心の置き所が分からない東京武蔵野ユナイテッドへの気持ちと、これまで楽しませてもらった横河と東京武蔵野シティへの感謝
東京武蔵野シティFCが東京武蔵野ユナイテッドFCになりました。
かいつまんで流れを書くとこんな感じです
・2020/08/03 武蔵野シティが百年構想クラブから脱退しJリーグ入りを断念、今後運営会社を横河武蔵野スポーツクラブに移管することを発表
・2020/12/08 トップチーム移管スケジュールを1年早めて2021年からとするよう発表
・2021/01/15 トップチーム運営を東京ユナイテッドと連携し東京武蔵野ユナイテッドFCと名称変更することを発表
提携の詳細については武蔵野公式が分かりにくいので東京ユナイテッドのリリースを見るといいです。
https://www.tokyo-musashinocity.com/contents/394579
https://tokyo-united-fc.jp/news/club-2021-791
当初の予定を1年早めて運営会社の移管を決めたあたり、そして武蔵野のアレな部分もさることながら東京ユナイテッドのほうが前のめりなあたり、
東京ユナイテッド側からお話をいただいて検討した結果そうした決断をしたんだろうな、という印象です。
東京ユナイテッドにとってはメリットが分かりやすいです。
激戦区となっている関東リーグおよび地域決勝の勝ち抜きをせず武蔵野シティのいるJFLでクラブ経営に参画できます。
しかも東京ユナイテッドはセカンドチームという立ち位置にはなりますがクラブはそのまま残ります。
武蔵野側のメリットは横河電機と同格という形でスポンサーを得たということでしょうか。
武蔵野市の東京武蔵野シティと文京区の東京ユナイテッドの合併チームのように見えますが、武蔵野側のサポーターとしてはちょっと受け取り方が違います。
東京ユナイテッドとは違い、東京武蔵野シティは東京武蔵野ユナイテッドとなるためなくなるのです。
本社所在地も文京区になります。新エンブレムも武蔵野は紫草だけ残っていますがチームカラーを失いました。
マスコットには言及がありませんが、青と黄色と紫草とゾウという武蔵野の意匠をがっつり組み込まれたこはなちゃんがそのまま引き継がれるとは思えません。
アイデンティティを失ったのは武蔵野側という印象が強く、サポーターとしては喪失感がものすごく大きいのです。
東京ユナイテッドが武蔵野の提携相手としてふさわしかったのか、については割愛します。
東大ア式との間にトラブルがあったことは知っています。武蔵野に在籍していた多田憲介が退団後に東大ア式に所属していたので、告発ブログにもそれっぽい名前が登場していたことを憶えています。
ただ、まずは東京ユナイテッドよりも武蔵野シティと向き合いたいんです。
そもそもですが、私にとっては武蔵野のJリーグへの加入はそこまで重要とは感じていませんでした。
そんな私でも境浄水場の上とかスタジアムに有効活用できないかなー、都の管轄だから小池さん何とかしてくれないかなー、とかいう現実的にはありえない妄想をしたことはありますけど。
ただ、元々はJFLのままで昇格を目指していない頃から応援していたこともあって、無理してJリーグに行くよりJFLで地に足付けて地域密着していくことでも幸福感を得られていたんですね。
初めて横河の試合を見たのは2000年、ムサリクでの横河電機対横浜FCでした。
前年JFLに昇格したばかりで苦しんでいた横河FCとフリューゲルスの悲劇を経てプロクラブを作り上げた横浜FCとは正直実力差がありました。
それでも「JFLは通過点で全勝優勝が目標」だった横浜FCをいけ好かなく感じていたのは地元クラブとして横河に愛着を持ち始めていたからだと思います。
芝生席まで埋め尽くす人数でチャントを歌い続ける横浜FCのサポーターに対し、なんともゆるーい空気の横河。
アフターで削ったプレーを見落としたっぽい審判に対し、「9番でーす」と観客席から声が飛んで横浜FCの9番有馬にイエローが出たり。
かと思えば八十祐治のゴールでなんとか1点返したとき、みんなが喜びを爆発させたムサリクには一体感が生まれたり。
試合は順当に横浜FCが勝ったんですが、また観に行こうと思わせるには十分な観戦体験でした。
強さだけじゃない、魅力的なサッカーが身近なところにあるのを知れたのは本当に幸せなことでした。
それでも武蔵野がJリーグ入りを目指すとしたときに賛同できたのは理由があります。
かつて横河にいた鈴木慎吾のようにアマチュアからJリーガーになって結果を残せる選手はごくわずかです。それでも、選手が夢を追いつつ競技生活をやりきるまでサッカーを続けられる環境が武蔵野にはあります。
