ハジマリハ深い谷底から 二章 滅びの足音④
はじめに
そこそこ原稿の蓄積ができましたので、短期集中的に更新を再開します。
今回の更新内容全体をざっくり述べると、嵐の前の静けさというところでしょうか。
ですので、ちょっと足りないなと感じるかもしれませんが、ご了承ください。
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二章 滅びの足音④
基地司令室から退室して私は外で待っていた比良坂達4人に目を向ける。4人は敬礼すると私の言葉を待つように沈黙を返す。
「――ここに居るのもなんだ、歩きながら話そう」
私は比良坂達にそう告げ廊下を歩く。4人は私の後ろ続き歩幅を合わせ歩き始めた。
あの場で話を続けると草薙さん達と鉢合わせしてしまう。そうすると、余計話がややこしくなってしまうだろう。そうなってはもう収拾がつかなくなる。
「……すまんな。予想通りお前達の傍には居られなくなった。お前達の中から中級指揮官を選ぶように言われているが、誰が適当だと思う?」
「中級指揮官? ということはその誰かは昇進するのでしょうか?」
あえてそう質問する私に小野が訊き返してきた。そうか、比良坂が小隊長であるわけだから、このままでも機能すると考えているわけか。
「そうだ。俺の代わりだから当然そうなる。基地司令からそう言付かっている」
「なら、俺は比良坂を推すぜ」
私の回答に織田があっさりと推薦する。意外だな。自分がやると言うと思っていたが、弁えているのか?
「意外でござるな。てっきり織田殿がごねると思っていたでござるよ」
「信介さんはそこまで馬鹿じゃないっすよ。比良坂さんの事、裏では絶賛してるんすから。当然俺も比良坂さんに一票いれるっす」
「僕も舞人が良いと思う」
「某も比良坂殿を推薦するでござる」
「おい秀吉、あとで覚えておけヨ」
「えーばらしちゃ駄目だったんすか?」
「ははは。何かいつも通り過ぎて締まらないね」
「――比良坂。どうする?」
3人の言葉を聞いて改めて俺はそう問いかける。本人が嫌なら再考はする。が、お前になるだろうな。俺はそのつもりで鍛えてきた。
「……わかりました。皆がそう言うなら引き受けます」
「ありがとう。早速ですまないが、お前達はこのまま主計課で宿舎の事を聞いてくれ。その後は自由に……いや、整備班の面倒をみてやってくれ。そろそろ来るはずだ」
「――了解。では、失礼します」
私の言葉に比良坂はあっさりと頷き、廊下のT字路でそのまま別れて私は会議室に向った。草薙さんが招集する会議の準備をしなければいけない。
比良坂達と別れ私は稚内基地特別会議室へ赴く。陸上自衛軍の各地方基地は基本的に同じ構成で設計されている。そのため、新しい基地に配属となっても迷うことは殆どない。私が敢えて機密レベルの高い特別会議室を選んだかは、現情勢下で一番空いている可能性が高い。
そう踏んで向かっている。他の会議室に赴いて変にブッキングするのもバツ悪いというのもあるが……
特別会議室に辿り着いた私は、室内に誰も居ない事にホッとしつつ室内を改めて見渡す。室内は数十人程度なら余裕で収容できる程度の一室で、室内中央に楕円状の大きなテーブルに椅子が備えられ、室内北側にホワイトボード状の大型ディスプレイとその右端に事務官用のデスクがある。
私は事務官用のデスクに近づき状態を確認する。
「――助かった。一通りの仕事は出来そうだな」
デスクには恐らく会議室専用の端末と連絡用の内線が備えられていた。私は手早く席に着き端末を開いて電源スイッチを押す。ノート型の端末は静かにログイン画面を映し出し私は自分のアカウントとパスワードを入力。端末はデスクトップ画面に移行。
私はコマンドプロンプトからコマンドを入力して、名寄基地のネットワークにアクセスする。特別会議室はセキュリティレベルが高いため、基地のネットワークから独立しているためマニュアルでネットワークにアクセスする必要がある。
わざわざ名寄基地のネットワークにアクセスしたのは、私のネットワークフォルダに格納している資料などをこの端末に引っ張ってくるためだ。
私は手始めに山田司令の名義で比良坂の辞令書と私達の転属手続きに関する書類に加えて、草薙さんを指揮官とする命令書を作成。山田司令宛にメールを送信。
後は司令が上手く処理してくれるはずだ。続けて、会議で使うであろう稚内近郊の地図を準備。大型ディスプレイに表示できるよう端末を配線に接続する。
一通り書類仕事が終わり私は内線の受話器を手にとった。
「――名寄基地所属立花です。草薙三佐に取次ぎ願います」
「――はい。少々お待ちください」
コールして繋がれた交換に私がそう告げると、交換手は速やかに取り次ぎをおこなう。
「……俺だ。どうした?」
「一先ず特別会議室が空いていたようですので、そちらで会議ができるよう準備を整えました。三佐、この後はどうすればよろしいでしょうか?」
「特別会議室……ああ、そうか。お前この基地所属じゃなかったな。無茶ぶりをしてしまったか」
「この程度無茶振りの範疇に入りませんよ。それよりも誰が参加するのですか?」
「悪いな。流石に面子は俺が連れてくる。お前は少しそこで待っていてくれ」
「了解」
草薙さんの言葉に私は頷き内線を切った。さて、こちらはどうにかなりつつあるが、比良坂達は大丈夫だろうか? 何とかして様子を見に行く時間を割ければ良いが…‥