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幻獣戦争 1章 1-2 不在の代償②

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序章 1章 1-2 不在の代償②

 昼食を終え再び座学室へ戻ってくると、綾香陸曹と他の隊員達が既に集まっており、立礼して俺を迎えてくれた。俺は敬礼を返し午前中と同じ席に座りそれ合わせ他の隊員達も座る。
「では、午後の講義に入る。午後は諸君らの中から今後乗る者が現れるかもしれない戦略歩行人型戦闘機。通称戦略機についてだ。心して聞くように」
 陸曹はそう前置き、既に準備していたスクリーンに74式戦略機を映し出す。

「まず戦略機が生まれた経緯についてだが、誰かこの経緯について正確に答えられる者はいるか?」
 陸曹は隊員達に向かって問いを投げかける。その言葉に隊員達は沈黙する。
「よろしい。では解説する。幻獣戦争開戦当初、世界各国の軍部は人型兵器の開発を考えていなかった。当時はタウロス型や蜘蛛型が幻獣の主力でこいつらは比較的機動力がない。裏を返せば、戦車やヘリ、戦闘機で十分に対応が可能だということだ。加えて、戦術的に見て兵器を人型にするメリットは殆どない。自分から的になるようなものだからな。ではなぜ開発されたか。それは近接戦闘を得意とするオーガ型が登場したためだ。装甲が厚く機動力が高速車両並みの化け物。オーガ型の機動力に戦車は対応できないが、それだけでは戦略機を開発する理由にはならない。オーガ型は近接戦闘力が非常に高い、接近されたらあっというまに戦線を破壊される。これが問題だった。戦車には格闘戦ができないからな」
 陸曹は一度頷きそこまで解説すると一呼吸おき続ける。

「このオーガ型の登場により人類は敗北に次ぐ敗北を重ね、欧州が壊滅しラシア大陸は幻獣の支配下に置かれた。当然その余波は我が日本にも及び、満州は幻獣の手により壊滅。深刻な被害により人類はオーガ型への対応可能な兵器の開発が急務となった。世界各国で兵器研究が始まり、当初既存兵器を改修することをベースに研究を進められた。そうして生まれたのが我が国の場合、61式戦車をベースに改修された61式戦略機だ。61式は下半身を車体にしたまま砲塔部を人間の上半身の形状に改修、それに伴い兵装も新たに開発された。しかし、一定の戦果は挙げたがオーガ型の近接戦闘への対応がまだ不十分で、加えて弾薬をそれほど多く搭載できない欠点があった。この2点から最終的に量産化には至らなかった」
 そこで陸曹は隊員達が寝ていないか確認する。

「次に61式戦略機のノウハウをベースに新たな戦略機開発計画がスタートする。74式戦略機の開発だ。74式戦略機は車両の方はすぐに完成し配備されていった。しかし、人型化させるには技術蓄積が圧倒的に足りず開発陣は頭を悩ませた。というより匙を投げた。当時は敗戦濃厚で技術確立する前に人類が滅びると予想されていたからな。だが、そんな時世でも諦めなかった人間が居た。そう、帝だ。先帝は『相手がインチキしているのだからこちらもインチキをすれば良い』と、そう語り八百万の神々、精霊を日本に降ろす事に成功する。これが人類と精霊との初めての接触になる。八百万の神々は我々に積極的に協力してくれた。科学と魔法が手を結び、精霊からもたらされた知恵と力により、人型ロボット技術が飛躍的に向上し精霊の力、霊力を行使するための動力、神霊機関が開発された。この機関は一般的にはフォースエンジンと呼ばれている」
 寝ていないと確認し終えるとそこまで解説して、今度は俺に目を向けてきた。さすがに寝るわけにはいかないが、眠くなるのも事実だ。

「神霊機関が完成したことにより74式戦車の改良が進められ、それと同時に戦略機用の装備も本格的に生産されていく。今諸君らが見かけている74式戦略機は最近改修されたものだ。当時は変形機構をオミットした完全な人型兵器、74式B型、通信システムに特化したC型、装甲と火力を重視したD型、機動力と火力を重視したE型、指揮官用のF型、最後にそれらすべてのノウハウが集約され、諸君らが良く見る可変タイプのG型が現在でも活躍している。また、派生型として普通科隊員支援用の87式戦略機や、89式戦略機などがある」
 そこまで言って陸曹は87式と89式の映像をスクリーンに映す。

「87式と89式は小型幻獣及び蜘蛛型に対応するために開発が進められたもので、装備は74式と違い重機関砲が主武装。61式に近いモデルになっている」
 綾香陸曹は補足するように言葉を添えた。そう、この2機種のおかげで圧倒的に普通科の損害が少なくなった。昔戦っていた頃は重宝しすぎたうえに、弾を使い過ぎで上層部に文句を言われっぱなしだったな。
 続けて、終わりなのか陸曹は90式戦略機と10式戦略機の映像をまとめて映す。

「その後、74式のノウハウをベースに諸君らがニュース等でよく見かける90式戦略機の開発がスタートする。こちらは完全な上位互換機を作ることを前提に設計がされ、74式よりさらに大型化した。火力、装甲を重視した結果だな。しかし、74式に比べ機動力がやや劣る結果となり、そのノウハウが現在の主力戦略機として生産が進められている10式へ受け継がれる形となった。90式と10式の大きな違いは、オプションパーツのバリエーションだ。90式はどちらかというと車両に予め装備させるタイプで、10式は作戦に合わせて装備を換装するタイプだ」
 説明し終えると陸曹は改めて隊員達を見る。

「最後になるが、この戦略機に乗るには適性が必要になる。精霊と同調しやすい者、簡単に言ってしまうと霊能力のようなものだが、これから先諸君らにはその適性検査を受ける時が来る。適性がなかったからと言って腐らず訓練に励んでほしい。では、解散!」
 陸曹は最後にそう宣言して座学は終了。隊員達は立礼して座学室から各々退室していく。

次回に続く


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