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プロデザのマネージャーが「ワークショップデザイナー」として取り組んだ3つのこと
こんにちは、SmartHRのプロダクトデザイナーのうえんつ(@wentz_design)です。
普段は労務プロダクトの開発者としてのデザイナー人格で発信することが多いのですが、去年から始めたマネジメント人格で考えていることや取り組みが積み上がってきたので、自分の中の学びを言語化するためにいくつか記事に残しておこうと思います。今回は、「ワークショップデザイナー」の考え方をマネジメント文脈で実践してみた施策の紹介になります。
なお、このドキュメントに出てくる概念の説明は、私の主観的理解によって書かれています。よって、定義や正解を示すものではありません。
きっかけになったマネージャーとしての悩み
今年の2月で丸1年ほどマネジメント業務に取り組んできたのですが、以下のような課題感を持っていました。
組織にメンバーが増えてきたことで、これまでの会議のやり方が通用しなくなってきている(同じ方法でやろうとすると時間が足りなくなる)
ディスカッションなどで、積極的に発言できる機会が限られており、人によっては一言も発言できずに会議が終わるメンバーもいる
デザイナーは同じユニットや部内で連携することが多く、リモートワークも相まって同じユニットではないメンバー同士で関わる機会が減っている
これを放置し続けていると、組織がスケールアップしたときに意図しないセクショナリズムが発生したり、創発的なコミュニケーションや意思決定が難しくなることが想像できたため、何らかの対策をしておきたいな〜というところに、後述の講座と「ワークショップデザイナー」という役割の存在を知りました。
「ワークショップデザイナー」になるために
善は急げということで、早速今年の4月から青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラム(41期)という社会人向け講座に個人的に参加し、8月に修了しました。ちなみに、この講座を知ることになったきっかけは個人ブログに書いていますので、興味がある方はそちらもお読みください。
悩みもあり、組織での合意形成やファシリテーションの訓練になりそうだったという安直な理由で受講したのですが、実際に受けてみた感想としては、ただ単にやり方だけを習うのではなく、その背景にある教育学の知見や理論から知ることができたし、同じような課題を持っている同期とも出会えたので、受けてとても良かったと思います。とはいえ、それなりに労力と時間はかかりました。
この講座に参加して得た学びの一つとして「省察的実践家」という考え方があります。ワークショップデザイナーの専門家として成熟するためには、この「省察的実践家」として経験学習サイクルの中で実践と省察(内省)を繰り返すことが大切だそうです。
そして、ワークショップデザイナーの講座で得た学びや理論を自分のマネージャーとしての実務で応用してみようと思い立ち、実際に3つの施策に取り組みました。
早速施策を紹介したいところですが、施策を設計するための前提となる私自身の「ワークショップデザイナー」としての「ワークショップ」の理解・考え方について言語化しておこうと思います。
ワークショップの「デザイナー」とは
ワークショップというと、以下のウィキペディアの引用にあるように、何やらテーマがあってそれについてグループワークを行なって成果物や合意形成を行う手法の一つ、という理解が一般的かと思います。
ワークショップは、学びや創造、問題解決やトレーニングの手法である。参加者が自発的に作業や発言をおこなえる環境が整った場において、ファシリテーターと呼ばれる司会進行役を中心に、参加者全員が体験するものとして運営される形態がポピュラーとなっている。会場は森や原っぱから、公共ホールや、スタジオ、美術館やカルチャースクール、ビルの1室、学校の教室を利用するなど様々。
事実として、ワークショップにはさまざまな実施形態があり、寸劇の実演やものづくりの体験であったり、はたから見ると遊んでいるだけのように見えたり、ビジネス研修として汎用的なパッケージで展開する商品やサービスとして提供されていたりするものもあります。
そのため、ワークショップとはそういう取り組みやコンテンツそのものを指すように感じる場面も多いかと思いますが、私がワークショップのデザインを学んだことの一つに、それらは表層に過ぎず、本質的には「互恵的なコミュニケーションの構造」を指す概念であると理解しました。「互恵的」というのは、相互作用の中から新たな意味生成がなされるとする社会構成主義の理論に基づいており、人と人が分かち合う結果として、学びや新たな価値を生み出すという考え方です。
