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幻獣戦争 1章 1-2 不在の代償

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序章 1章 1-2 不在の代償①

 翌日、用意された自室で目を覚ました俺は、田代本部長お付きの副官の案内で食堂に向かい、朝食を済ませ九州要塞の教育棟へ赴く。座学室前で俺は副官と別れ中で講義が始まるのを待った。
 座学室は広く大学の講義室のような造りで、俺はその一番左端先頭の席に座っていた。程なくして朝食を終えたのであろう教育中の隊員達が入室し始める。
 入り方は様々でおよそ30~40人程度の隊員達が席に座っていく。が、残念な事に俺の事は気にしていないようだ。一応上官のはずだがなあ……
 他の隊員達が座り終えると遅れて指導教官が入室。教官は教壇に立つ寸前俺に気づく。

「全員起立!」
『あっ!』と、表情を変え教壇に立ち直ぐに発声。その号令に従い俺も起立。
「比良坂陸将に敬礼!」
 教官は俺を見て敬礼を向けてくれた。俺は敬礼を返し続いて隊員の敬礼を返す。
「着席!」
 教官が号令すると隊員達は速やかに着席。どうやら俺に驚いているようで、興味津々に視線を向けているのがわかる。しかし、態度変わりすぎだろ……
「本日は怪我で長らく前線から離れていた比良坂陸将と一緒に座学に励んでもらう。陸将。本日座学を担当させて頂きます南綾香一等陸曹であります。よろしくお願い致します」
 陸曹は俺を見てそう述べる。

「よろしく頼む」
「では、皆陸将に質問したいこともあるだろうが座学を始める」
 俺の相槌を軽く流して綾香陸曹は隊員達に目を向け言う。
「復習になるが我々の敵、幻獣についてから始める。現在日本国内で観測されている幻獣タイプはいくつある?」
 陸曹は隊員達に投げかける。
「大きくわけて、大型、中型、小型の3タイプであります」
 隊員の一人が手を上げ立ち上がり答え座る。陸曹は頷き、教壇に設置されているプロジェクターを起動させ、備えられているスクリーンを降ろし映像を映し出す。
「そうだ。まず小型タイプから話していこう。小型タイプには3種類の幻獣が居る。一つは欧州の神話に登場するゴブリン種、宗教で馴染みのある天使種、それから日本で確認された鬼人と呼ばれている角を生やした鬼人種だ。この3種は我々人間とあまり変わらないサイズで、我々が持つ銃火器でも十分対応が可能だ。しかし、この小型タイプの中に通常弾が通用しないタイプの幻獣が現れ始めた。こいつらへの対応には魔弾が必要になる。ここまでは良いな」
 陸曹は順に述べ続ける。

「君達の中にもいるだろうが、魔弾は特殊な術者にしか作ることが出来ない。そこで開発されたのが現在様々な兵器に運用されている封魔鉄だ」
 陸曹は封魔鉄の映像を出し解説する。
「この封魔鉄が使用されている弾丸は魔弾と同程度の効果があり、人類の技術と精霊が共同で開発し量産化にこぎ着けたものだ。諸君らが任地に赴いた先では必ず通常の弾倉と封魔鉄の弾倉が渡される。使い分けを忘れて無様に殺されるなよ」
 そう総括すると陸曹は次に中型幻獣の資料を映す。
「さて中型タイプに移るが、中型には様々なタイプが居る。蜘蛛型、憑依型、タウロス型、オーガ型、大体の襲撃にはこの中型から指揮官型が出没する。陸将、指揮官型のご説明願います」
 陸曹は唐突に俺を指名してきた。別に眠いわけではないのだが……仕方ない。

