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すぎた通り雨

HBの鉛筆で漢字ドリルを殴り書きしている。

宿題をやりなさいとお母さんに言われた。
言われなくても自分のペースでするのに、何でいちいち言ってくるんだろう。
めちゃくちゃむかついた。
その怒りを漢字ドリルに向けた。
嗚呼、おやつを食べてから、どんだけ経ったかな。

どれだけ綺麗な漢字を書いても、字は荒れていく。その度、鉛筆の芯が折れる。
僕は舌打ちを一つ、部屋に響かせた。

今日出された宿題。漢字ドリル1ページ分。
"早く宿題を終わらせて友達と遠くで遊びたい"

また今日も殴り書きをしてしまった。
情けない。

宿題を終わらした。何の意味があるんだろうと子供ながらに思いながら、靴べらを踵に沿わせた。
友達にと遊ぶ時くらい楽しみたかったけど、胸の中の異物感は消えなかった。

異物感を背負いながら歩む帰路、掲示板の文字がふと目に入った。

"第三水曜日休み"

スーパーのチラシだった。今日は九月の第三水曜日。家に帰ったらお母さんに「今日スーパー休みだから気をつけて。」と伝えよう。

その時、僕の中でキラキラした違和感が湧いた。

チラシに書かれた文字は、いつもなら読めない漢字だった。

今日の漢字ドリルに出た漢字が、偶然そのチラシには使われていた。

昨日まで読めなかった漢字が読める。

オレンジに変化した葉っぱのように、僕の気持ちが高揚していた。

帰ったら、お母さんにスーパーが休みなことを伝えて、僕のHBの鉛筆を全て捨てよう。

それからは2Bの鉛筆を使っている。

鉛筆の芯が折れなくなって、少し寂しかった。

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