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(連載小説)キミとボクの性別取り換え成人式⑤

二人はそれからもとりとめもなく女装やLGBTQ関連だけでなくそれ以外の話しもしていたが操がふと「あー、でも今度の成人式かったりー。式に出るのもだけどやっぱ着物着て”女装”で出なくちゃいけないのかな?ー。」と言い始めた。

操の視線の先には部屋の片隅に置かれた新幹線の車中から志郎が運ぶのを手伝ったあの着物一式の詰まった重いバッグがある。

志郎にしてみれば振袖を着て「女装」して成人式に出られるだなんて夢のような話しではあるが、性自認が男の操にしてみれば振袖を着る事もだし、更に振袖を着る事自体が「女装」になってしまう訳でやはりそれは苦痛でしかないようだった。

志郎をはじめとした性自認が男性の人が女装する事は全く気にならない操だったが、こと自分が振袖にしろセーラー服にしろいわゆる「一般的な女の子らしい衣装」を着るのは「女装」にあたり、それは断固として嫌で着たくないので何とかして今度の成人式を振袖を着ずに避けたい想いがありありと伝わってくる。

でもそんなに嫌なら適当に風邪をひいたとか言って成人式に行かなきゃそれでいいじゃないかと志郎は思ったのだがそうもいかない事情が操にはあるらしい。

「あの振袖ってさ、実は”ママ振”なんだ。それだけじゃなくて帯はバアちゃんが嫁入り道具のひとつで持ってきたって云う歴史と思い入れがある着物と帯なんだよね。」

「ママ振」と云う形で自分の母親が成人式をはじめ若い時に着た振袖を大事に箪笥にしまっていたものを今度は自分の娘が着ると云うのが増えてきているのは志郎も知っていたが、今そこにある例の重いバッグに入っているものは重量だけでなく想いも詰まっているから重いのだと改めて感じた。

操は「忘れ物」のふりをしてその着物一式を新幹線の棚にそのまま置いておこうかと思ったけどほんとに忘れたり置き引きにあった時に備えてかばんの中に連絡先を縫い付けてあったし、着ずにフリマアプリとかでいっその事売って小遣いにしようかとも思ったが、実家の母親はよくフリマアプリやオークションサイトをチェックしては実際に買い求めたりしている事を思いだし、出品している事がバレたらややこしくなると思いそれもやめた。

それだけではなくて操にとって祖母は家庭内での数少ない理解者で、常日頃髪を短くして近所の男の子たちと野山を駆けずり回っていたせいもあって「もう少し女らしくしなさい」と事ある毎に言われ続けている操を「まあまあ、そう言わずに。この子はちょっと他の子と比べて”おてんば”なだけでそのうち大きくなったら自然と女の子らしくなるわよ。」と言っていつもかばってくれていた。

実際のところは大きくなっても髪は短いままだし、セーラー服ではなくスラックスのジェンダーフリー制服を着て中学・高校生活を送り、スカート・ワンピースの類は一切着ない等一向に女らしくはならなかったのだが、それでもさすがに成人式当日位は振袖を着て女らしくなってくれるだろうと操の祖母は信じていたようで、それもあって自分の大切にしていたワードロープの中からお気に入りで且つ大切にしていた豪華な帯を持たせていた。

もちろん操が上京して建築関係の学部に進学する事に反対はしなかったし、それどころか帰省のたびに少ない年金の中からこっそりお小遣いを渡してくれていて、今回は特に「成人式用に美容院や写真館のお代の足しにしなさい」と多めに渡してくれている位だった。

だから孫を思う祖母の気持ちは痛いほど分かるし、その気持ちと今までずっと自分の事をかばってくれていた事に応えるべく嫌々ではあるが振袖を着て「女装」すべきなのではないだろうかと操は悩んでいたのだが踏ん切りがつかなかった。

「志郎クン、俺どうしたらいいかな・・・・・。」
「そうだねえ・・・・・。」

そう言う二人の間には微妙な空気が流れ、再び缶ビールを空けるペースが鈍り始めていたが、どちらの気持ちも分かる志郎は答えに困っていた。

そして場の雰囲気を少しでも変えようと「あのさ、試しに画像加工アプリで自分が女装したらどうなるかバーチャルでやってみたらどうかな?。」と酒に酔っていた事もあり、志郎は軽い気持ちで言ってみた。

