Vaundy × Morisawa Fonts | ミュージックビデオ制作のお話
拝啓
ジャガーです。
このたびVaundy × Morisawa Fonts「置き手紙」Font Specimen Music Videoの企画・デザインを担当いたしました!
SpotifyのCMソングとして起用された「不可幸力」を聞いたときからずっと好きで、ヘビロテしていたVaundy氏のMV制作に関わることができてすごく嬉しい〜。
なにはともあれ、まずはVaundyの新曲「置き手紙」のMVをご覧ください!
Morisawa Fontsが持つたくさんのフォントをふんだんに使い、実際の本や紙を使用したクラフト感あふれる演出。
Vaundy氏の歌声に合わせ、まるで生き物のように動く歌詞たち。
映像監督にUCHOの牧野惇さん、クリエイティブディレクターに弊社Whateverの川村真司の指揮のもと進んでいったプロジェクトなのですが、ぼくたち制作チームとしても思い入れのある大好きなミュージックビデオに仕上がりました。
魔法のようなモーションで動く、魔法の言葉
ぼくが作ったわけではないのですが、まず何よりお伝えしたいのは、ミュージックビデオに出てくるこのモーション!
青白く発光した文字やイラストが、言葉では形容できない動きで画面内を駆け巡ります。
「かっこいい」「不思議」「きれい」「おもしろい」
いろんな感情が揺さぶられちゃいます。
監督の牧野さんはこれを「クラフトモーション」と名付けられましたが、なぜクラフトなのか。
実はこのモーション、デジタル処理で作られているのではなく、アナログで動かしているのです。
パーツ毎にバラバラに分解した素材を、ブラックライトの下で動かしながら撮影し、編集で再度一つにまとめる という気の遠くなる作業にて作られています。
ぼくたちも現場で少しお手伝いしましたが、ほんとに「モノを作ってる!」感がすごかったです。楽しい現場!
他にも「うねうね動いている文字」は、黒い布に文字を印刷して下からボールを押し当てたり、指でなぞったりと、ひとつひとつのモーションが手作業で作られているのです。
だからこそのあの動き。デジタルではなかなか出せないと思います。
このあたりの制作に関して、詳しくは監督たちとVaundy氏の対談をご覧いただければわかりやすいかと!
これらの発光文字だけでなく、文字が浮かぶ・吹き飛ぶ・折りたたまれたるといったギミックや、しおりを使った演出、積み上げられていく本の小口に書かれた文字、ロトスコープ。などなど、本当にクラフト感あふれるミュージックビデオとなったのですが、そもそもなぜMorisawa FontsとVaundyがコラボレーションして「ミュージックビデオ」を作ることになったのか。
そのあたりからお話できればと思います。
フォントの魅力を伝えるために
遡ること2021年6月ごろ、株式会社モリサワ様の新サービス「Morisawa Fonts」のロゴ制作をご依頼をいただき、デザインを進めていました。
(この話は別の記事で細かく書いてますので、よろしければ)
実はその一方で、ロゴ制作と並行して、この新サービスのプロモーションのご依頼もいただいておりました。
「Morisawa Fontsというサービスが立ち上がりました!」という単なる広告ではなく、これまでフォントについて意識したことがないような層にまで「文字の魅力」や「フォントという存在」を広く認知してもらえるようなプロモーションのアイデアが求められていました。
たしかに、一般的には「フォント」ってあまり知られていない気がします。
かくいう僕も、デザイナーになるまでは、世の中にあふれている広告や看板・雑誌などを見ても「文字」として認識するだけで、その形の違いや特徴に目を向けるには至っていませんでした。
もっとフォントが世の中に浸透して、ちょっと素敵な世の中になってくれたらいいな。そんな思いでアイデアを考え始めました。
アイデアを振り返る
まずは、とにかくいろんな方向からアイデアのタネを探ってみました。はじめはあまりアウトプットイメージを絞りすぎずに、思いついたキーワードなどを思いつくがままにスケッチブックに書いていきます。
当時のスケッチブックをあらためて見返してみたのですが、色々書いてました。「森サワー」というダジャレアイデアに丸がついていたり。(フォントをイメージしたサワーを出してくれる居酒屋を作ろう みたいなアイデアだった記憶。緑茶リュウミンサワー みたいな。)
こういうのって時間が経ってから見返すと、こんなこと考えてたのか と自分の頭の中を客観視しているようで、恥ずかしおもしろ恥ずかしい。
「そのアイデアはあんまりウケないぞ!」とこの頃のぼくに教えてあげたくなります。
余談も余談ですが、アイデア帳はあまり整理して書かずに、あえてなぐり書くようにしています。きれいに書くことに意識がもっていかれて考えることに集中できないタイプのようで。決して汚いスケッチブックの言い訳ではないです。決して。
と、こんな具合で考えたアイデアの中から数案に絞って、チームMTGに持っていきました。
みんなでいろいろなアイデアを持ち寄って検討した結果、「フォント見本帳 × ミュージックビデオ」という僕のアイデアが採用に!