そんな武蔵野の選手を取り巻く環境は決して恵まれたものではありません。
ほとんどがアマチュア契約で、一部学生もいますが社会人はフルタイムで働いた後に夜練習しています。
また、全員が横河電機およびその関連会社の社員というわけではありません。ちょうど就職氷河期の2003年に横河電機からクラブチーム化した横河武蔵野になって以降、横河の社員選手は一部だけでパートナー企業で勤務している選手が増えています。
収入も、引退後の境遇も、約束されたものではありません。
J3でもまだまだ似た境遇のクラブがあると思いますが、応援している選手たちのサッカー環境をよりよくできるならJリーグもいいと思えたのです。
J3なら加入できる可能性があったためクラブとしてそれを模索することとなるのですが、一朝一夕では解決できないスタジアム問題にぶち当たってJリーグの加入を断念し運営会社を横河武蔵野に戻すとなったとき私はそれほど悲観していませんでした。
目標をJリーグとしていた選手たちへの申し訳なさはありましたが武蔵野で頑張ることで個人昇格するチャンスがつかめますし、クラブとして地に足付けてJFLでやっていくのはただ原点回帰するだけでしたから。
むしろ、横河に大政奉還することを歓迎していた人もいたと思います。
「横河」は地域に愛されていました。
Jリーグを目指すために企業名をはずして武蔵野シティとなりましたが、今でも横河武蔵野の印象が強いという人は多いです。
特に横河の貢献は育成面で強く発揮されていました。
アカデミーからは多くのプロ選手を輩出し、日本代表に選ばれた選手もいます。
wikiに下部組織出身選手の欄がありますので興味のある人はその影響力をご確認ください。本当にすごいと思います。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E6%AD%A6%E8%94%B5%E9%87%8E%E3%82%B7%E3%83%86%E3%82%A3FC%E3%81%AE%E9%81%B8%E6%89%8B%E4%B8%80%E8%A6%A7
なかでも阿部拓馬や藤吉皆二朗、渡辺悠雅はトップチームに登録されていたこともあり、個人的にも思い入れが強いです。
横河グラウンドから巣立っていった選手の活躍も楽しみのひとつでした。
2014年にはジュニアがダノンネーションズカップで優勝しています。
U12とはいえFIFA主催の国際大会で世界一になったクラブが国内にどれだけあるのでしょうか。
加入規定にあわせるためだけにユースを作ったクラブでもJリーグの理念を満たしたと判定されることへの疑問点もあり、イチ企業というだけでJリーグの理念から外れていても、それに勝るとも劣らないものが横河にはあると感じていました。
こうした地道な努力の下地があってこそ、5000人を集客キャンペーンで集めることができたのでしょう。
最終的に集客数はJ3ライセンスの加入条件を満たせませんでしたが、課題があったのはクラブとしての体力であって地域密着できていなかったのでは決してないと思っています。
武蔵野のダメだったところは今回のリリースの分かりやすさが如実に表していると思います。
集客もそうですが広報とかこうした部分に力を割けていないのです。
先日高校サッカーで選手権を制した山梨学院に2014年のダノン優勝メンバーの依田選手がいたので注目していたのですが、高校生たちのほうがスマホネイティブな世代ということもあってよほど上手くツイッターを活用している印象を受けました。
そういった意味では東京ユナイテッドは武蔵野の欠点を補ってくれるパートナーなのかもしれません。
でも、欠点を補うことで好きだった部分がなくなるのではないかという思いがあるのです。
Jリーグ加入には5000人の集客が必要という局面でホームページを見ると、トップにババーンと出るのはかけっこ教室の告知。それが武蔵野でした。
単純に考えればヘッタクソな集客っぷりです。普通に更新をサボっただけかもしれません。でも、本当の地域密着とは何かと考えると結果的に正しいと思えてしまうような不思議な魅力も感じていました。
東京ユナイテッドとの連携はトップチームだけで、育成部門は横河武蔵野の管轄になります。
2019年、守護神飯塚渉の引退セレモニーではご家族だけでなくユースの伊藤旋太くんが花束を贈呈していました。
2014年のダノン優勝メンバーだった伊藤くんがトップチームに敬意を持ってくれていたように、今後も育成の選手たちにトップチームの選手のことを身近な目標として感じてもらえるような環境が維持できるのでしょうか。
ユースがどういったチーム名になるのかなどはまだ未発表なので断言はできないのですが、これまで横河が、武蔵野が醸成してきたサッカー文化を捨てることにはならないでしょうか。
