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(連載小説)秘密の女子化社員養成所㉛~女子化研修終盤の一大事・その2~

「ねえ純子ちゃん、どうしたの?。どっか具合でも悪いの?。」

悠子たち研修生5人は最終の島外研修で訪れたショッピングモール内にあるスタバで先程から楽しそうにあれこれ他愛もない話でおしゃべりをしていた。

ただなぜか純子だけが少し浮かない表情をしているので同期の中でもリーダー格の穂波が見かねて声を掛けた。

「ううん、別に・・・・・。ただ久しぶりのお出掛けでちょっと疲れちゃったかな・・・・・。えへっ。」
「そう、だったらいいけど・・・・・。」

そう穂波が言うのを聞き、悠子たち他の研修生も純子の方を見たのだがそう言われれば今日の純子はどことなく口数も少なくて妙と言えば妙な雰囲気だと思った。

「あのね・・・・・みんな・・・・・。」
「ん?何?。純子ちゃん。」
「いやなんでもないんだけど、みんなありがとね。」
「どうしちゃったの純子ちゃん?。そんな今更改まった事言って。」
「そうよ。なんでそんな畏まった事言うの?。」

と今度はいきなりやや神妙な面持ちで「ありがと」と言い出す純子に穂波や悠子たち他の研修生もそう返していた。

「いえ、もうすぐこの女子化研修も終わりだけど、ここまであたしがなんとかやってこれたのは同期のみんなのおかげかなって思ったからね。」

と云う純子だったがそれを聞いた同期の研修生たちは「ああそう云う意味ね。でもそんな今更水臭いこと言わないで。こうして純子ちゃんがちゃんと女になれたのは純子ちゃん自身の努力の賜物よ。」とか「そうよ、純子ちゃんは自分でも頑張ったからこそ女になれたのよ。それにあたしたちも随分純子ちゃんには救われたって思ってるわよ。」と口々に言っていた。

確かに純子はこれまでまるっきり女装などには縁のない100%男性としての生活を送っていたのにこの島に連れてこられて無理矢理女子化させられる事になった。

それに当初は営業成績も抜群に良い「仕事のできる俺」がなんでこうして強制的に惨めで恥ずかしい恰好をさせられて女になんかならなくちゃいけないんだと云う思いからつい反抗的な態度を取ったりもしていたので同期の中では一番多くお仕置きをされていた。

でも穂波を中心に同期の研修生たちはお互いに励まし合ったり、時には慰め合ったりしながらこの女子化研修に向き合っていく中で純子も自分の置かれた立場と役割を踏まえたのか女子化に本気で取り組むようになってからはいつしか周りの研修生同様にすっかり女らしくなっていったのだった。

確かに純子にしてみればいきなり今日からあなたは女子社員になる為に女子化してもらいますと言われたところでそれが受け入れられる訳もなく、元々がMTFトランスジェンダーの穂波や女装経験の豊富な紗絵や涼子と比べて同期の中でもこの女子化する事に対しては他の誰よりも大変だった筈だ。

だけど他の研修生たちはこの辛く厳しい女子化研修の中で純子の持つ明るさや前向きなところに何度も救われたと感じていた。

言ってみれば純子が男の森野純平だった頃から垣間見せる例のチャラさは今でも時々顔をのぞかせるのだが、それと同じくらい営業成績がトップクラスだった事もあってか人当たりはすごくいいし、また「人たらし」みたいなところもあって人心掌握術には長けていて面倒見の良さも際立っていた。

そして同期の中では穂波は女子化に向けて模範的なところを随所で見せてみんなを引っ張っていったのに対し、純子はムードメーカー的に場を盛り上げたり困っている同期を励ましたりする役割を率先して買って出ていた。

なので随分と辛く苦しい時も多かったこの女子化研修だったが純子のおかげもあってなんとか乗り越えられたと同期の研修生は全員そう思っていた事もあり、みな口々に純子への感謝の思いを口にするのだった。

「そう?・・・・・。いやあたしなんて一番女子化から遠いポジションだったから随分同期のみんなには迷惑を掛けたんじゃないかしら?。」

と謙遜するように言う純子だったが、同期のみんなから感謝の言葉を掛けてもらって嬉しかったのか少しだけはにかむような表情も見せていた。

そんな風にお茶を飲みながらお喋りしているとあっと云う間に1時間が過ぎてしまっていたので一旦スタバでのお茶会はお開きにし、あとは時間まで各自お目当ての場所へと足を向けたのだった。

悠子は紗絵と連れ立ってモール内をウィンドーショッピングしながら散策をする事にし、久々のお出掛け・お買い物と云う事もあってあれこれ目移りしながらお店を二人で回っていた。

