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ケース-1271364⑬
次の日の朝8時、KAの携帯に電話がかかる
「東出君!総監の綿倉だが、資料送ったが見てくれたか?」
「いえ、デスクでしか確認しません」
「タイムリミットは出来るだけ伸ばしたが、君がぐっすり眠る為じゃないんだよ…この件はアーカイブ課に加筆して提出しておいたから、出勤して確認をしなさい」
「かしこまりました」
ブツッと切断音が聞こえた。
KAは東出との捜査で得た東出の音声記録に照らし合わせながら
この一連の流れを整理している。
東出のホログラムがKAの視界の中に再生される
「犯人の目的はなんだと思う?」
「わかりません、ですが江藤警視総監の失脚に関して関係があるだろう、というのはわかります」
「誰が美味い汁を吸った?」
「明確に、というなら綿倉さんでしょう」
「その関係者に得した人間はいないか?他には」
…他に…他に?
綿倉が内閣総理大臣に任命されたのはかなり早かった。二日とかかっていない。違和感はある。
一大事とはいえ、組織としての動揺が感じられなかった。
政府が…?
あるいは…江藤のなだめていた"お偉方"と言われる第三組織か…?
政府ならば綿倉を使ってやりたい事があるはず
それに綿倉が奔走しているような心の余裕の無さは見られなかった
そして第三組織ならば、秩序を壊すクーデターが起こった可能性がある
一番厄介で一番捉えどころのないものだった。
警視総監にのみ引き継がれてきた、国土を守る為の武力と経済力の大半が会する組織
その一部のクーデターとなると、ヒントが少な過ぎた。
「厄介な推理が生まれました、東出刑事」
そう言いながらシミュレーションをやめ、KAは東出になる身支度を済ませた
感情があるわけではない、とKA自身は信じているが
再生映像が対応出来ないとわかっている問いは
投げかけた後に再生を止めてしまう
オンボロのミッション車はすぐさま警視庁へ向かった
建物の内部の受付でアンドロイドに聞く
「アーカイブ課?ってぇのはどちらです」東出の話し方を真似して頭をボリボリかきながら聞く
アーカイブ課への通路を歩く
私服や制服、スーツの人間とは長い廊下ですれ違う程度
この時代は所属していたとしても建物の中に必ずいる様なルールは無くなっている。
人がまばらにしかいなかった。
アーカイブ課と書いてある扉の部屋には
ウォーターサーバーのサイズの、青白く光るラインの入った機械がポツンと置いてあるだけだった
機械は「アーカイブ課へようこそ、取り出したいデータを参照する為に、声紋認証あるいは認識番号を入力してください
認証番号を打ち込むKA東出
「資料をダウンロードしました。
ケース番号1271364
この事件についてのアーカイブを自身の端末に保存しますか?」
「USBに頼む」
「かしこまりました、USBを挿入してください」
アーカイブ課の端末の右側の面がスライドし丸いプラスチックの蓋がシャコッと音を立てて開き
KAはUSBをそこに挿し
青白い光を放つ端末が完了の音を立て、それを抜き取る。
車に戻り、家に戻った時間はまだ10時になる前だった。
ネットワークが常に繋がっている世の中で
AIの干渉がほぼ行われないUSBをKAは重宝している
自分ごとネットワークに繋ぐと、ネットワーク上から自分が東出でないということがバレてしまうので東出と偽証する時に、自分のオンラインを切断したのだ。
USBが使える端末を住処に置いている
東出の残した道具の一つだった。
そこにUSBを差し込んで資料に一旦目を通す。
証拠の出ない不審死、証拠を改竄した痕跡は無い
意図的に見えない部分を逆手にとって証拠を隠滅していた
加筆したと伝えられていた情報に関しては
逆探知が行われた電話番号と最終のGPSの地点
オーソライズデータが消された事により
本人の関係者を手当たり次第当たることなどが推奨されている。
到底タイムリミット内に終わらないものばかりが手がかりとして提出されていた。
不審死の一覧のシチュエーションを見ていく。
殺害方法にこだわりはない、相手はプロの中でも指折りだろう
一度見て、聞いたことはKAは忘れない。
