身の置き場がないってこういうことか

確か、小学校3年生か、4年生くらいだったと思う。

父の提案で、「家族風呂」に連れていかれた。

父なりに、なんとか家族団らんをしたかったんだと思うが、
これが今思い出しても、何とも苦痛だった。

私の家族は、もう私が3~4歳、いや、きっと、生まれる前から
色んな所がガタガタで、継ぎはぎだらけで。
父も母も、未熟で幼く、他人を思い遣れない者同士が
一緒になってしまったから、さらにボロボロになっていたと思う。

そんな2人と子供が、たかが一緒に風呂に入ったところで、
何も変わることはない。

むしろ、お互いの身を委ね合えないくらいの仲なのだから、
無防備な身体を見せることなんて、苦痛だったと思うのだ。

「拒絶」という空気と、なんとか自分のために「壁を壊したい」という、
お互いを受け入れる気なんてさらさらないような気が、
そこかしこに満ちていた。

何より、私も苦痛だ。
比較的周囲の子たちより発育の早かった私は、
小2~3くらいからは、普段から1人でお風呂に入っていたし、
比較的清潔な空間やモノが好きな私は、父のことを早々に嫌悪していた。

父は外仕事で、汗をかき作業着を汚して帰ってきていたし、
タバコを吸い、パチンコに行き、身にまとってくる気も相当悪かった。
さらに、あまりきれい好きではないというか、汚いことに頓着がなく、
また女性への配慮もなく、作業着は脱ぐが肌着と下着のままで過ごしていた。

さらには、原因不明の「乾癬」という皮膚疾患にかかり、
医者には通っていたが一向に治らず、そこかしこに落屑を落としていた。
薬を塗らされることもあり、今覚えば本当に苦痛だった。

薬を塗ること自体が苦痛だったんじゃなく、何の配慮もされない上に、
どうしようもない「病」だ、と免罪符のようにされ、仕事で頑張ってきたことを敬わないと「悪いヤツ」扱いされ、あげく、「ケアしない」ことに
罪悪感を覚え込まされたのが嫌だったんだと思う。


とにかく、ココロもカラダも離れきっている夫婦と、
女性に配慮しない父親と、他人の気持ちなんて知ったことのない母親と、
性徴期を迎えて戸惑っている子供と、その3人で家族風呂なんて、
本当に身の置き場がないというか、いたたまれないというか、
恥ずかしいというか、無防備で逃げ場がないというか、
何も身にまとえないから、攻撃をモロに受けるというか、
とにかく、キツかった。とにかく、逃げ出したかった。


誰にも思いやりのない人たちだったから、
子供のことなんて一切考えていない。

そこにいるのはただの中年男性とただの中年女性で。

なんだか、物凄く気持ち悪かった。

温泉じゃなくて、建物の一室の風呂というのも、気分が悪かった。
よく、あんなところに子供を連れて行ったものだ。

私の中で、あの瞬間に、「裸」は物凄く恥ずかしいもの、
他人に身体を晒す、委ねることは「危険なこと」、
他人の身体に触れる、目線を向けることも「暴力的」なこと、
そういう、ネガティブな気持ちと思いが、繋がってしまったように思う。


なんだか、「自分の身体」も「悪者」になってしまったように感じたのだ。
何も、悪くなかったのに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?