ただここに着いてしばらく経っているがそれにしても自分の事を見て怪訝そうな表情や態度をする人が誰も居ない事に気づいた。

「あれ?・・・・・。もしかしてあたしって、他の人からちゃんと女として見てもらってるのかな?。」

そんな事を心の中で呟いていると近くを通った男子高校生が「おっ、今の女子の二人連れって結構可愛くね?。」「だよねー。俺もそう思った。」と言いながらすれ違って行く。

「やだ・・・・・。あたしたち見て”女子の二人連れ”だの”可愛い”だなんてそんな・・・・・。」

悠子は少し恥ずかしかったがそれでも自分の事を可愛いと言ってもらい、そして初めて島以外の人からも女子として認められた事でこれからも女子としてやっていけそうな気がして嬉しくなっていた。

そんな悠子は紗絵とまるで年頃の女の子がするようにはしゃぎながら買い物を楽しみ、もうひとりの自分の指導役でもある麗子へのお土産にとミスドで何種類かドーナツを買い求めたところでそろそろ集合時間が近づいてきた事に気づいた。

そしてバスに戻る前にお手洗いを済ませておこうと「どこでもトイレ」を探しているとマルチコピー機の前で純子が何やら機械を操作している。

「ねえ純子ちゃん、そろそろバスに戻る時間だよー。」
「そうだね、これ終わったらあたしバスに戻るから先に行っててー。」

そして純子が「ちょうどよかった。はいこれ。」と何やら差し出すので手に取ってみるとそれは昨日研修所棟の中庭にある花壇の前で同期の研修生5人全員で一緒に撮った写真だった。

「あー、これ昨日みんなで撮った分だね。かわいく撮れてるじゃん。」

そこには中庭に綺麗に咲いた色とりどりの花の前で同期の研修生5人が女子制服姿で満面の笑みを浮かべているのが写っていて、どの顔からもあと少しでこの長く辛かった女子化研修もやっと終わりそうだと云う解放感からか自然な笑みがこぼれていた。

実はこの前から研修終了を控えてそれぞれが会社で預かったままの私物を少しずつ返してもらっていて、その返してもらった純子の私物の中にデジカメがあったのでそれを使って「記念撮影」をし、純子はデータの入ったSDカードを今日の島外研修にプリントアウトしようと持ってきていたのだった。

「そうだ、悠子ちゃん、この写真をみんなに渡しといてくれない?。」

と純子はプリントアウトされた写真を悠子に手渡そうとした。

「いいけど・・・・・でもどうせなら純子ちゃんのカメラで撮ったんだし純子ちゃんから渡した方がよくない?。」
「ま、いいじゃない。じゃあ頼んだわよ。」

そう言って最後の4枚目のプリントが終わって出てきた写真を純子は人数分数えて悠子に手渡すと先にバスに戻ると言い残し、そそくさとその場を後にした。

「純子ちゃんって変なの。もしかして写真渡すのが恥ずかしいのかな?。」

そんな事を思いながらお手洗いを済ませて駐車場にに戻ると何やらバスの周りが騒然としている。

見ると渚主任や教育指導部の堂園部長と云った幹部社員は皆一様にしかめっ面だし一体何があったのだろう・・・・・。

「菊川悠子、戻りました。」
「ねえ菊川さん、森野さん見かけなかった?。」
「へ?、森野さんならさっきマルチコピー機で写真をプリントアウトしてましたけど?。それで終わったから先にバスに帰るって言ってましたが?。」
「そうなのね・・・・・。」
「あの・・・・・純子ちゃんが何か?・・・・・。」

と苦虫を嚙み潰したような表情の堂園部長と渚主任に悠子が尋ねていると純子の指導役でもある杏奈と菜美が血相を変えて飛んできた。

「す、すいません!!。やっぱり森野純子は逃亡してるみたいです!!。」

その言葉に悠子は耳を疑い、また杏奈と菜美のその大きな声が聞こえたにか先に戻っていた同期の穂波、涼子、紗絵たちもバスから降りてきた。

「じ、純子ちゃんが、と、逃亡ですって?!。」
「どうやらそうみたいね・・・・・。ほら何ボヤボヤしてるの!。まだそんなに遠くへ行ってない筈だから手分けして早く森野純子を見つけて身柄を確保するのよ!!。」

と堂園部長が言うとバスに戻っていた体格のいい体育会系の社員や指導役の先輩社員が降りてきて一目散に純子を探しに走りだした。

「あたしたちも探しに行きます!!。行かせてください!!。」
「純子ちゃんが逃亡なんてあり得ません!。純子ちゃんは頑張って女になったんです。それをフイにするだなんて事は考えられないです!!。」

