好きなサッカークラブが変わりゆく時に思うこと
東京武蔵野シティFCが大きく変わろうとしてる。
端的に言えばアマチュアクラブのプロ化なんだけど、それに対して(特に無料招待キャンペーンについて)思うことがあるので書き留めておきたい。
武蔵野シティは現在JFLというアマチュアサッカーリーグで活動している。プロ契約選手を多く抱えるクラブや昼から練習できる実業団、学生チームまで混合玉石のリーグになる。武蔵野の選手は昼間働くか学校に通いながら夜間練習していて確かプロ契約選手はいない。
元々は横河電機という地元企業の部活動だったが、企業主体のクラブチーム横河武蔵野FCを経て現在はJリーグを目指すべく企業名を外し東京武蔵野シティFCとして活動している。横河電機は現在メインスポンサーという立ち位置で横河の社員の選手も多くいる。つまり、東京武蔵野シティというチームはプロ化を目指しているアマチュアサッカークラブという立ち位置になる。
Jリーグに加入をするにはそのカテゴリーに応じたクラブライセンスが必要になる。武蔵野は一昨年その審査を受け、順位成績、スタジアム、観客動員数、財務、その全ての条件が満たせずに落ちている。
特にスタジアムは絶望的で、事前にJリーグから指摘されたバックヤードの設備について武蔵野市が予算組んで整えてもNGだった。新設するには予算どころか建設用地もないのが武蔵野近隣の現状だ。渋谷に新スタジアムを、とかいう話も挙がっているけどあれはハイリターンのあるビッグクラブ向けで武蔵野にはあまり関係ない話だろう。
ところが事態が変わった。去年は申請を出せもしない状態だったのに今年申請したら条件付きで通ったのだ。通ってしまった、と表現した方がいいだろう。ホームのムサリクこと武蔵野陸上競技場はNGで新スタジアムの建設計画と完成ができれば期限付きでライセンスを認める、というものだ。それを実現するのは相当難解だと思うが、ともかくスタジアムは通ってしまった。そのため、他の条件を満たすべく動くことになる。
成績順位は現在4位で現状唯一真っ当に条件を満たす可能性がある。フルタイムで働きながら成績を残している選手の頑張りには本当に頭が下がる思いだ。
財務。ここは不透明だけどぶっちゃけ現状J3で予算が少ないチームとそこまで大差はないだろうから無理して高額プロ契約選手を取らなければ条件を満たせるだろう。でも、これからプロ契約選手数人とS級ライセンスを持った監督が必要になるから油断もできない。
問題は観客動員数だ。1試合平均2000人。今年はこれまで平均1200人なので残りホームゲーム3試合で平均5000人の動員が必要になっている。
そもそもムサリクのキャパがそれくらい。武蔵野の最大観客動員数でも4000人しか集めたことはないし、それも国立競技場開催日だからムサリクに限定すると2700人が最大動員数だ。普通に考えればムチャもいいところなんだけど、可能性があるならやるしかない、という状況になっている。
そこで、クラブはこんなキャンペーンを組んだ。
https://twitter.com/TMCFC1939/status/1185099240550227969
かいつまんで言えば無料招待企画で満員にしようというものだ。
これが賛否両論含めてそこそこ話題になった。そりゃそうだ、ただのかさ増しでJリーグに行こうと言っているのと同じなのだから。このチェックをするのは入場料収入の安定化の確認だろうから本来の意図と違うだろう。
安全面も不安がある。過去ムサリクで2000人を超えたことは何度かあるけどそれで超満員だったと言っていい。それ以上増えるとギッチギチに座ることになる。のんびり花見とかしながらサッカー観戦するなら芝生席も良いものだけど、普通に見るなら高さがないから見づらいしピッチも遠く、詰めて座ると狭いし傾斜もあるしで荷物も置きづらいはず。トラブルが起きやすくなると考えるべきだが捌けるのだろうか。
トイレも酷く混雑するだろう。一応半券を持って外に出れば隣接している体育館のトイレも使えるけど、大挙して押し寄せて他競技に迷惑を掛けてしまうのは大変よろしくない。
