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(連載小説)キミとボクの性別取り換え成人式⑥

「成人式用に振袖を着付けてくれる人が見つかったって嘘だろ?・・・・・。」

志郎は操からのメッセージを見てにわかに信じられなかった。
もう成人式当日は3日後。
1年も2年も前から女の子たちはその日に向けて着物をどれにするかよりまずは評判の良い美容院・美容師のいい時間帯のスケジュールを押さえるのが先だとさえ聞いていた。

それが3日前の今日でもなんとかなると言うし、しかも自分は女装子で普通の女子の新成人とは違うのにそれも踏まえて請けてくれた人が居ただなんてにわかに信じられなかった。

正直なところ志郎は成人式に操の振袖を貸してもらえる申し出はとても嬉しかったがその反面心の中では1年で1番振袖需要が高まる成人式の当日に今から着付けを含めお仕度一式をしてくれてしかもそれが女装子でもOKと云う人などなぞ居ないのではないかと思わずには居られなかった。

ただ本当にお仕度をしてくれる人が見つかったのならそれは喉から手が出るくらいお願いしたい。

いや待てよ、もしかしてその着付けをしてくれる人と云うのは実はどこかのアングラな世界の関係者で、振袖を着せてあげる代わりにとんでもない無理な事を自分に強いてくるとかそう云う類じゃないのか?。

或いは着付けやヘアメイクを法外な値段で吹っ掛けてくるとか?。でないと今からそんな自分みたいな女装子が振袖を着て成人式に出るだなんて云う申し出を受けてくれる訳がない・・・・・。

そう思うとなんだか不安になり始めていた志郎だったが、メッセージが既読になったがその後リアクションが無いのを不思議に思ったのか操が電話を掛けてきた。

「もしもしー、志郎クン起きてたー?。」
「うん・・・・・起きてたし、メッセージも読んだ・・・・・。」
「だったら話し早いよねー。俺も正直今からでも成人式の支度を引き受けてくれるかどうか心配だったけど何とか見つかってよかったよかった。」

と昨日同様のあっさりとした口調で云う操だったが、志郎は嬉しい反面まだ信じられない気持ちの方が強いのか押し黙ってしまっていた。

「ん?志郎クンどしたの?。せっかく振袖着せてくれる人が見つかったって云うのにあんまり嬉しそうじゃないけど?。もっと飛び上がって喜んでくれるかもなーって思ってたんだけど?。」
「いやうれしいのはうれしいんだけど・・・・・この一年で一番忙しい時にそんな簡単に振袖着せてくれる人が見つかるだなんてその人大丈夫?。」

とつい志郎は正直な気持ちを口にすると「全然大丈夫だと思うよー。」と操は全く意に介さない口ぶりでそう言う。

「今回の着付けやヘアメイクは浅草の”WISH(ウィッシュ)”ってとこが請けてくれたんだ。志郎クンも女装子ならもしかしてWISHって聞いた事あるっしょ?。」
「えっ?!。WISHが請けてくれたの?。」

「浅草のWISH」とは、確か浅草寺の裏あたりでやっている所謂「女装サロン」で、浅草と云う場所柄もあって主に和装を好む女装愛好者御用達のサロンの筈だと志郎は思い出した。

SNSにはお正月には振袖、3月には袴、夏になれば浴衣、そしてそれ以外の季節でも和服で着飾って浅草界隈を散策する女装子の写真が幾度となくアップされているのを志郎も見ていた。

おまけに和装と云う普段とは違った「おめかし」をしているのもあるし、何より同じ人物が他の女装サロンで撮ってもらった写真をアップしているのに比べてこのWISHで女装をした際にSNSにアップした写真では他と格段に違うパス度やクオリティの高いメイクをしてもらっているのにも気づいていた。

つまり他店で撮ってアップされている写真はパス度と云う点から「ちょっと・・・・・」でもWISHでメイクしてもらうと見違えるようにきれいだったり可愛く写っているケースを何度も志郎は見ていた。

それにアップされている和装の写真のほとんどは室内ではなく、女装したまま外でロケ撮影をしているものばかりで、浅草なので他にも着物姿の観光客はわんさかいて気にならない・されないのもあるのだろうが特に着物女装姿で外出して男とバレたとか云う書き込みもこれまで全く見た事が無かった。

