ブチギレ歯医者さん
私は矯正治療をしている。かれこれ、いろんなことがありもう8年目になる。
大学進学を機に実家を離れたことで、どうにもこうにも終わりの見えなかった6本のゴムかけ治療をM先生に引き継いでいただくことになった。
6本ってあんまり症例を知らないから分からないけど、結構異常だと思う。
口は3ミリくらいしか開かなかったし、家中にゴムが落ちていた。
「もう、ゴム〜〜」と掃除機掛けをする母に軽く怒られていた。
でも、めっちゃつけるのは早かった。
オリンピック競技、「ゴムかけ」があればいいのにと思った。
とにかく、このM先生はおしゃべりがすごい。
え、集中して??と思うほど施術中にもペチャクチャモニャモニャ。
あんまり施術方針も説明しないしいつも事後報告。
結構やばいよね。
でもなんか信頼できるんです。
6本のゴムで押さえ込んでいた歯は、一度ブラケットオフをした後、後戻りをする事もなく、むしろ上下の噛み合わせが揃ってきた。こんなことってあるのか?
開口型なのに全く開かず、むしろ閉じてきたこの噛み合わせを見て、人間ってつくづく不思議だ、と思った。そして一辺倒の治療法じゃダメなんだなと少し前の歯医者を恨んだ。
最近また月に一回の治療に行ってきた。
同じ大学の同級生の歯科助手に歯を染め出してもらい、幻滅しながら紫色の歯を磨き、私の前に治療していた男性と入れ替わるように固いイスに座った。
友達に上から歯見られるの嫌だよね!!!!
唾液おおっ!とか二重顎〜とか思われてたら、泣いちゃうよーーーーー
でも、その子も矯正していて、治療中に剥き出しの歯をゴリラみたいに見せてくれるから、安心できるんだー。
その日は混んでいたみたいで、治療中の私の隣にうるさい男が座った。
入ってきた瞬間からその男はなんか違うと感じていた。
歯医者に来る人は、そういう法律があるかのように小さい声で話し、自分が意志を持たない人間のようであるかのように振る舞いがちである。
だからこそ、その男の異常なまでの陽気さと声量には恐れをなした。
「うっす、うっす、よろしくっす!あれ、ママいないんすかー?」
ママというのはM先生の奥さん。
この時点でこの男のヤバさを感じ取れると思う。
M先生は「ママじゃないよ笑。あんなのおばあちゃんだよ笑」と言っていた。
照れもあるのか知らないがこんな発言をする先生にも「なんこいつー」と少し軽蔑した。
2時間かけてきたらしく、誰かと話したくてたまらなかったのか、もう、すんごーく話していた。
「歯、欠けちゃってー、黄ばみもえぐいしーマジでマジでどうしましょー先生〜」
「俺、先生とママに会いにきてるんすから」
「これ今なにやってんすか!??」(これは見習うべき姿勢)
「今度彼女とこようかなー」(こんなヤツにも彼女いるのかー)
「えっもう終わりっすか??!!!!!」
2時間かけてきて、5分で終わっていた。
私が「これ5分噛んでてねー」と言われ噛み締めている間に、花火のような一方的で騒がしいトークをし、ピピピというタイマーの音で散っていった。
最初は微笑ましかったが、だんだん腹が立っていたから本当にちょうどいい時間だった。でも、先生は笑いながら応対していて、やっぱりこういう人懐っこい患者は嬉しいのかなーと思っていた。
「コーヒーでないんすか?もっと喋りましょうよー」と自動ドアまで粘りつつ、ようやく茶色い粘土みたいな顔の彼は帰って行った。
M先生は私のところに戻ってきて、ふうと一息ついて、彼が憑依したかのように話し始めた。
「俺はホストか?違うっつーの笑 そんなに話したいなら他の患者に了承を得て1時間3万円払え 2万でもいいわなア(私を見ながら優しい口調で)
ああいうのはね、ジコチューって言うんですよ。ジコチュー。
わかりますかジコチューって。彼のことですよ笑笑笑笑」
結構ひどい言われようだった。
全然楽しんでなかったんじゃん。むしろ嫌ってるじゃん。
もう、ブチギレてるじゃん。
私も距離感には気をつけよう、そう思いました。
ママ呼びが嫌だったのかなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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