資格と仕分け
職業不詳に見られることが多い。もうちょっと頑張って何の職業なのかを想像してみてほしい、と頼むと「バリキャリ女子に食べさせてもらっているいつまでも売れないバンドマン」とか「風俗嬢の家に転がり込んで働きもせずオンラインゲームばかりしている自称DJ」みたいな答えが返ってくる。
趣味でバンドに参加していたり、たまにDJの真似事をさせてもらったりしている素地がそういったイメージにつながるのかもしれないが、いずれにしてもヒモっぽく思われているのは心外だ。僕はいちおう美容師を生業としている。
美容師は厚生労働省所管の国家資格で美容師免許がなければ仕事をすることができない。僕も美容学校を卒業したのち免許を取得した。
美容師には一種二種とか一級二級みたいな細かい区分はないが管理美容師という付帯的な資格がある。美容師に衛生管理者の業務をプラスしたようなもので美容師の上級資格というわけではない。試験などもなく合計18時間の講習で交付されるので取得のハードルも高くない。
「2人以上の美容師を美容所で業務に従事させるためには管理美容師を置かなくてはならない」という法律があるため多人数の美容師が働く美容室を開設するためには必須の資格なのだが、逆の見方をすると1人経営の美容室や雇用されている美容師にとっては必要の無いものとも言える。
僕もいずれは取得しようと思っていたのだけれど「自分の店を持ちたい」とか「経営者になりたい」といった野心を胸に秘めていないと数万円の講習費と18時間の座学にはなかなか積極的になれない。
それでもやっと重たい腰を上げようとリサーチを始めたら「管理美容師廃止」というワードが目に飛び込んできた。2010年に管理美容師は廃止という決定がなされている。しかし制度は2023年現在も続いている。どういうことか。そう、民主党政権時代の「事業仕分け」だ。
当時の政権から「こんなもんいらん」と断じられた管理美容師だったが、そもそも管理美容師の扱いは法律で定められている。廃止するには法律の改正が必要なのだ。斯くして管理美容師は「失くすと決めたけど存在する」という中途半端な資格になった。同じような憂き目にあった事業や資格がきっと他にもあるのだろう。
初めて手に入れた強大な権力を振り回したくて仕方がなかった政治家たちの夢の跡を垣間見た出来事だった。為政者は長くその座にいると腐敗することは歴史が証明しているが、権力を振るえる期間があまりにも短いとそれはそれで世界はただ混沌とするだけなのかもしれない。