だから自分も着物女装をするなら一度はWISHでお願いしたいと思っていたがやはり衣装代等も嵩むので学生のお小遣いでは費用的な問題もあり、どうしてもカジュアルな服装で且つ比較的安価に女装のできるお店に行くようになってしまっていた。

だからWISHで自分の成人式のお仕度一式を請けてくれるのなら別に怪しいお店でもないし、一度は行ってみたかったけど費用の問題で行けてなかったWISHに行けてしかもあのパス度の高いメイクと成人式用のお仕度までしてもらえるなら何ら言う事はなかった。

ちなみに操が言うのには昨日連絡していた知り合いのLGBTQアライの人がWISHに掛け合ってくれたようだった。

WISHはその技術のクオリティの高さから女装子だけでなく、MTFトランスジェンダー(トランス女子)が着物を着る際にはよく利用するサロンだと云う事を操の知り合いのアライの方が知っていて、一度お願いしてみたらちょうど入っていた予約が間際でキャンセルされ、押さえていた着付師さんのスケジュールが浮いてしまっていて困っていた事もあり、それもあって間際ではあるがなんとか予約にこぎつけたのだった。

WISHで振袖が着られる・・・・・。そう思うと志郎は居てもたってもいられない気持ちになった。
しかも操が振袖を着ているフリに加担するのではあるが、振袖を着るだけでなくてそのまま成人式に出席するだなんてまるで夢のようだと思わずにはいられなかったし、振袖を着る事に関してのお仕度一式の費用も操が全部持ってくれると云う更に願ったり叶ったりの出来事にもう何も手につかなくなっていた。

衣装代は掛からないにしてもお仕度一式には結構な金額が掛かるのだが元々操はその分実家から必要なお金を貰っていたので着るのは志郎であっても振袖を着るのに使わない方が逆に気が引けるのだと言う。

金額が金額なのでさすがに悪いと志郎も思っていたがそこは志郎の持っているメンズスーツを無料で貸してくれればそれでチャラだと操が言うので振袖とスーツではかなり差はあるものの志郎はそのお言葉に甘える事にした。

「それで悪いんだけど志郎クンが女装して”志帆ちゃん”になってる時の写真を何枚か送ってくんない?。」
「へ?なんで?。」
「WISHさんが志帆ちゃんのメイクや髪形をどうしたらいいか事前に考えときたいからそのために写真が見たいんだって。」

考えてみればそうでリアル成人式女子だって事前に美容院に行って打合せをしたり、自分の希望を伝えた上で当日のお仕度に臨むのだからそれはしごく当然の質問な訳で、まさか成人式に振袖が着れるとは思ってもいなかった志郎はそこまで気が回っていなかった。

そして電話を切ってすぐ何枚かスマホに収まっていた自分の女装写真の中からお気にいりのものを全身が写っているものと顔写真とに分けて何枚か送ると「ありがとー。じゃあこれから俺WISH行ってくるねー。」と操からメッセージが来た。

WISHに行くって一体なんだ?と思っていると自分の家に置いてある例のバッグに入っている振袖一式を予めWISHに持ち込んでおくと当日までに「点検」をしてくれると言われたらしい。

「点検」とは振袖を持込の場合には案外着付けに必要な小物類が一部足りなかったりする場合が多いらしく、それに備えてチェックをしてくれる事を指しているようだった。

それでついでに「志帆」になっている志郎の写真を見て、この振袖と帯にはバッグに一緒に入っている小物が「志帆」になった場合に色合いや希望する仕上がり具合に合っているかどうかイメージしてみたいのでその為に女装写真も見せて欲しいとの事だった。

志郎は志帆になって振袖を着せてもらう際には清楚だけどかわいらしさも兼ね備えた二十歳の成人式の女性になりたいと云う事は雑談の中で操には言ってあったのでそれも振袖一式を持参した際に伝えてくれるのだろうが、それにしても操のフットワークの軽さや頭の回転の速さには感心する事しきりだった。