「画像加工アプリ?。」
「うん、そう。女装子の間でも“カコジョ”って言ってスマホアプリ上でバーチャルで女装するだけの人も結構いるんだよね。僕も自分のスマホにインストールしてて実際に女装する暇がない時とかに何回かやった事あるんだ。」

「カコジョ」とは「加工女子」から来たのだろうが、スマホで自撮りをしてそれをアプリで女性的な顔に「加工」する事を指す。

技術の進化でまるっきり別人のように男性が女性に、その反対に女性が男性の顔に写真が加工できてしまい、その上メイクシュミレーションアプリと組み合わせてその性別が逆転した写真を更に「修整メイク」までする人も多い。

「ああ、それ聞いた事あるよ。LGBTQの会合の時に何人かが実際にやった事あるって言ってた。」
「だったら話し早いけど、試しにもし自分がメイクとかしてウィッグ被って女らしい顔になったとしたらどうなるかシュミレーションだけでもやってみたら?。これだったらスマホ上で写真を加工するだけだしさ。」
「なるほどね・・・・・。まあ気乗りはしないけど実際に化粧したりする訳じゃないからま、試しにやってみるか。でも多分俺の”女装”って似合わないだろうけど・・・・・。」

そう操が言うので志郎は自分のスマホを出して女装アプリを起動し、操の顔写真を撮って「男性→女性」の変換操作をやってみた。

少し待っていると「変換」が終わり、どんな顔になっているか志郎はしげしげとスマホの画面を覗き込んだ。

「どれどれ・・・・・。えっ?!・・・・・。」

そう言ったまま志郎はスマホを握りしめたまま絶句していた。
画面には清楚で可愛らしいちょうど二十歳ぐらいの「女の子」が映っていてその画像自体はどこからどう見ても「二十歳ぐらいの女の子」にしか見えないし、それどころかそれはとてもナチュラルで可愛らしい女の子だった。

しかしながらその画面上の「女の子」が取り立てて超美人とかそう云う訳でもなく、どちらかと言えばとてもナチュラルで可愛らしいと云う言ってみれば「どこにでもいる自然な感じの普通の女の子」と云った感じで、確かにかわいいけど特に絶句する程でもないように思えた。

操は出来上がった自分の「女装」した顔を見てまずまず普通のそこら辺にいある女の子っぽくなると云うのは分かったが、ただ何故志郎が女装した自分の顔、しかも加工した写真上だけなのに絶句しているのか不思議に思った。

「志郎クン、さっきからなんで黙っちゃってる訳?。」

さすがに変だと思った操は志郎にそう問いかけると「いや・・・・・あの・・・・・その・・・・・。」と聞かれた方の志郎は落ち着きがない。

「”あの、その”ってなんかあった?。」
「いや・・・・・操クンが”女装”した時の顔が余りにも僕が女装した時の顔に似てるもんで・・・・・つい・・・・・。」
「えっ?!、何それ??。」

今度は操の方がそれを聞いて絶句していた。
今日初めて志郎とは会った訳だが確かにどことなく背格好もだし顔立ちや雰囲気まで似ているなとは感じていた。それに台東飯店でも陳さんに「操ちゃんドシタ―、横のカレは操ちゃんに似てるけどもしかしていとことか親戚アルカー?。」と言われた位だった。

ただそうかと言ってアプリ上のシュミレーションとは言え、自分が「女装」した時と志郎が女装した時の姿が非常に似ているだなんてにわかには信じ難かった。

「ホントにこのアプリの加工した俺の女装写真と志郎クンが女装した時の顔って似てるの?。」

と信じられないと云う表情で操が言うと「うん・・・・・そうなんだ・・・・・。」と志郎は今度はスマホに収められている自分の女装した時の写真を画面に出した。

「えっ?!・・・・・。ほ、ホントだ・・・・・。」

画面にはおとなしめのデザインの白のブラウスを着てスカートを履いたセミロングの髪形の「二十歳ぐらいのそこらへんに居そうな女の子」が映っているが、その「女の子」の顔はまるで先程アプリで変換・加工した操の女装写真とそっくりだった。

