1998年9月:ゆる登山前夜(4)

いつから山を始めたのですか?とよく聞かれます。

両親や身近な人が山好きだったわけでも、大学で山岳部だったわけでもありません。山に登ろう、と思ったのは1998年9月のこと。

当時の私は山好きではなく、「北海道が好きな旅人」でした。ユースホステルを利用してひとりたびをする人。自然豊かな地の宿に泊まり、泊まった人どうしで山や自然散策に出かけるのが好きでした。登山は旅でするイベントのひとつでしかなく、だから旅のとき以外には登りたいとも思わなくて。

1998年9月。大雪山の麓の宿に泊まり、泊まった人たち数名と登山を楽しむことになりました。黒岳から赤岳、銀泉台まで歩く予定でしたが、その日は雨。ロープウェイに乗って黒岳まで登り、さあどうしよう。雨だしガスだし、普通に考えたらじゃあ下山しようとなるのですが、同行者のひとりが先に進むと言いました。いろいろあって、たぶん今後北海道に来ることはなかなかできなくなることが分かっていた私。行けるのなら行きたいと思い、一緒に行くよ、と声をかけました。他の皆は来た道を戻り、私たちは先に進みました。

ずうっとガスで真っ白、ずうっと雨。ときどき、バケツの水をひっくり返したような土砂降りの雨や、体がふわっと浮かび上がるような強風。それでも…、周りの景色がどんどん変わっていくのが分かります。そしてガスが晴れたときに見えた景色。なんだこれは。足元のきれいな草紅葉、遠くの山々が赤く黄色くだんだら模様に染まっている。

…こうやって書いてみると、ひどすぎる登山。普通突っ込まないし、突っ込んだら山には二度と行かないと思うでしょう。なのに、そのときの私はなぜかテンション高く、山って面白いのかもしれない、って思っていました。帰京したら山に行こう。どこか行こう。

景色も見えずずぶぬれで、何がよかったのか全然分からない。でも楽しかった。なんでだろう。…暴風雨の中を一緒に歩いてくれた同行者が、かっこいい男子だったから…なのかもしれないな。今思うと。


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