まだ知り合って2日しか経っていないが志郎は何度となく操のいわゆる「頭の良さ」を感じる事が多々ある。

多分それはもちろん地頭もいいのだろうが、それと同じ位今まで自分がトランスジェンダーとしてやっていく中で自分ではどうしようもない事が多々出てきてもその事を割り切ったり考え方や見方を変える事で乗り切ってきた事で自然と身に付いたのもあるのだろうと察していた。

趣味で異性装をしている自分よりずっとずっと悩んだりする事も多い筈の正真正銘トランスジェンダーの操にとって「考えていても仕方ない」「今自分は現実問題としてどうすべきか」と云う考え方で例えば中学生になる時におかっぱ・セーラー服を回避するために中高一貫校に中学受験をして進学したのをはじめ、大きな問題から小さな問題までそうする事で乗り切ってきたのだろう。

それが元々さっぱりした性格だったのもあって余計にそう見えるのだろうし、また人となりが敵を作らないし逆に作らせないようにも感じる。

ともかく志郎にとって操は「いいヤツ」的な「男友達」の存在になりつつあり、そしてまだ出会って数日だけど充分信頼できる人物だと思えるようになっていた。

なので安心して成人式当日を迎えられそうだと云う気がしていたし、自分は振袖と云う思いっきり女性らしい恰好ではあるが「仲の良い東京在住の男友達」としても操と一緒に成人式に出席できる事で嬉しい気持ちでいっぱいだった。

そして成人式当日がやってきた。
不安や緊張の入り交じった気持ちもあったり何より寝過ごしてはいけないと思っていたせいか余り寝られなかった志郎だったが、ひとまずメンズスーツを着てネクタイを締めて操のマンションへと向かった。

これから振袖を着るのにメンズスーツとはいささか変なようでもあったが、志郎は志郎で成人式に出席した「証拠写真」を残しておく必要があった。

もちろん振袖を着てからメンズスーツに着替えてもいいのだが、せっかく振袖を着せてもらうのだからなるべく長い時間着ていたかった事もあり、先にメンズスーツを着て証拠写真を撮ってから振袖の着付けをしてもらう事にしたのだった。

そして着付の予約の時間より少し前の午前8時に志郎と操は成人式会場の浅草公会堂に到着した。

普段から観光客、それも和服姿の国内外からの観光客でごった返している浅草だがさすがに朝8時と云う事で観光客自体まばらで、地元の人と近くのホテルに泊まっているとおぼしき一部の観光客が混雑とは無縁の浅草寺をゆっくり参拝したり散歩を楽しんでいるくらいだった。

浅草公会堂に行ってみると玄関脇には既に「祝 二十歳のつどい」と書かれた縦長の大きな看板が備え付けられており、まだ開場まで時間があるものの着付けの予約が早朝だったのか早くも数名の振袖を着た新成人の女の子が会場付近にはちらほら見られ、空いているうちにと「祝 二十歳のつどい」の看板の前で写真を撮ったりしている。

そして志郎も操にスマホで「祝 二十歳のつどい」の看板の前で写真を撮ってもらい、二人は着付けの為にWISHへと移動した。

WISHはいわば「裏浅草」とでも呼べる浅草寺の裏あたりにあり、浅草公会堂からでも浅草寺の境内を通って充分徒歩圏内にあるようで、昨日一度振袖の「点検」のために訪れている操がエスコート役となって二人はまだ観光客の居なくて空いている朝の浅草をすいすいと歩きながらWISHへと足を運んだ。

「お待ちしてました。志帆さんですね。今日は成人式おめでとうございます。本日メイクとヘアメイクを担当させていただく小池です。」

志郎は初めての場所と云う事とこれからいよいよ憧れの振袖を着ると云う事の両方からやや緊張気味にWISHの門をくぐるとスタッフの小池さんがにこやかに出迎えてくれた。

「あ、どうも・・・・・。初めまして志帆です・・・・・。」

そう志郎はまだメイクも何もしていないのに気分は既に「成人式を迎えた女の子」モードになっていて、中に入ると志郎と操はまずお着替え部屋に通された。

「じゃあ志帆さん、ここでまずは和装用の下着にお着替えして白足袋を履いてくださいね。お着替えできたら寒いのでお部屋に置いてあるバスロープを羽織ってメイク部屋にお越しくださいね。」