そのワークショップの「デザイナー」ですから、ワークショップを設計する人、すなわち互恵的なコミュニケーションの構造を設計して実践・検証する専門家、というのが「ワークショップデザイナー」の役割だと解釈しています。
「ワークショップ」の誤解
そういうわけで、ワークショップデザイナーは、ある集団を「互恵的なコミュニケーション」ができている状態にすることが基本的なミッションになると考えています。そのための手段として、道具やメディアを使ったり、コンテンツを準備して人と人を繋げる構造としての場を作っているのです。
裏を返せば、ワークショップに参加している(させられている)人には、参加者同士で「互恵的なコミュニケーション」ができている状態になることが期待されていることになるのですが、そうした前提が十分に伝わらないまま参加されてしまうと、「やらされている感」や「茶番である」といった誤解を招くことが多く、参加者とコンテンツのミスマッチだけでなく、ひどい時は人間関係のハレーションにつながります。典型的な例でいうと、「報酬目当てでの参加」などで起こりやすいと思います。
コンテンツにしても、手持ち無沙汰にさせてしまったり、難易度が低すぎる・高すぎるなどの理由で参加しづらいなどの低品質な体験につながり、考慮するべき変数も非常に多岐にわたります。なので、想定をどれだけシミュレートできているかだけでなく、実施ごとに必ず振り返りと次回の対策を行うことも欠かせません。
こうした背景から、ワークショップデザイナーは、参加者の参加意欲を刺激しつつ、人とコンテンツをなめらかにマッチングし、参加者同士の建設的な関係の構築をファシリテートできるかが重要になります。非常に難易度が高いことのように聞こえますが、これは、日常的に私たちが行う会議や1on1といった相互的なコミュニケーション全体にも言えることではないでしょうか。
そして、こうした対策や努力もなしに、無計画に会議のアジェンダを組んだり、いたずらに参加者を増やし過ぎた結果、コストをかけたわりに何も得られなかったり、可処分時間を食い潰すなど失敗した経験があるのではないでしょうか。私はたくさんあります。
こうした課題に立ち向かうための知識や基本的な考え方を包括的かつ実践的に学べるのが、ワークショップデザイナー育成プログラムです。
さて、前置きが長くなりましたが、そういうわけで、早速私の業務範囲で工夫して取り入れてみてどうだったかを紹介していきます。
1. 半期業務の振り返り会
SmartHRのプロダクトデザイナーは、基本的に同じプロダクトの開発にデザイナー全員で参加することはなく、プロダクトやプロジェクトごとアサインされて独立して活動しているため、デザイナー同士の振り返りでは一般的なフレームワーク(タイムラインやGKPTやStarfishなど)を使ったプロジェクト単位での振り返りが難しいという特徴があります。
そこで、今回は個々人の活動を共有し合う方法を設計し、オリジナルの振り返りワークショップを2024年上期の振り返りという体で実施しました。ちなみにこの施策は、ワークショップ育成プログラムの講座がまだ履修中の段階で取り組んでいます。
全体の構成はORIDというフレームワークを利用して、事実情報から個々人の学びを抽象化し、そこから参加者に伝わるような具体的な内容に変換することで、お互いの学びから今後に活かすための示唆を得られるような構成になっています。
開催形態はオンライン(Zoom)で、プログラムと最終成果物は次のとおりです。
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プログラム(60分)
導入(4分)
アイスブレイク(2分)
2~3人のブレイクアウトルームに分かれる
簡単な自己紹介とお題についてひとり30秒程度で話す。今回は「最近買ってQoLが上がった物の紹介」
ワーク1:振り返り(8分)
ワークシートの設問を読んで各自振り返りを書き出す(以下設問)
どのプロジェクト(特定のフィーチャー開発・プロダクト開発から選ぶ)が一番印象に残っていますか?
そのプロジェクトでの「最大の学び」があった場面と、その理由はなんですか?(複数可)
そのプロジェクトではどのような課題があり、どのように解決しましたか?
自分の活動の中で、あまり効果がなかった取り組み、時間がかかり過ぎたことは何でしたか?
