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本気で死のうとして失敗した時の話し。

あれは確か8年位前だと思う。
完全に肌寒くなった11月頃。僕は急にこの世から消えてしまいたくなった。朝起きることも、活動をすることも、ご飯を食べる事も、自分の姿すらも見たくない。
夜も眠れない日々が続いていた。

そして急にそれがぷつんとはじけた。
もう全てがどうでもいいと思った。そして自分がこの世から消え去っても世の中は何事も無かったかのように流れる。人一人の死などまるで木の葉が落ちる程度なのだろうと僕は酷く胸を引き裂かれる様な虚無感を感じた。


今日の夜全てを終わらせようと思った

夕食を食べ僕は家族が寝静まった頃に出かける。
机の中に遺書を挟んで、部屋の扉から小さく「さよなら」と別れを告げた。悲しい最後の別れの筈なのに涙なんて湧いて来なかった。その時の僕は只管無の状態だったから。

車を走らせ前から目星をつけておいた廃墟に到着した。
徐ろに車を停めて一目散に屋上まで登る。異様に行動が速いことに違和感を感じなかった。まるで吸い寄せられる様に僕の身体は意思を持たずにただ無意識のまま身体が動いている感じだった。

地上から12メートル位だろうか。
実際に立ってみると恐ろしい程に高かった。
最後に僕は今までの人生を振り返ってみた。僕が産まれた日から今までの出来事を思い出す。

僕の背中を抱いてくれた両親。僕を一生懸命真夏の真っ昼間に背中に背負い自慢して回った祖父の背中。常について回った人懐っこい妹の顔。僕を見つけると遠くからかけて来て笑顔を見せてくれた友人の顔。僕を愛してくれたヒトの温もり。

ふと我に返った時に僕は危うくバランスを崩しかける。
身体がふわりと宙に浮きかけて僕は咄嗟に近くにあった朽ちかけた手すりを掴んだ。ボロリという乾いた音と共に、コンクリートの破片が真下へと落ちる。
時間を置いてバリッと静粛な闇を切り裂いた時に、余りにも間抜けな自分の姿に笑いが起きた。
その瞬間僕は壊れた人形の様に泣いた。死にきれなかった悔しさ、それよりも僕が死んで残された人達の顔を考えてしまったからだと思う。

家に着いた頃には涙が枯れてしまった。

「結局死にきれなかった。」

扉を開けるとリビングの電気が着いていた。遅くに帰って来た親父がソファーベッドに横になっていた。
何もかけずにイビキをかいていた。ブランケットを部屋から持ってかけてやった。


僕が居なくなったら、彼らはもう僕の姿を見ることが出来ない。僕の声を聞くことが出来ない。僕に触れる事すら出来なくなるだろう。記憶の中で永遠と生き続けて、僕の影を追い続ける。いない筈の部屋から僕の声を感じようとするのだろうか?

僕という存在がない世界。昨日までそこにいた存在が過去の存在になってしまう。
最後に交わした言葉も、最後の姿も、強烈に記憶の中に閉じ込められてその沼から抜け出すことが出来ない。


人が何故自殺を選ぶのか。
それは僕にはわからない。そういう運命だったのだろうか?死ぬというイベントそれを回収しただけなのだろうか?人が死のうとする動機などわからない。ふとある時に頭の中を占領してくる。「お前は死ぬべきだ」と耳元で囁かれる様な感じだろうか...。


どんなに辛かろうが、どんなに惨めだろうが
僕が居ない世界を生きるよりはよっぽどマシだろう。
僕は残された人達の顔を思い出す事で、自分の人生が今まで続いている。僕の背中を守ってくれた存在のおかげなのかもしれないと最近思うようになった。


どんなに辛くても、どんなに充実していても人には平等に死は与えられる。死からは逃れる事が出来ない。
逃れられないからこそ僕は生の喜びを感じたいと思うようになった。最後の僕との思い出が最悪の出来事にならない様に、僕は常に最高の思い出を届けられたら良いだろうと思った。


悲しい涙を流すのなら嬉し涙を流して欲しい。
祖父が亡くなったあの日、最後のお別れの時の皆の優しい顔を見ながら僕は胸に誓った。


どうせいつかは死ぬんだ。
わざわざ辛い思いをせずに痛い思いをせずにいつになるかわからない最後の日まで取り敢えず生きてみようと思う。

相変わらず下らない事も、ムカつく事も、理不尽な事も多い。だけどそんなクソみたいな動機で死んでたまるかと思った。そんな理不尽な出来事を投げてきたら死ぬ前に顔面に投げ返してやってから死んでやる。
そんなクソの為に自分の大事な人達の涙を考えるなんてクソ喰らえだと思う。全く反吐が出る…。


クソであればあるほど僕は前を向いて生きようと願う。
どうせ明日も同じ世界だろう。だけどそんな世界が幸せなのかもしれないな…。

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