と小池さんに言われ、見るとそこにはきものスリップと足袋が置いてある。肌襦袢だったらどうやって着るのか分からなかったがどうやらこのきものスリップだと被って手を通せばいいようだから着るのはそう面倒ではないようだし、それ以外のブラやパンティ・ガードルは家から付けてきて実はスーツの下は既に下着女装状態なのだった。

ただ操も横に居ると云う事は操の目の前でセミヌードになる訳で、それもあって恥ずかしさが先に立ち、志郎はモジモジしている。

ただ志郎がスーツとワイシャツを脱いでくれないと今度は操が着るものがなく、そんなモジモジしている志郎を見て操が「志帆ちゃん、どうしたの?。」と聞いてくる。

「え・・・・・ちょっと操クンの前で服を脱ぐのっては、恥ずかしいの・・・・・。」

まだスーツ姿なのにWISHの門をくぐったその瞬間から気分は成人式の女の子モードになってしまっている志郎、いや志帆は声や喋り方も志郎の時とは違う「女の子モード」でそう言うのだった。

それを聞いた操は「そう?。だって俺だってこれから着替えるんだから下着姿になるのは一緒っしょ?。それに俺たち友達どうしなんだから別に恥ずかしい事なんかないと思うけど?。」と意に介さないようにあっけらかんとして言う。

言われてみればそうで、今自分は気持ちが「女の子モード」になっていてその場に「男友達」の操が居ると言う事を意識してしまって人前でセミヌードを晒すのは恥ずかしいと感じていたのだが、操は「男友達」でもあるし医学的には「女性」なのだから、気分が「女性」で操の男友達の自分は何も恥ずかしがる事なんかないのだ。

そう思った「うん・・・・そうだね・・・・・。じゃああたし脱ぐね。」とすこし恥ずかしさは残るもののスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを外すとワイシャツのボタンに手を掛けた。

「そうだよー。別に恥ずかしい事なんかないじゃん。」と今度は操が自分の着ているものを脱ぎ始め、あっと云う間にトランクスと肌着代わりの無地のTシャツ姿になった。

そして志帆が先程まで着ていたスーツの上下とワイシャツをハンガーに掛けるとそれを操が手に取り、さっと着てしまうと慣れた手つきでネクタイを締め始めた。

志帆の方は比較的簡単ではあるものの初めてと云う事で若干戸惑いながらきものスリップに手を通し、足袋のコハゼを留めるとバスロープに手を通した。

志帆が着替えている間にひと足早く着替えの済んだ操は着替え部屋を出て、スタッフの小池さんを呼びに行ってくれたようで、ほどなく小池さんが今度は部屋に入ってきて軽く志帆の和装下着姿をチェックすると問題なかったようなので続けてメイク部屋に連れていかれた。

「じゃあそこのメイク椅子にお座りください。今日は志帆さんを成人式を迎えた振袖女子に見違えるように変身して差し上げますね。」
「は、はい・・・・・よろしくお、お願いします・・・・・。」

こうしてまずはメイクが始まった。
もちろん他のサロンでの女装は何度か経験済みだし、最近はプチプラコスメを買ってきて自宅でセルフメイクもしている志帆だったが、やはり成人式を迎える女子たちがしてもらうようにプロにメイク・ヘアメイクをしてもらってその上で着付けをしてもらうと云うのはそれだけで既に憧れが現実になるわけで、胸のドキドキ感が増すのが自分でも分かった位だった。

しかも全然他のサロンと比べてあのナチュラルなのにパス度も非常に高いメイクで評判のWISHでそれも成人式用のメイクをしてもらえるとあらば期待しない方が無理で、非常に緊張はしているがそれと同じ位これから振袖女子用のメイクを施される事にウキウキ・ワクワクする志帆だった。

まずは化粧水、そして乳液としっかりと基礎化粧品が肌に刷り込まれるように塗られていく。
それが終わるとコンシーラーとBBクリームでうっすら残っている髭剃り後をカバーしたり、全体的に肌の色調を整えて下地を作ってもらう。