「でしょ?・・・・・。似てるよね・・・・・。」
「うん、似てる・・・・・。」

そう言ったまま二人は固まってじっと志郎のスマホの画面に映っている女装した志郎の姿を見入っていた。

いくら普段の恰好が似ているからと言って女装してまで似たままとは信じられなかったが、それでも見れば見る程「カコジョ」の操とちゃんとメイクしてウィッグをかぶり、スカートを履いている志郎の写真はまるで同一人物のようだった。

「だけどほんと似てる・・・・・。」
「だよね・・・・・。似てる・・・・・。」
「ん?・・・・・。あっ!!、もしかして・・・・・。」

そうさっきから口をついて出る言葉は「似てる」以外ほぼ無い二人だったが、その「似てる」と言葉を発する以外は黙りこくっていたところを操がいきなり「あっ!!。」と声を上げた。

「操クン、どしたの?。」
「いや、ちょっとある事を思いついたんだ。志郎クン、成人式には出来る事なら振袖が着たいって言ってたけど、その気持ちマジだよね?。」

その気持ちが「マジ」かと言われるとマジに決まってる。
どうせ社会人になってホワイトカラーの職場に配属されたなら毎日ダークスーツにネクタイなんだし、入社以前にも就職活動ではほぼスーツにネクタイと相場が決まっている訳で、そんなこれから日常的に着るものでしかも見栄えがする訳でもないものをなんで成人式だからと言って男子は着なきゃいけないのかと云う気持ちは自分が女装するようになってより強く思っていた。

だけど振袖を着るのは大学生の自分にとって仮にレンタルでも非常に値段はお高いものだし、それプラスメイクやヘアメイク・着付けと云ったお仕度一式にも結構な費用が掛かる。

それに志郎は上京して本格的に女装を始めたのでまだ室内女装がメインで、それほど女装外出の経験も無い自分にとって振袖一式プラスお仕度の準備とそれに関わる金銭的な支払いの目途がついたとしても振袖を着ての女装外出と云うのができるのかどうか不安に思っていたのでほぼ自分の中では成人式は欠席するつもりでいた。

「うん・・・・・。そりゃ出来る事なら成人式は振袖を着て出たいよ。でも今の僕にとってそれはちょっと無理っぽいかな・・・・・。」と志郎は率直な気持ちを操に伝えると意外な答えが返ってきた。

「それが無理じゃないかもよ。」
「えっ?!、無理じゃないって何が?。」
「だから志郎クンが成人式に振袖着るのが無理じゃないかもって事。」

志郎はにわかに耳を疑っていた。
操は志郎が成人式に振袖を着るのが無理ではないみたいなことを言っているがそれは本当なのだろうか?・・・・・。
もし本当だとしても何を根拠に志郎が成人式に振袖を着られるかもと言っているのだろう?・・・・・。

突然に操がそう言い始めた事もあるし、何よりいくら「成人式に振袖が着られるかも」といきなり言われても成人式に出る事さえ諦めかけていた志郎にとってそれは訳が分からなくなるだけだった。

そして訳が分からずいぶかしがる表情をしている志郎に操はこう言った。

「あのさ、よかったらそこにある俺の振袖一式を志郎クンに着てもらって成人式に出てくれないかな?。」
「え?!!、ぼ、僕がこの操クンの振袖を着て、せ、成人式に・・・・・で、出るって??・・・・・。」
「そう。それで俺は志郎クンのメンズスーツを借りてネクタイ締めて振袖を着た志郎クンと一緒に成人式に出るの。これってよくない?。」

そう言われた志郎はさすがに驚いた。
それは今日台東飯店で操がFTMトランスジェンダーだと聞かされた時と同じくらいびっくりするものだった。

確かに志郎は操と背格好も体型も似ているし、男性の時の外見も雰囲気も似ている。
それどころか女装して女性らしい恰好をした時もアプリのカコジョの画像から推測するに多分リアルでも似ているだろう。