ひと通り目を通した後、大阪まで車で飛ばす
車の中では東出のシミュレーションと自問自答を繰り返す
資料を参照しながら。
整理現象が無いのもおかしいのでパーキングエリアで適度に休憩を取り、トイレに入り
水やパンを買い、中身を捨ててゴミを助手席に置く
約7時間の運転後、西日が沈みかける頃、スラムに着いた。
スラムの人間達は0.1秒監視社会では考えられない程、IDを持たないモノばかりだった。
誰かを認識出来ず、黒い影が多く通る。
オーソライズデータという、本来は国に登録されているハズのデータが未登録、あるいは元々から無い人間ばかりだった。
名前もわからず認識出来ない人が行き交う街
スラム
たまにオーソライズデータがある人間もいるが
まばらにしかいなかった
東出から貰った生体ID、この中の登録されている信号を頼りに
近いか遠いかを探る。
30分歩いた所で、信号は動きをみせる。
信号の発信感覚が短くなる
一つの店に着いた、新聞を扱う店、ニューススタンドだった。
その向かいの壁に寄りかかり、ボンヤリしていると
江藤が出てきた
「久しぶりだな、どうした」
「一つだけ聞かせてください」
「長いことは出られない、どんな事だ」
「国定評議会についてです」
「何について知りたい」
「今回の一連の事件、綿倉警視総監の後ろに大きな組織がいなければ成り立ちません
実行犯を捕まえます。クーデターを起こすとしたら
という候補の人間を教えてください」
「…ほぼ解決してるようだな、なるほど、綿倉より上が関与してるか…」
「解決してますか?」
「東洋電人CEO だ、何度となく自分の傀儡を良い席におきたがっているからな…おそらく綿倉とも繋がりが暴けるだろう」
「ありがとうございます、どこから探れば」
「ネットワークに繋がってるから自然な成り行きを作り、アクセス権限の申請と、実行した人間について」
「人間じゃないと思っております」
「人間じゃないとはどういう事だ?証拠が残っていないがプロの犯行だろ」
「プロではなく、プログラムです、バグの一種でしょう、その場にいるアンドロイドによる暗殺のハッキングプログラムが働き、記憶ごと消去されている…ような。
手口や証拠隠滅が人間程雑ではありません」
「人間程雑じゃない、ね」
「その場の置き物の位置すら元に戻す、ミリ単位で、限られた時間で、それを人間が遂行するには3D写真を撮り、複数で襲い、シミュレーションを量子コンピューターに入力し、血溜まりの位置と発見されるまで予測しないといけません。
流石にそこまで徹底する人類は見た事ありません」
「時間もかかるだろうな」
「ええ、一方、アンドロイドやAIによる計算を並走させながら、全てその場にあるモノで殺人を完遂するのならば、手口が残らず、おそらく短時間になります」
「だがKA、難しいことがある、証拠集めだ、プログラム自体も権限からいうと出ないかも知れん、おそらくそれで握りつぶされるぞ、上に申請を出しても」
「ですが犯人はその東洋電人のCEOなんでしょう?」
「…元まで叩き潰せはせん…相手は東洋電人、他国から付け入る隙を窺っているとはいえ、ワシらの権限は下だからな」
「そうですか」
「巨悪とはバランスの中でやっていくしかないのだ」
「ならば証拠を見つけ、他の国定評議会にリークします」
江藤は笑った、感情がなければ目的に対して効率しかないだろう。
最善策であり、杞憂を含まない、当事者では出来ない選択だった。
「ならばまず、リリシアという会社を当たれ。江藤の使いだと言って、代表取締役に洗いざらい話せ」
「国定評議会の一人ですか?」
「あぁ、迷惑ばかりかけた元嫁だよそれでKA…リミットは?」
「あと55時間あります」
「余裕じゃな…お前が警視総監やると良い、KA、そうか。面白いな、何も感情が入らないとそうなるか…」
つくづく羨ましそうに江藤は感情に絆され続けた半生を振り返る。
「東出さんと話して導き出した確率の高い推論です」
「…そうか」
「ありがとうございました、東京へ戻ります」
KAは早足で去る
「おいKA」
KAが振り返る
「また会いに来てくれよ」
KAが会釈する。
KAは江藤の臨死まではこれから来ることはなかった。