穂波をはじめ同期の研修生たちは懇願するように堂園部長にそう言ったが
「あなたたちは探しに行かなくていいの!。まさかこのドサクサに紛れて自分も逃亡しようとしてるんじゃないの?。」と逆に厳しく言われてしまう。

「そんな・・・・・あたしたち逃亡なんかしません。それに純子ちゃんだって逃亡なんかじゃなくて停めてあるバスの場所が分からなくなったとかで道に迷ってるだけじゃないんですか?。」

「私も正直逃亡だなんて考えたくはないけど、とにかくあなたたちはフェリーの時間もある事だからこのままバスに乗って島に帰りなさい!!。ほら!!早く乗って!!。」

そう言うとお目付け役で来ている体育会系の社員に押し込まれるようにバスに無理矢理乗せられ、その押し込んだ体育会系の社員にバスから降りないよう睨みを効かされたまま港に向けてショッピングモールを後にした。

「純子ちゃん・・・・・なんでそんな逃亡なんてするの・・・・・。」
「逃亡なんてウソだよね・・・・・あと少しで女子化研修も終わるんだから今更敢えてそんなリスクの高い事しないよね・・・・・。」

港への道すがら純子以外の同期の研修生4人はそれぞれが悠子から配られた例の5人で写っている写真を見ながら純子の身を案じつつ、そして誰もがこの長く辛かった女子化研修を経てやっと女になれてあと少しで自由の身になれると云うのに純子が逃亡なんてする訳はないと思っていた。

ただもし逃亡の事実が本当で、逃げきれずに見つかってしまったらこれまでにされたどんなお仕置きよりもひどい仕打ちが純子には待っている。

だからそれを思うと同期の研修生たちにとっては純子が逃亡したのは嘘か間違いであって欲しいと願っていたし、何よりこの苦しく辛かった女子化研修を5人揃って無事に終えたいと云う想いが頭の中で渦巻いていた。

港に着くとバスと一緒にそのままフェリーに乗りこみ、悠子たちは車両甲板に停まったバスから降りる事は許されずにそのまま出港した。

行きは船室に上がり、潮風を身体いっぱいに浴びながら瀬戸内海の多島美を眺めながらいわば「ショートクルーズ」を楽しんだが、帰りは出入口で体育会系の社員が文字通りお目付け役となり目を光らせているので降りる事はできない。

ただもっとも船室に上がるのを許可されたところで純子の事が気になってゆっくり外の景色を眺めるどころではなかったし、只々全員純子の事を車内から引き続きずっと案じていた。

フェリーは小瀬戸島に着き、そのままバスから降りる事なく研修所に戻った悠子たちは程なく夕食の時間になったもののさすがに箸が進まず、食事もそこそこに玄関横で純子の帰りを待っていた。

「大丈夫、純子ちゃんは逃亡なんかしないよ。」
「そうだよね、もうあと3、4日で研修が終わるのにそんな馬鹿な事する訳ないわ。」

そう悠子たちがまるで自分に言い聞かせるようにしていると会社のワゴン車が港に向けて猛スピードで向かって走り出し、三浦所長も玄関先に現れた。

玄関先にはいつの間にか野次馬の様に社員たちが集まりはじめ「研修生の森野純子が逃亡して捕まったみたい。」「うっそ、なんでもうすぐ研修も終わるのにそんな馬鹿な事したの?。」「分かんない。でも捕まったみたいで今連れ戻されてるんだって」などと言い始めている。

「うそ、やっぱり純子ちゃんは逃亡したんだ・・・・・。」野次馬たちが言うのを聞きながら悠子をはじめ同期の研修生たちはそれを信じられないまま愕然としていた。

そして先程港に向かった会社のワゴン車が戻ってきてドアが開くと手枷・足枷をされ、口には猿轡を嚙まされた純子が首輪についたリードを引っぱられるようにして降りてきた。

「ほら着いたわよ!!。さっさと歩きなさい!!。」
「うぐぐ・・・・・。」

猿轡のせいで声も出せず、また手枷・足枷をされているせいで随分と窮屈そうな純子は島を出る時に見せた笑顔とは打って変わって苦痛に満ちた表情でリードを引っ張られながらヨロヨロと歩いていた。

「じ、純子ちゃん!!。」
「純子ちゃんなんで?!。どうして逃亡なんかしたの?!。」
「なんで??。あたしたちこれで全員揃ってやっとこの研修を終えられるって昨日も今日も言ってたじゃない!!。」

そう言いながら居ても立っても居られなくなった悠子たち4人は純子の元に駆け寄ろうとしたが体格のいいお目付け役の運動部の社員に阻まれ近くに寄る事さえできず、その前をリードを繋がれたまま引っ張られるように純子が通り過ぎて行く。