ただ「これってよくない?」と言われても確かにアイデアとしてはいいし、正直成人式に憧れの振袖姿で出席できるのだったら少々の無理は押してでも出たい。

ただ操の実家の色んな人の想いと歴史が詰まった大切な振袖や帯を赤の他人、それも今日帰京する新幹線の中でたまたま席が隣になっただで且つ東京での住まいがお互い近所と云うだけの自分が代わりに来ていいものなのだろうか・・・・・。
そう思うとおいそれと操の提案に乗っかるのには躊躇してしまっていた。

そんな訳で志郎が振袖は着たくて仕方ない筈なのにはっきりしないのを見て操は「あのね、志郎クンがメイクして髪をアップに結って振袖着た姿を写真に撮ってこれが俺の成人式の晴れ姿だって言って実家に送る事で全て円く収まる訳で、これって俺にとっては”親孝行・バアちゃん孝行”にもなるんでここはひとつ”人助け”だと思ってこの話請けてくれない?。」と言ってくる。

「人助け」とは大げさだろうと思ったが、操の表情は真剣で、且つ懇願するような感じさえ見受けられる。

「でも・・・・・他人の僕が操クンのふりして振袖を着たとしても実は男とか別人だってバレないかな?・・・・・。」

それは志郎にとって本音だった。
志郎だって本当は出来る事なら振袖を着て成人式に出たいのは出たいし、あの振袖で着飾った女の子だらけの華やかな空間に自分も同じように振袖を着て身を置く事ができるのであればそれはこの上ない幸せなひと時になるのではと思う。

ただ「バレる」と云うのは実は女装した男であると云う事ともうひとつ操とは別人だと云う事がバレると云う二つの意味でそう言っているのだった。

そう心配そうに言う志郎だったが操は事も無く「全然大丈夫じゃない?。志郎クン女装似合いそうだし、さっき見せてもらった女装した時の志郎クンってパス度結構高いと思うけどなー。」と言う。

「そ、そうかな?・・・・・。」
「そうだよー・これなら全然普通にお外出ても男だなんて誰も思わないよー。それにしてもかわいいねー。ねえねえ、女装した時の女の子の名前って何?」
「あ、ありがと・・・・・。女装した時は”志帆(しほ)”って名前にしてるんだ・・・・・。」
「志帆ちゃんかー。かわいくて女の子らしい名前だね!。じゃあ志帆ちゃん、そろそろ振袖が着たくなってきてるんじゃない?。」

操に「志帆」と女の子になっている時の名前で呼ばれた志郎はいきなりだった事もあり、不意にドキリとした。

それは「志帆」と呼ばれて操に「女の子扱い」された事もだし、「そろそろ振袖が着たくなっている」とまるで心の中を見透かされたような事を言われた両方からだった。

「大丈夫だよー。こんなに普段からパス度の高い志帆ちゃんだったら振袖着たら余計に女の子らしくなってもうどこから見ても女の子にしか見えないんじゃね?。それに俺って実家で一切メイクとかした事ないんで誰も俺の化粧した顔とか見た事ないからきっと分かんないと思うよ。」

そう言う操だったが、確かに今まで誰もメイクした操の顔を見た事がないのであれば「操って化粧して振袖着たらこんな感じなんだ」って思われるのがオチだろうし、そもそも志郎と操は背格好も顔立ちも雰囲気も似ているのだからその似ている志郎がメイクして振袖を着たところで写真を見る限りは操と別人とは分かりづらいような気もする。

でも操の実家の家族が操の成人式に着せようと大切にしてきた振袖と帯をまるっきり他人の自分が着るだなんてやっぱり騙しているようだし、第一そんな大それた事していいのだろうか・・・・・。

だけど正直振袖は着たいし、憧れだった振袖を着て一生に一回の成人式に出られるだなんて夢のような話しじゃないか・・・・・。

と心の中で気持ちが堂々巡りしている志郎だったが、踏ん切りをつけさせたいのかなんだったら俺も一緒に成人式出ると操が言う。

「一緒に出るって振袖はこの1枚しか無いでしょ?。」
「だからさっきも言ったように俺は志帆ちゃんの持ってるメンズスーツ着てネクタイ締めて、そんで志帆ちゃんは俺が持ってるこの振袖着てバアちゃんの帯締めて成人式に出るの。つまり志帆ちゃんが振袖着て成人式出たいように俺もスーツにネクタイで成人式出たいんだよね。」
「・・・・・。」