ワーク2:抽象化(8分)
2人ずつのブレイクアウトルームに分かれる
お互いの振り返りを共有する
お互い話した内容から共通点などを見出し、学びや教訓を付箋に書き出す
発表してもらうので、あらかじめ誰が話すか決めておいてもらう
発表1(4分)
ワーク2の内容をそれぞれ1分程度で全体の場で共有してもらう
ワーク3:具体化(15分)
ワーク2のメンバーがそれぞれ別のチームになるように、4名ずつのブレイクアウトルームに分かれる
持ち寄った学びや教訓を共有しながら、今後のプロデザの業務に活かせる「Do/Don't」のリストを作成してもらう
発表してもらうので、あらかじめ誰が話すか決めておいてもらう
発表2(6分)
ワーク3の内容をそれぞれ3分程度で全体の場で共有してもらう
感想タイム(残り時間)
感想コーナーに付箋を貼ってもらう
最終成果物(Do/Don’tリスト)
チームX
Do
そもそも解決しなければならない重要な課題を常に意識する
粗くていいのでまずは可視化する
開発チームや、プロデザのレビュー会に持っていく
デザインの結論だけでなく、過程もドキュメントに残す
Don't
表層的な課題に振り回される
その場しのぎの解決でごまかす
頭の中だけで考える
一人で解く
結論だけ提示して過程を説明しない(クオリティの再現性が保てなくなる)
チームY
Do
早めにレビュー会に持ち込む(概念モデルだけの時点でも、PRDの時点でも、モックまだ作ってなくてもレビュー会にもっていけるよね)
細かくリリースして試していく
壊す勇気を持って進める
Don't
独りで作り切る、開発チームとだけ話す
開発チームがデザインを説明できない
理想形を考えすぎて、手を動かさない
工夫ポイント
まず、前提としてどのようなスタンスで参加してもらいたいかを示す以下のガイダンスを用意しました。この説明には、参加者同士が意見を批評・評価をし始めてしまったり、正解を作ろうとするプレッシャーから発言がしづらくなることを防ぐ狙いがあります。
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加えて、参加者がファシリテーターを抜いて8名だったため、十分な発話量を担保するために、セッションごとに2~4名のグループに別けて実施を行いました。
ちなみに、60分間の発話量を単純計算で比較してみるとその差は歴然で、8名1グループ(1人あたり7.5分)の時の発話量の合計を60分とすると、4名2グループ(1人あたり15分)の時は120分、2名4グループ(1人あたり30分)の時は240分と、同じ60分でも明らかに発話にかけられる時間が増えることがわかります。
![](https://assets.st-note.com/img/1729846204-rONAv1ItoRVBf307SFlpyxHC.png?width=1200)
代わりに、全員で同期的にコミュニケーションすることはできないため、会場設計も以下のように工夫しました。
グループごとに違うメンバーになるように組み合わせをあらかじめ調整
Slackでスレを建てて実況できるようにする
途中でお互いのグループの内容を共有してもらう時間を確保する
後から見れるようにFigJam上に成果物を残せるようにする
結果としては、時間通りにすべてのコンテンツを完走することができ、それぞれのグループでユニークなディスカッション結果となったため、一定の成果があったと考えています。
以下は参加者の感想の一部です。概ねポジティブに受け入れられつつ、伸び代はありそうです。
いい感じに忙しかったです
抽象化することって意外と大事かもと思いました。普段はプロダクトに集中するしレビュー会でもUI、オブジェクトモデリング、業務フロー、メンタルモデルを意識するので各々のプロセスのポイントが聞けて面白かったです
似た教訓が複数チームから出ていたのが興味深かった
時間短いと思いつつ、強制的に結論を出してすすめるにはちょうどいいんだろうなとは思いました
発話しない時間を減らしたいと思った。ファシリ仕草で話を振ったり
ワーク、何喋ったらいいかわからなくてあまり喋れなかった…
2. 個人ミッションの共有会
2024年下期のプロダクトデザイン本部全体の個人ミッション共有会です。
プロダクトデザイナーは担当するプロダクトがそれぞれメンバーごとに異なるのと、プロダクトの事業フェーズも異なるためアウトカムも定性的な状態を設定することが多く、相対的な比較が難しいという特徴があります。
ゆえに、目標設定時のそれぞれのミッション(OKR)の評価基準や難易度の設定が難しく、個々人やメンターとの壁打ちでは得られない客観的な視点によって補完・納得できる落とし所を得るために、毎期でミッション共有会を行い相互フィードバックを行っています。
副次的な効果として、お互いがどのプロダクトでどんな成果に貢献しようとしているかを俯瞰して把握できる機会となるため、お互いの期待値を伝えあったり連携できる部分をあらかじめ目星をつけるなどの示唆を得られる機会にもなっています。
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プログラム(60分)
2名ペアにわかれてお互いのミッションを共有(8分)