うれし〜!
フォント見本帳 × ミュージックビデオ
ではここで「フォント見本帳 × ミュージックビデオ」というアイデアについて少しお話させてください。
「フォント見本帳」という言葉に聞き馴染みがない方もおられるかもなので簡単に説明させていただくと、新しいフォントが出たときなど、それらが紹介された「フォント見本帳」というものがメーカーから出されたりします。もちろんモリサワさんからもたくさん出ています。
フォントの特徴や形状がわかりやすく・美しくレイアウトされている見本帳は、その魅力を伝えるのに最適なツールだと思いました。
一方で、音楽はフォントと馴染みのない世代にも幅広くリーチする方法としてうってつけなように思えたのと、歌詞がもつ意味に沿ってモリサワのフォントをあてはめることができれば、これまで以上に歌い手の心情を表現できるのでは? と考えました。
そこで、「フォント見本帳」と「音楽」という、接点のない2つを組み合わせて「フォント見本帳を使ったミュージックビデオ」というアイデアに着地させたというわけです。
ここまでくると、あとは「誰の曲なのか」が大事になってきます。
たくさんのアーティストがいる中、VAUNDY氏にお声がけさせていただきご快諾いただいたのですが、今考えても本当にこれ以上ないベストな組み合わせだったと思っています。
幅広い世代、とりわけ若い世代へのリーチ力もさることながら、彼自身が現役の美大生であったり、自身で映像編集などもされていたりと、フォントやクリエイティブへの造詣が深かったことも、今回の企画に素晴らしくフィットしていました。
なにより、冒頭でも書きましたが、以前より大好きだったぼくにとってはなにより制作モチベーションとなりました!
歌詞に合うフォントを探す
企画が決まれば、いよいよ制作の始まりです。
以前、制作に関わったミュージックビデオ「Superfly 『フレア』」などは、絵コンテも弊社で描いたりしたのですが、今回は映像監督である牧野さんががっつり描いてくださいました。
初回の絵コンテから歌詞が主体となって進んでいく流れが見えたので、ぼくたちデザイナーチームは「歌詞に合うフォント」を探すところからスタート。
まず、単語や文節などで細かく分割された歌詞の一つ一つにフォントを割りあてていきます。
このとき、その歌詞や単語の意味を汲み取りながら、それらを一番うまく表現できるだろうフォントをあてる必要がありました。
例えば「僕らの日々」という歌詞には「きざはし金陵」というフォントをあてているのですが、歌詞から読み取れる「2人の日々」を想像し、柔らかな印象のフォントを選んでいたりしています。
また、ファルセットのときは細いウェイト、力強く歌うサビなどは太いウェイトを選んだりと、歌との印象なども考えながら選んでいきました。
さらにさらに、ミュージックビデオとして単調にならないように、メリハリやリズムを考慮しながらフォントの順番を調整していきます。明朝→明朝→明朝 みたいなことにならないように という感じです。
これら全てが成立する組み合わせをひたすらに考えていきます。
あっちを立てるとこっちが立たない。こっちを立てるとそっちが立たない。をくりかえしながら、少しずつ組み立てていく作業。
結果、使用したフォント数は「77書体」となりました。
一般的に、1つのコンテンツであまり多くの書体を扱うことはなく、むしろある程度フォントを絞って使うことで世界観を統一したりすることが多いのですが、今回はそんな常識を覆すフォントボリュームです!