確かに言われてみれば男の恰好をしている時の志郎と操は似ているし、元々操は言われるまで女の子には見えない訳だから操が志郎のスーツを着たところで違和感はないだろう。

それに志郎も実家からは地元で出席しないならせめて東京の下宿先の最寄の会場での成人式に出なさいと言われている訳だし、スーツにネクタイ姿の実家用の「アリバイ写真」なら前日にでも会場付近で撮っておくなりしておけばいいだろう。

そして操は区から来ている成人式の招待ハガキをスーツを着た操が志郎と宛名の書いてある志帆宛のものを、振袖を着た志帆が操と書いてある操宛のものをそれぞれ受付に出して会場に入り、式に出席するのだと言う。

「そんな事して大丈夫なの?。」
「大丈夫でしょ。だって受付の人は多分俺も志帆ちゃんの事なんか知る訳ないでしょ。」

それは確かに言えていて、それに「操」と云う名前は男性にも女性にもいる訳だから振袖を着た志帆が「操」と書かれたハガキを出して受付してもらっても何ら怪しまれないだろうし、そもそも操も志郎も成人式には出席するのは出席する訳で、ただハガキを出すのが入れ違うだけとも言える。

また男子はスーツにネクタイ、女子は振袖と云うスタイルの同級生カップルが成人式に出席するのも普通にありそうな話しだし、しかも台東区の成人式会場は浅草なので元より観光客をはじめとした着物姿の女性は多いからかえって振袖を着ていたほうがよりパス度も高まるような気もする。

「うん・・・・・分かった・・・・・。あたし、操クンの振袖着て成人式に出させてもらうわ・・・・・。」

と志郎は「志帆」になって振袖を着て成人式に操と一緒に出る事を決心した。

そして自分の事を「あたし」と言ってしまう位、志郎の気持ちは振袖に憧れる「乙女心」に染まっていた。

ただ着付けやヘアメイクはどうするのだろう?
今から成人式用の美容院の予約とか取れるのだろうか?。
女の子たちは振袖を決めるよりまずは着せてもらう美容院の予約を決める方を優先すると聞いた事があるがその辺りはどうなのだろう?・・・・・。

そう思っている志郎の横で早速何やら操はスマホをいじっている。
それは操が自分の知っているLGBTQのアライ(支援者)の一人に今からでも成人式当日に振袖の着付けをお願いできる人を知らないか尋ねるメッセージを送っていたのだった。

するとすぐ返事が来て「今からだとさすがに予約取れないかも知れないけど、今日はもう夜遅いからとりあえず明日聞くだけ聞いてみる」と書かれてあった。

と云う事で確かにもう「夜遅い」のでひとまずこの二人だけのプチ新年会をおひらきにして志郎は自宅アパートへと帰った。

部屋に戻ってもしばらく志郎は寝付けなかった。
たまたま新幹線で隣り合わせになっただけの操とあれこれ話し込んだ事の余韻もあったし、何より憧れだった振袖を着てそれも成人式に出席できるかも知れない。
そう思うと志郎は軽い興奮を覚え、振袖を着た自分の姿を想像したりもしていたのでなかなか寝付けなかった。

そして翌朝志郎が目覚めたのはもうお昼近く、それも操からの着信音で目が覚めた。

「あ・・・・・操クンからだ。なになに・・・・・えっ?!!。」

見るとスマホの画面には操からの「成人式に振袖着せてくれる人が見つかったよ!!。」とメッセージの文字が躍っている。

「あたし・・・・・本当に振袖着られるの?・・・・・。うそでしょ・・・・・。」

その画面を見て気分が「志帆」になってしまった志郎は「僕」でなくて「あたし」とつい女言葉でスマホを見ながらそうつぶやいていたのだった。

(つづく)

※おことわり※ 成人式の招待ハガキを別人が出して出席するのはよろしくない事ですので実際に真似をされる事のないようお願いします。あくまでこれは小説と云うフィクションの中での設定ですので。


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