4名グループx3にわかれてお互いのミッションを共有(18分)
4名グループx3にわかれてお互いのミッションを共有(18分)
工夫ポイント
今回はユニット同士の連携が生まれることへの期待もあり、本部全体で実施したかったので、12名と大人数で行うことにしました。どのみち、今後組織がスケールアップするとさらに増えるため、会議コストを抑えつつスケール可能な方法として試してみる側面もありました。
基本的には、前述の半期業務振り返りと同様に、グループに分かれて共有する方式を採用しました。
最初に2名ペアで8分としているのは、ミッションを人に説明するための練習という意味合いがあります。この後は4名で18分なので、5分足らずで共有とコメントをもらう必要があったため、2~3分程度で説明できるようになるための準備をしてもらった形になります。
個人ミッションを3回共有するのは冗長では?と思われるかもしれませんが、
立てたばかりのミッションを何度か人に説明する過程で、より自分ごととして定着してもらうことを一つの狙いとしていたため、経験学習モデルの考え方に倣ってこのようにしています。
実際に、参加者からは、「3回の説明を通して説明がブラッシュアップされていった」や「自分の中で記憶残って意識できるようになっていると思う」などの声もあり、一定の効果があったと考えています。
ただし、セッションはなんとか時間ギリギリでまわせたものの、最後に総括をしたり感想をもらう時間が取れなかったため、余裕があれば後15分くらいは欲しいところでした。
![](https://assets.st-note.com/img/1729846457-MwvQVP8lI7n2CtmhcYDA1sdH.png)
uraさんが「ミッション共有RTA」と発言し、「草」というスタンプが3件ついている
3. 社内輪読会
「ABOUT FACE インタラクションデザインの本質」という、デジタルプロダクトデザイナーの必読書とも言われているインタラクションデザインに関する専門書(約600p)の輪読会を設計・実施しています。
![](https://assets.st-note.com/img/1729846589-Mgmk0w9IviCVrJGQeohBFbza.png?width=1200)
SmartHRのアクセシビリティ本部のmaihaさんが開催・監修されていた輪読会で紹介されている手法を参考に、複数参加者での十分な発言量を担保しつつ参加のハードルも下げる工夫や調整をしながら開催しています。
こちらは実施中のため、詳しいプログラムの設計や実施結果はまた別の記事でレポートしてみたいと思います。
やってみての学び
省察的実践家として振り返りが重要ということで、最後にこれらの取り組みをやってみての学びを残しておこうと思います。
一言で言うと、「協働作業は仕込みがすべて」です。
すべてのデザインには、そうなっている理由があるはずであり、それを説明できなければそれはデザインではないと私は思っています。
それと同じように、ワークショップであってもそれは同じで、プログラムから参加者への連絡の伝え方など、すべてにどこまで拘れるかで品質はコントロールできると感じました。例えば、モブデザインの事前準備で、準備が不十分な時とたたきが作ってあって要件が簡潔に言語化されている時では、同じ時間内でも出てくる成果物の品質や精度は明らかに変わるのと同じように思います。
今回のワークショップの取り組みでも、FigJamでの会場の設計やZoom部屋の事前設定、参加者への事前案内や予定のカレンダー同期など、参加時間中の発言量を最大化するために、限られた時間の中でできる限りのことをすべて取り組んだつもりです。それでも、足りていなかったことや想定外のことは起きます。
こうした仕込みをしておくことで、実施中の想定外の事象が起きた時にどれだけエレガントに立ち回れるかが変わります。裏を返せば、仕込みをいい加減にやってしまうと、想定外の事象に対応できなくなっていとも簡単に詰みます。例えば、グループワークをするつもりがZoomの権限がなくてブレイクアウトできなかった、みたいに。
そして、仕込みの精度を上げるのが、振り返りなのだと思います。手抜きをせずにちゃんと振り返りすることで、前よりもっと上手くできるようになっていくのです。
これは、普段の業務にも言えることだと思います。丁寧に準備しておくことで、本当にパフォーマンスが必要な場面で迅速かつ的確に対応できるようになり、やがてアドリブに強くなっていくのだと思います。私が優秀だと思うマネージャーやファシリテーターは、これを実現している人たちです。
優秀なデザイナーやマネージャー、ファシリテーターに出会うと、私もまだまだ熟達までの伸び代だらけであることを痛感します。
こんな感じで、駆け出しマネージャーとしてちょっとずつ発信をしていこうと思いますので、応援してもらえるとありがたいです。
SmartHRではプロダクトデザイナーを募集しています
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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