下地が出来ると今度はファンデーションが塗られ始め、化粧品独特の香料の匂いが志帆の鼻をくすぐる。

「あん・・・・・あたし・・・・今・・・・・段々と女の子の顔になってるんだ・・・・・。」

そう徐々に少しずつ更に「女子化」の心のギアが上がる志帆を横目に小池さんは鼻歌交じりでテキパキと、そして楽しそうにメイクを進めている。

きっと今日は朝早くから自分と似たような成人式に振袖を着て紛れ込むつもりの女装子を何人もメイクしているのだろうけど、全く疲れたり眠そうなそぶりも見せず、それどころか楽しそうにこうして鼻歌交じりでメイクをしてくれている。

それに小池さんはなかなかの美形でタレントの高梨臨に似ており、さっきもメイクをしながらの会話の中で高梨臨に似ているとよく言われると言っていたのでそう思っているのは自分だけではないようだし、それに以前女優をしていた時期があるも言っていたので道理で綺麗な人なのだなと志帆は納得していた。

そうこうしているうちにアイライナーを引かれ、アイシャドーを塗られ、付け睫毛をされ、マスカラを入れられるなどなどとアイメイクを一通り済ませると、眉毛を女性らしい形に書いてもらい、チークとノーズシャドーも入った。

そして小池さんが紅筆に赤い口紅を取り、一気に志帆の唇に塗っていくとグロスを上から重ね塗りしてくれた。

しかしこのとき志帆はその口紅のねっとりとした感触に思わず声が出そうになっていた。

それは更にリップグロスと云う艶を出すための更にねっとりしたものを重ね塗りされる事で余計にそうなっていたのと口紅を塗られる事で自分の顔が女の顔になっていると云う実感を志帆が感じ取っているからでもあった。

「あ、あたし段々と・・・・・お、女の子のお顔に・・・・・な、なってるんだわ・・・・・。」

ただ小池さんはそんなのはお構いないしに長めでカラーは少し抑え目の色合いのウイッグを志帆に被せ、相変わらず鼻歌交じりで今度はヘアメイクに取り掛かった。

成人式と云う事で黒髪でもよかったのだが、やはり少しは今風と云う事を意識して少しだけカラーされた控えめの栗色の色合いのロングのウィッグをしっかりとヘアピンで固定し、脇に置いたスマホで動画を見て参考にしながらねじったり編み込んだりしながらアップにしてくれている。

「志帆ちゃん、アップでよかったかな?。」
「ええ、いいですよ・・・・・。お、おまかせします・・・・・。」
「志帆ちゃんってやさしそうな感じだからきっとトップにボリューム持たせたふんわり系のアップが似合うと思うんだー。ま、もうちょっと辛抱してね。」
「あ、はい・・・・・。」

小池さんに辛抱しててと言われたものの、このお仕度時間は志帆にとっては全然苦になる時間ではなくむしろ徐々にではある分、男性から女性に自分が変化・変身しているのが実感できて大変心が満たされる時間だった。

そして髪(ウィッグ)をアップに結い終え、「これかわいー。」と言いながら小池さんが操の持参した着物セット一式に入っていた大ぶりの髪飾りを2個付けするとセットが乱れないようにスプレーを吹きかけた。

「うん!、メイクもヘアメイクもばっちり!。振袖に合う成人式女子のメイク完了!。じゃあお目目開けてみて。」

出来上がりがどうなっているのか、途中から目を閉じたままでメイク・ヘアメイクをされていた志帆はそう小池さんに言われそっと目を開けた。

「えっ!・・・・・か、かわいい・・・・・。」

そこには大き目の髪飾りを2個付けした華やかなアップヘアに振袖に合いそうな清楚だけど艶やかさも兼ね備えているきれいにメイクされた「年頃の女の子」が鏡に映っていた。

「これが、あ、あたし?・・・・・。」
「そうよ、志帆ちゃんかわいくなったわねー。じゃあ着付けしましょうか。これで振袖を着ればもうどこからどう見ても成人式を迎えた女の子ね。」

志帆はこれまで色んなところでメイクをしてもらったり、また自分でも最近はセルフメイクをするようになっていたが、そのどれよりもこのWISHで小池さんにメイクしてもらったこの顔はどこから見ても女、それも今の自分の年相応で且つ可愛らしい女の子の顔に仕上がったと思わずにはいられなかった。

そして女の子の顔と髪形になった志帆は一刻も早く振袖が着たくなって堪らなくなっていた。

(つづく)




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