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社会人大学院生時代の振り返り:入学を志すまでの半生
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の博士前期課程に2021年4月から2023年3月まで在籍し、修士(知識科学)の学位を取得しました。その社会人大学院生時代を振り返るにあたり、まずは、働きながら大学院に入学することを志すに至った紆余曲折を綴ります(≠体験記)。文字通り個人の半生を書くことになりますが、何かの参考になったり誰かの背中を押すことにつながればうれしいです。
高専・大学時代(2005年-2012年)
中学校卒業後、岐阜工業高等専門学校の電気情報工学科に入学しました。高専ゆえ同じ学科に5年間所属し専門的な内容を学ぶことになるのですが、“ものづくりには関わりたいが、どうつくるかよりも、何をつくるかを考えたい”のだと自分の関心に気づき、大学への三年次編入制度を使って文転することを目指しました。その結果、唯一合格できたのが京都工芸繊維大学のデザイン経営工学課程でした。
デザイン経営工学(Design, Engineering & Management: DEM)は学年40名程度の小規模クラスのなかで、
・デザイン:インダストリアルデザイン、建築・ワークプレイスなど
・経営:ベンチャリング、マーケティングなど
・工学:感性工学、エルゴノミクスなど
に全学生がふれ、三年次から研究室に分かれて専門性を深めつつ、プロジェクトベースの全体演習で協働することも学ぶ、という教育体系になっていました。
私はマーケティング・消費者行動論の坂本和子先生の研究室で学びたく編入しましたが、必修科目の演習やデザイン系の研究室に所属する同級生・先輩・後輩との関わりのなかで、“デザインという行為”を目の当たりにしました。私自身は大学時代にデザインを“学んだ”と胸を張って言えませんが、デザインの世界を知れたことは本当に大きな資産となりました。
(余談ですが、デザイン経営工学は1998年に組成されましたが、2018年にデザイン・建築学と統合されたため、いまは存在しません。デザイン経営やBTC型人材について語られるようになったいま、デザイン経営工学のような場・機会の重要性は増しているように個人的には感じます。)
社会人になってから(2012年-2020年)
社会人になってすぐ、自己投資としてデザイン誌AXISやWIREDを購読するようになり、仕事とは関係なくデザイン方面の感度を高めながらさまざまな情報にふれていました。
具体的には、2012年にイノベーションの文脈でのIDEO/d.schoolのいうところのデザイン思考を知り、2013年にビジネスデザイナーの濱口秀司さんに会ったりID留学中だった佐宗邦威さんのブログを読んだり、2014年にはKYOTO Design LabとRCA(Anthony Dunne and James Auger)のワークショップや2015年のWIRED BY DESIGNを通じてスペキュラティブデザインにふれるなど、デザインの潮流を追いかけてきました。また、2018年にレゴシリアスプレイの認定ファシリテーターになるトレーニングも受講しました。
2020年には、上平崇仁先生のブログや岩渕正樹さんのnoteをきっかけに、Designs for the Pluriveseを巡る議論やデザイン人類学という分野に関心を寄せていました。ビジネスの文脈で文化人類学について言及されることが増えたのも、2020年ごろからだったように思います。
これらの過程で、いつの間にか学術書に分類されるようなデザインに関する書籍も手に取るようになりました。
2018年に経済産業省・特許庁から「『デザイン経営』宣言」が公開されたことから、ビジネスにおけるデザインの期待の高まりが認知され、議論も活発になったかと思います。その傍らで、仕事でデザインに携わっているわけでもなく、ワークショップや書籍だけを通じてデザインにふれていた私は、「素直に楽しいからそうしているのだけど、何かに繋がるのだろうか/繋げられるのだろうか」という気持ちをもっていました。
そんななか、2019年11月にfacebookのタイムラインで見かけたのが、多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム開講の投稿でした。社会人に向けたデザイン教育、著名な講師陣、毎週土曜10週間の短期集中プログラム。レクチャーやPBLの詳細は未定という第一期募集でしたが、これが契機になるはずと直感し、出願しました。合格の選考結果通知をもらったときに声を出してガッツポーズしたことは、いまでも覚えています。2021年4月開講の予定でしたが選考結果通知の直後にコロナ禍へと突入し、2021年9月開講が第一期となりました。
多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム(2020年9-11月)
(このプログラムについてはRADIO POLICY DESIGNのなかでお話しする機会をいただいたので、全体に対する振り返りはそちらをお聞きいただければさいわいです。)
プログラム折り返しのDay6にあった久保田晃弘先生の講義「デザインの先端/デザインの哲学」は、当時関心を寄せていたデザイン人類学とも重なる内容で、心に響いた私は講義後に以下の言葉を残していました。
——大学院で学ぶ予定はないけど、ぼんやりといつか取り組みたいと考えていた研究領域の明確さが増した感覚の今日。それは「企業におけるデザイン哲学/倫理観の育み方」。デザイン哲学は理念に直結するはずのものであり、具体(製品・サービス)にも落とし込まれるべき。ゆえに社員の誰もが他人事ではない。——
コロナ禍のなか万全の体制で実施された連続10週間の対面講義は熱量が高く、週を重ねるごとに、おのずと自身の気持ちも高まりました。修了も間近に迫ったときに考えたことが、“どうしたらこの熱量をプログラム修了後も維持できるだろうか?”というシンプルな問いでした。そして、その答えとして最初に思い浮かんだのが、デザイン人類学を探究するための大学院入学でした。
以上が、私が“働きながら大学院に入学することを志すに至った紆余曲折”です。
大学院を選んだ経緯や入学後の研究過程などは、別の記事でまとめる予定です。
とりとめのない個人の半生を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。