冷静に考えてみると、「歴史の継承」や「新たなステージ」というところしか言えておらず、「クラウド化」という今回の目玉を表現できていなかったりするので、コンセプトの強度が足りなかったのかなと反省。(以前のロゴを分解する というのも、若干ネガティブに見えるのかもしれません。)
2 . 写植を表現
モリサワの歴史は「邦文写真植字機」の発明からはじまりました。詳しくはモリサワの歴史・沿革ページを見ていただければと思いますが、すっごく簡単に言うと、日本語活字は漢字、かな、すべてが「正方形」に収まる という気づきから生まれた発明だったのです。
ということで、全てのはじまりである「正方形」をベースとしたロゴにすることで、モリサワの歴史とこれからを表現してみてます。
こちらも冷静に振り返ってみたのですが、シンプルに「TypeSquare」というモリサワのWebフォントサービスのロゴに近すぎましたね。。作ってるときは「親和性があっていいかも」とか思っちゃったりもしてました。こういう自分に言い聞かせるようなフィルターはダメなので、提案段階から削除するようにしないとですね。反省。
3 . とめ・はね・はらい で「M」を表現
モリサワといえば「豊富な和文書体」のイメージがあったので、日本語を形成する「とめ・はね・はらい」で、頭文字の「M」を作ってみた案です。
パターンとして使ったときもかわいくなるかなーと思い、展開イメージも作ってみたりしてました。
展開性やポップさ というところでは良いセンだったのかも と思いつつ、欧文書体にも力を入れているモリサワのロゴとして「和文の特徴」だけで構成するのはちょっと強引すぎたのかなと。
4 . フォントの多様さを表現
「多種多様なフォント」も、モリサワの大きな特徴のひとつ。それを表現するために、シーンによって都度ロゴの「m」が変化するバリアブルなロゴも提案しました。(これも実はぼくのアイデアではないのですが、スキなアイデアだったので紹介させてもらいました)
フォントの多様性を表現する という意味では一番芯をとらえていたアイデアではないかなと思いつつ、「どのシーンでどのフォントを使うのか」のように、主に運用面での難しさがあったのかなと。
想定される「使用シーン」と「使用フォント」の組み合わせ例を色々と提案する必要があったかもしれませんね。
などなどなど、他にも光を浴びていないアイデアはたくさんたくさんあるのですが、語りだすとキリがないので、これくらいにしておきます。
まとめ
もうこのロゴはぼくの手を離れたわけですが、ロゴに込めた「人とフォントを繋ぐ入り口」としての役割を担い、モリサワのフォントと出会う人がたくさん増えて、あの頃のぼくが受けたような刺激を届ける役割の一助になればと願うばかりです。
頑張れ、ぼくらの青い子ども!
ジャガーでした。