「うぐぐ・・・・ぐぐら(みんな)・・・・・。」
「純子ちゃん!!。どうして?!。なんで?!。」
「ほらあなたたちどきなさい!!。それからとりあえず森野純子を地下の反省室へ入れておきなさい!!。」

と三浦所長に言われるまま純子は地下にあるメイドたちの寝室の横にある反省室、別名「独房」へと連れて行かれて鍵を掛けられ、部屋の前と地下フロアに通ずる階段の前には体育会系の社員が見張り番として配置された。

その頃逃亡した純子と一緒にチャーターした船で島に戻ってきた社員たちのうち、堂園部長と渚主任が三浦所長と山根支配人を交えて事情聴取を含め今後の純子の扱いについて話し合いをしていた。

「ふう・・・・・困ったわね・・・・。なんで今更逃亡なんてしでかしたのかしら?。」
とため息交じりで三浦所長が言い、純子がなんで逃亡したのか、また逃亡する前の指導役の社員の純子の管理・監視についても問いただした。

捕まえた後の事情聴取によると純子はショッピングモールで悠子にプリントアウトした写真を渡した後、タクシーで空港へと向かったようだった。

置いてあったマルチコピー機では航空券の予約・発券ができるようになっていて、写真をプリントアウトしながら別途行きのフェリーの中に貼ってあった飛行機の時刻表を見て時間をメモしておいた夕方の羽田空港行きの航空券を偽名で純子は買い求めていた。

新幹線だと途中で追っ手が乗ってくる可能性もあるが、飛行機だと同じ便に追っ手が乗ってない限りはその点は大丈夫だし、羽田に着けば他の大勢の乗客に紛れてターミナルの外に出てしまえば逃げ切れるだろうと思い、純子は飛行機を選んでいた。

ただ会社の方から空港の警備会社に手を回していた事もあり、あっさり純子は搭乗する前に金属探知機のあるゲートのところで警備員に捕まってしまったのだった。

でもどうして純子はあと少しだけ待って研修期間を終えれば今とは格段に自由度が増す身になれるのにも関わらず、どうして逃亡と云うリスクの高い行為に出たのか悠子たちのみならず三浦所長以下幹部社員にとっても分からなかったが、それに関しては純子はこう言ったらしい。

「あたしのこれからの女としての将来に希望が持てなくなりました。」

実は島外研修に出る当日、準備をしていた純子はたまたま幹部たちがいる部屋の前を通りかかった時に自分の事を言われているのを耳にしたのだった。

「では森野純子は研修終了後も中級社員としてしばらくは小瀬戸島に居てもらいましょうかね。」
「そうですね、折角のあのFカップですからバーシトラスで巨乳好きのお客様のお相手にはもって来いでしょうしね、あはっ!。」
「ほんとほんと。当人はまた営業に戻りたいだなんて思ってるようですが、半年前までは男だったのが今じゃすっかり女らしくなってしかもあんな大きな胸で営業なんか行ったらお客の方がビックリです。ははは!。」

それを聞いた純子はとても落胆した。確かに半年前までの自分は時々調子に乗って女性にセクハラまがいの事をしていたが、研修を受けて女になってからは今までしてきた事を反省しつつ女性の気持ちや心情も充分理解し、女性をリスペクトするようになったのに島から当分出られないとは・・・・・。

おまけに中級社員に昇格しても島でさせられる事は主に「夜のお相手」となればその行為に偏見はないものの、このFカップにされたのもその為だったと聞かされて余計に落胆して将来に希望が持てなくなり、衝動的に逃亡を決意したのだった。

ひと通り報告が終わると部屋に三浦所長、山根支配人、堂園部長の3人が残り引き続き純子の具体的な処罰について検討を始めた。

「はあ・・・・・森野純子に研修終了後の勤務内容と取扱いについてたまたまとは言え聞かれたのはまずかったわね・・・・・。」
「そうですね・・・・・大変申し訳ございません。」
「でも逃亡はやはり良くない事だし、この研修所のルールとしてはやはり厳罰にするしかないかしら。他の社員や研修生の手前もあるし。」
「・・・・・」

そして少しの沈黙の後、三浦所長が口を開いた。
「では森野純子はこの研修所での懲罰のうちで最も厳しい去勢手術を受けさせる事にします。いいですね。」
「はい、意義ありません。」
「わたくしも同じく意義ありません。」

こうして純子は罰として強制的に去勢されてしまう事になり、三浦所長は研修所の常駐医師で整形外科担当の瀬奈を呼んで手術の打ち合わせを始めた。

(つづく)












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