「いわゆる群れのボスだな。解っているのはそいつを倒すと周辺の幻獣も消えてなくなるということだ。大体のケースでは群れの後方に控えていることが多い。誤解されがちだが決して弱いわけではない。むしろ戦闘力はずば抜けている。戦う時は用心するに越したことはない。これで良いかな? 綾香陸曹」
「ありがとうございます。では、続けて各タイプを順にみていこう」
 俺の着席を待ち陸曹は頷きスクリーンの映像を切り替える。
「まずは蜘蛛型だ。こいつの見た目はハエトリグモのような姿をしているが、小型幻獣のキャリアーとしての機能も持っている厄介なタイプだ。大きさは戦車の4倍程度で戦車より機動性がある。加えて我々でいうところの機関砲と榴弾砲を装備している。機甲課希望の者はこいつを見たら優先して撃破しろ。普通科隊員の損害を減らすことと同時に乗っている戦力を潰すことが出来る」
 陸曹はそう解説して映像を切り替える。次は憑依型のようだ。
「次に憑依型だ。霧状の幻獣と言われているが詳しくはわかっていない。なぜなら生きて情報を持って帰ってきたものが居ないうえに滅多に遭遇しない。残念だが貴官らが見かけるケースは憑依された後の幻獣だ。こいつは多くの場合、ヘリや足の速い車両に憑りついた状態で現れる」
 軽く咳払いして陸曹は次の映像に切り替える。最後はタウロス型とオーガ型だ。
「次にまとめるが、タウロス型とオーガ型だ。タウロス型は先日熊本県益城群に現れた個体と同じだ。動きはそれほどでもないが装甲が厚く、火力も生体ミサイルを使ってくるので極めて強力と言って差し支えない。我々でいうところの戦車に位置する幻獣だ。最後にオーガ型だ。見た目は牛の化け物だがこいつは実に厄介で、タウロス型よりも大型で俊敏であるため機甲車両での対応は困難だ。加えてオーガ型の多くは近接武器をもって接近戦を挑んでくる。しかし、それだけではない。生体ミサイルを持ちタウロス型と同様に装甲も分厚い。諸君らの中に戦略機に乗る者が居れば、このオーガ型と戦うこともあるだろうから覚悟しておくことだな」

 そこまで解説して陸曹は俺を見る。最後は大型幻獣だ。これは俺が現役の頃日本では2種観測されている……が、まさか俺に解説しろというのか?
「陸将。大型幻獣の解説をお願いします」
 陸曹はそう言って映像を切り替えた。俺が接触した戦艦の形状をした幻獣と亀のような形状の幻獣、その2種が映されている……ということは、増えていないということか?
「仕方ない。陸曹、確認するが新型は見つかっていないのだな?」
「はっ。肯定であります」
 俺の問いに陸曹は即答して敬礼する。講義中にしなくて良いだろ……まったく。

「では、大型幻獣について説明する。これは戦場で見るのは稀な存在だ。現在というより俺が昔撃破したタイプは、戦艦の形状をしたタイプと亀のような形状のタイプだ。この2種類の共通している点は一つ」
 俺はため息交じりに述べ言葉を止める。
「火力がとてつもなく強力で、そいつらだけで要塞レベルの戦力を保有しているという点だ。もし戦場で見かけたら速やかに司令部に指示を仰げ。いや、仰ぎながら逃げろ」
 改めて隊員達に向き直し伝える。無駄死には軍人の仕事ではない。聞いていた隊員達の一人が手上げて立ち上がった。
 俺は促し言葉を待つ。
「逃げろって、我々が逃げてしまったら民間人を守る者が居なくなります。それは構わないのですか?」
「無論良くはない。だが勝てない相手に立ち向かうのは君達の仕事ではない。君達が簡単に死んでしまったら民間人を守る者が居なくなり、ひいては態勢に影響が出てしまう。繰り返すが、太刀打ちできない相手に無理やり挑むのは我々の仕事ではない」
 隊員の投げかけに俺は断言する。無謀と勇気は別だ。
「では、陸将はどうやってこいつらを倒したのですか?」
「やつらのコアを破壊して倒したよ」
 続けて問う隊員に俺は淡々と答える。この先の質問は聞かなくてもわかる。

「僕らにもそれは可能ではないのですか?」
「無論可能かもしれないが、9割9分ここにいる皆が全滅する」
 隊員の尤もな疑問に俺は即答する。事実俺以外皆戦場に散った。
「そんな――」
 俺の言葉に隊員は愕然とする。
「こいつは近接戦闘をする相手ではない。可能なら超長距離射撃で仕留める相手だ。俺の頃はそんな装備がなかったので、所属していた部隊は俺を残して死んだよ」
「もっもうしわけありません!」
 隊員は今更察したのか慌ててそう言って立礼する。そう、もう思い出したくない過去の話だ。
「いや、良い。気にしないでくれ。綾香陸曹、これで良いか?」
「ありがとうございました! では、午前中はここまでとする。各自昼食後、再び戻ってくるように」
 質問が終ったと悟り俺は陸曹に目を向け投げかける。陸曹は速やかに抗議終了を宣言。隊員達は立礼すると退室していく。

「大して変わってなくて安心したよ」
「喜ぶべきことかもしれませんね。ですが、戦況は悪化しています」
 俺がそう言葉を漏らすと機材を片付けている陸曹は淡々と述べた。
「それも午後から講義してくれるのか?」
「午後からは戦略機が主な内容です。戦況については講義終了後に個別で報告させて頂きます」
 確認がてらの俺の問いに片付けを終えた陸曹はそう答え敬礼する。
「わかった。では午後また戻ってくるよ」
 俺は軽く答え敬礼を返し教室から退室した。 

次回に続く


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