文字が主役の世界なので、これこそが常識なのです!
この「たくさんのフォントたち」は、映像の最後に使用フォント一覧として載せています。フォントを登場人物として見ている という粋な演出。
ちなみに、制作フェーズは弊社デザイナーの二口 航平と一緒に進めていきました。日刊タイポという、7人が日替わりで毎日タイポを制作していくという集団の水曜日担当です。爽やかなナイスガイ。
フォントを選んだだけじゃありませんよ
もちろん、他にも色々デザインいたしましたー。
冒頭に出てくる見本帳の装丁
見本帳でありつつ、曲の紹介にもなっている装丁デザイン。
一瞬しかでてこないですが、手触り感のある紙を使用し、白地に青箔・青地に白箔で印刷するなど、色々とこだわっています。
デザインよ、細部に宿れ!
見本帳を開いたときのレイアウト(一部)
上記見本帳を開いた時のページも、一部デザインしています。
見本帳であることが理解できる内容でありつつ、「あれは」や「夜だ」といった歌詞に自然と目が行くように、余白やレイアウトを意識してたりします。
こちらも、映像から見切れてしまう部分もきっちり組んでいます。
宿れ!細部に!
ラストの骸骨シーン
ラストシーン、牧野監督が描いた骸骨のイラスト周りに、これまで出てきた歌詞をそれぞれのフォントで全部入れました。
整然と歌詞が並んだデザインも作っていたのですが、勢いよく本を閉じたことで文字たちがバラバラになっちゃった というストーリーのほうが流れとして面白いかなと思い提案。こういう細かいアイデアが採用されたときも嬉しかったりします。
自分でもお気に入りのデザインです。
などなどなど、弊社デザインチームはこういったシーンに使用されるデザインを主に作っておりました。
「置き手紙」のジャケット
また、楽曲のジャケットデザインもぼくが担当いたしました。
歌詞中で象徴的に使用されている「」を、シンプルに記号的に使い、ドーンと真ん中に配置しています。
この「」の中に、男女2人のやりとりが入るのか。それとも何かしらの魔法の言葉が入るのか。この曲を聴いた人たちが想像を膨らませられる余白をもたせています。
アーティスト名も、曲名すらも入れていないストイックなデザインが、逆に存在感を放ってくれるのではないかと思っています。
Vaundy氏自身が打ち合わせでポロッと「カギカッコとか使ったら面白いかも」と言ったことにインスピレーションを受けているとかいないとか。
モゴモゴ。
これ以外にも
・MVにちなんでたくさんのフォントを使ったデザイン
・さまざまなフォントのパーツを組み合わせて曲名を再構築したデザイン
・「手紙」をアイコニックに表現したデザイン
などなど、いくつかデザイン案を考えてはいましたが、やはりカギカッコの案がシンプルでボールドかなと改めて思います。
このジャケットが、音楽配信アプリなどでたくさんの人の目に触れると思うと胸が熱くなります。
見てますか、お父さんお母さん。
ランディングページ
また、このミュージックビデオに関することは、こちらのランディングページに詳しくまとまっています!
映像を見つつ、歌詞見つつ、それらに使用しているフォントを全て見ることができます。
印象的に出てくる歌詞たちが、存在感を放っています。
このLPデザインは全て二口 航平が手掛けました。素敵!
最後に
ロゴ制作からはじまり、ミュージックビデオが出来上がるまで約1年半。
こんなにもフォントのことを考えて、こんなにもフォントにまみれたのは初めてでしたが、デザイナー人生の中で忘れられない時間になると思います。
ミュージックビデオを観てくださった方々が「フォントっておもしろい!」「文字ってこんなにかっこいいんだ!」と思っていただけることを願いながら、まとめとさせていただきます。
敬具
ジャガーでした。
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