それもまだ見えてこない、分からないのです。
少なくとも私は今回の発表や新しいエンブレムからはトップと育成が分断されたように感じています。
一方で、武蔵野は何もしなければどんどん苦しくなることは理解していました。
毎年レギュラーが武蔵野から他のJリーグを目指すJFLクラブに移籍している状況が続いています。
武蔵野の積極的に行った補強はここ数年で水谷侑暉と差波優人くらいだったでしょうか。(両選手とも八戸からの獲得で今年は青森に移籍ですね)
そしてJリーグを目指すJFLクラブで契約満了となった選手を獲得することが多くなりました。もちろん、その中から田口光樹や小口大貴のように活躍してくれる選手もいます。というか武蔵野にやってきてくれた選手には移籍の経緯なんて関係なく応援します。
ですが、チームの補強として考えるとこのままでは年々ジリ貧になってしまうのは明らかです。
2020年のJFLは上位を除くとがかなりの団子状態でほとんど差がありませんでした。
そんな状況の中、補強はJリーグに入りに近いと見込まれるクラブから決まっていっています。武蔵野は今年も主力の流出だけが決まっており、このままでは残留争いに巻き込まれてしまうことでしょう。
関東リーグに降格した場合、そこはJリーグ入りを目指すクラブがたくさんある激戦区です。武蔵野よりもプロ契約選手が多いクラブが複数存在します。
そこから更に地域CLを勝ち抜きJFL昇格を決めることも大変なことです。武蔵野も横河電機時代に地域決勝の苦しさを何度も味わっています。
それでも東京武蔵野シティが「東京」という大風呂敷を捨てて「武蔵野」で地道にやっていくことにしたのは決して悪いことではないと感じていました。
J3にしろJFLにしろ関東リーグにしろ、地に足を付けて活動することこそが重要で、規模に合わせたカテゴリーに属するのは自然なことですから。
もちろん簡単に関東リーグに落ちてよいというわけではありません。「武蔵野」として地に足を付けて活動する場所がJFLであるよう今後も応援していくものだと思っていました。
ところが、ふたを開けてみれば急転直下で「東京」として東京ユナイテッドと手を組むことが決まったのです。
なんと表現すればよいのでしょう、心の置き所が分かりません。
そもそも東京ユナイテッドと組んだからといってJFLの残留が確約されるわけではありません。
まだ武蔵野ユナイテッドのメンバーは発表されていないので断言は出来ないのですが、主だった選手はもう移籍先が決まってきている状況でどれだけ補強ができているのでしょうか。まあ、たとえ元Jリーガーが加入してもJFLで活躍できるかは別の話なのですが。
というか、思い入れの深い武蔵野シティに所属していた選手がどれだけ武蔵野ユナイテッドに所属するかすら分かっていないんですよね。
ツイッターで所属先を表明した選手がいましたが(クラブからの発表前だからか削除済み)、それを見て選手それぞれに対しては素直に応援できる感情があることが分かりました。
でも、その感情が東京武蔵野ユナイテッドに対して沸かないんです。
今後スカッドが発表されてどれだけ武蔵野カラーが残っているかというのもありますけど、熱量としてはイチからやり直しという感じです。
惜しむらくは、SNSでの反応を見た感じだとイチからではなくマイナスの感情を持った人もいるということです。
私はコアサポの皆さんとは交流は持ちませんでしたが、アウェーに行くといつもいて、チームに勇気を与えてくれていました。
そんな武蔵野に愛情を注いでいた人たちがスタジアムから減ってしまうのは本当に残念なことです。
私はとりあえず開幕戦はスタジアムに行く決断をしました。まだムサリクでやるかすら分からないですが。
少なくともはじめのうちは事の顛末がどうなるか見たいと思っています。
対戦相手がラインメール青森だというのも大きいです。青森に水谷と差波がいるというのは辛いけど、今となっては救いです。
将来的に武蔵野にいた選手それぞれを応援しているうちにユナイテッドにも愛着が沸くかもしれないし、愛着をもてないままユナイテッドから離れるかもしれないし、その後のことは何も分からないです。
何度も書きますが、本当に心の置き所が分からないんです。
身もふたもない言い方になりますが、開幕戦に行くのは惰性と未練ですね。
やはり、東京武蔵野ユナイテッドのことが横河や東京武蔵野シティとはどうしても同一視ができません。ひとつの歴史が終わったような気持ちです。
だからこの時点でひとつの区切りとして、20年楽しませてもらった横河電機サッカー部から横河武蔵野FC、東京武蔵野シティFCに感謝を伝えたいです。
本当にありがとうございました。