例え集客がうまくいったとしても顧客満足度が低ければ意味が薄い。下手をすれば長期的スパンでマイナスになりかねない。これでいいんだろうかという疑問は強く持っている。
だから個人的にはとても複雑だ。上記の理由で反対の要素が強い。でも賛成できる部分もあるのだ。
そもそも武蔵野シティは入場料収入のウエイトが著しく低いと思われる。会費4000円の後援会に入ればホーム全試合見放題、つまり超格安の年パス4000円状態なのだ。来年の後援会員は価格改定されて6000円になったけど、それでも破格といっていい。入場料のウエイトが低いから、実は無料招待企画は過去に何度もやったことがある。でも、無料にすれば人が集まるかと言えばそんなこともなく、そんな甘いもんじゃないというのが現実だった。だから現状武蔵野の試合はあまり価値が出せていない、これから上げていきたいという状態なんだと思う。まず来て見てもらう、ということが重要なフェーズだと考えれば無料招待することに賛成できるかなと。
とはいえ、無料招待は2割残れば大成功というソシャゲの継続率のようなものでやはり難しいだろう。一度来てもらっても次に来てもらえる保障はどこにもない。3000人を集めてムサリク動員新記録を作れば大成功の部類だと個人的には思うが、それでJリーグ入りの条件が満たせなくなることが分かれば残り2試合の注目度は一気に落ちてしまうだろう。サッカーの面白さは何も変わらないというのに。
今回のキャンペーンで改めて感じたのはJリーグというブランド力の強さだ。元々Jリーグを目指す前は平均700人程度だったのに、Jリーグを目指すというだけで観客が500人増えたし、今回のキャンペーンが注目されたのもJリーグに入れそうという違いがあるからだ。
これはまずい。とてもまずい。上を目指すことが至上命題になってしまう。
当たり前だがサッカーは勝つチームがある一方で負けるチームもある。そして残酷なことにその多くは予算規模で決まってしまう。武蔵野はJ1優勝を目指すクラブ規模ではない。別の価値を見出すべきだ。このままではせっかく新しく来てくれる客層との間にギャップが出来てしまう。クラブとサポーターが価値を共有されないとお互いが不幸になってしまう。
では、武蔵野の価値とは何か。個人的には育成だと思っている。育成年代のころに武蔵野にいたJリーガーはかなり多く輩出しているし、U12はダノンネーションズカップで優勝したこともある。調べたことはないけどFIFA公認の世界大会で優勝したことのあるクラブは日本国内にそうそうないだろう。トップチームも鈴木慎吾のようにJリーグで解雇された後に再チャレンジする機会になる要素もある。
どうせなら日本の全クラブに横河グランドから巣立った選手がいるような状態を作って武蔵野を見れば日本サッカーが分かるとかそういう大言壮語を吐いてしまえばいいのにと個人的に思っている。J1優勝を目指すというルートとは別の健全な目標を作らないといけない。高校野球のようにプロ野球よりレベルが落ちても人気を維持できるのは価値を見出せるものがあるからだ。武蔵野もそれを確立させなければならない。
まあ、武蔵野の価値については完全に個人の感想だし大言壮語なので置いておくとして、今回はじめて見に来てくれたお客さんが少しでも武蔵野に魅力と価値を感じてくれたらいいなと思う。ミーハー大歓迎だ。
そもそも自分も初めてムサリクに行ったのが2000年の横浜FC戦。フリューゲルス解散という社会的な悲劇が色濃く残っていたときの話で、そのときの観客動員2700人は今でもムサリク最多記録なはずだ。来てくれれば継続してみてくれる人が1人でも増えるチャンスがあるということを自分自身が実感している。
無料招待企画に思うことはいっぱいある。近隣のJクラブのようなホスピタリティも期待できないし満足度も低いだろう。でも、サッカーが持つ面白さは確実にあると言い切れる。だからぜひムサリクに足を運んでもらいたい。
そんなことを試合前に書きとめておいてから観戦に行ってくる。