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健康経営のトレンド「ワーク・エンゲージメント」が注目される理由

健康経営度調査2022の動向をご紹介した記事で、今後最も注目される指標のひとつにエンゲージメント(ワーク・エンゲージメント)があるとお伝えしました。

本記事では、Well-being経営と密接に関わる「ワーク・エンゲージメント」について掘り下げてまいりましょう。

ワーク・エンゲージメントとは

ワーク・エンゲージメントは、2000年ごろから注目が高まった概念で、次のように定義されます。

ワーク・エンゲイジメントは,仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり,活力,熱意,没頭によって特徴づけられる.エンゲイジメントは,特定の対象,出来事,個人,行動などに向けられた一時的な状態ではなく,仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である.
(シャウフェリら 2002,2004 ほか/島津訳 2010 ほか)

従業員の心身の健康状態を測るとき、まず用いられるのが、健康診断による不健康な状態の特定やストレスチェックなど、ネガティブな要因を特定する測定です。
これに対し、職務への満足感や動機づけといった人の強みやパフォーマンスのポジティブな側面に着目したのがワーク・エンゲージメントです。

ワーク・エンゲージメントの概念は、次の3つの要素で構成されます。
活力(Vigor):仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
熱意(Dedication):仕事に誇り(やりがい)を感じ、強く関与する
没頭(Absorption):仕事に対し、夢中になり、集中する

そして、この状態は一時的なものや特定のものに向けられたものではなく、仕事に対し、持続的また全体的に感じているものであるとされます。

ワーク・エンゲージメントとワーカホリズムとの違い

ワーク・エンゲージメントに関連する概念に、ワーカホリズムやバーンアウトなどがあります。これらの概念は、仕事に対する情動や認知の度合いと、行動や活動の度合いの2つの軸で整理し、区別します。

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ワーク・エンゲージメントとワーカホリズムでは、仕事の活動水準が高いところは似ていますが、決定的に違うところがあります。
仕事の認知(向き合い方)です。

ワーカホリズムは、仕事から離れたときの罪悪感や不安から仕事せずにいられないと感じる強迫観念など、仕事への態度がネガティブで、自己評価も低くなります。
これに対し、ワーク・エンゲージメントは、仕事の意義誇り楽しさを感じ、積極的またポジティブに活動します。仕事から活力を得て自己評価も高く幸福な気持ちで没入している状態です。

ワーク・エンゲージメントとモチベーションとの違い

ワーク・エンゲージメントと同じような概念に、やる気や動機づけといわれるモチベーションがあります。

以前の記事で取り上げましたが、モチベーションは個別の事象に対して生じる方向づけのプロセスや機能を指す概念です。
これに対し、ワーク・エンゲージメントは、組織とのつながりを通した仕事上の役割や仕事そのものの価値観に対する概念といえます。

ワーク・エンゲージメントは、健康の本質的要素である「身体」「精神」「人とのつながり」の3要素、それも組織や社会とのつながりに踏み込んで健やかさを見える化する指標ともいえるでしょう。

ワーク・エンゲージメントを規定する要因

ワーク・エンゲージメントの規定要因には、仕事の資源(Job resources)個人資源(Personal resources)があることがわかっています。

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仕事の資源は、仕事によって何らかの負荷がかかったときの心身の負担を軽減し、目標を達成して個人の成長や発達を促すものを指します。
具体的には、同僚・上司の支援やフィードバック・コーチングなどの周囲とのつながりや、自ら仕事をコントロールできる裁量権や課題の多様性、組織と個人の価値の一致などが関係します。

個人の資源は、仕事に向き合うときの環境をコントロールし、危機的状況になってもしなやかに回復できる能力や、肯定的な自己評価を指します。
具体的には、積極的な対処スタイルや自己効力感、仕事や生活への満足感、組織での自尊心、楽観性、レジリエンスなどが関係します。

ワーク・エンゲージメントがなぜ重要なのか

ワーク・エンゲージメントが高まると、仕事や組織に対するポジティブな態度が高まり、仕事のパフォーマンスも上がります。さらに、心理的な苦痛や身体愁訴が少なくなることが明らかとなっています。

ワーク・エンゲージメントの高い従業員は、職務満足感や組織へのコミットメントが高くなり、職場への定着率が上がります。
また、自ら学び、創造性豊かな働きを行い、職務を遂行する行動や、役割以外の行動にも積極的になります。
その結果、職場に活気がでて業績が上がり、顧客の満足度も向上して、企業価値が高まるという好循環が期待できるのです。

ワーク・エンゲージメントは、個人と組織の双方が成長するために不可欠な要素といえます。
これはまさに、従業員一人ひとりの身体的・精神的健やかさと、職場や家庭など周囲とのつながりを良くする中で、個人・組織・社会の価値を相互に高めていくWell-being経営と密接に関わる指標のひとつといえるでしょう。

ワーク・エンゲージメントの測定法

ワーク・エンゲージメントを高めるためには、客観的な測定が不可欠です。
2022年度の健康経営度調査においても、評価項目ではないものの業務の生産性や組織の活性度を測る指標として、ワーク・エンゲージメントの定期的な測定が項目に挙げられています。
ワーク・エンゲージメントは、今後の健康経営度調査で重要視される項目となる可能性が高いといえそうです。

ワーク・エンゲージメントの測定方法として最も広く活用されているのが、ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(UWES: Utrecht Work Engagement Scale)です。
UWESは、ワーク・エンゲージメントを提唱したオランダのユトレヒト大学のシャウフェリらによって開発されました。

定義で解説した「活力」「熱意」「没頭」の3つの下位因子を17の項目に整理し、各項目を0点(まったくない)から6点(いつも/毎日感じる)までの7件法で測定します。
・活力(仕事をしていると活力がみなぎるように感じる):6項目
・熱意(仕事に熱心である):5項目
・没頭(仕事にのめり込んでいる):6項目

各因子を3項目ずつにした9項目の短縮版も開発されており、国際比較も行われています。(活力・熱意・没頭の3項目のみの超短縮版もあります)

UWES以外には、MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)とOLBI(Oldenburg Burnout Inventory)という測定方法もあります。ただし、これらは厳密にはバーンアウトの測定尺度です。

MBI-GSでは、疲労感、シニシズム(冷笑的態度)、職務効力感の低下という3つのネガティブ因子を測定します。OLBIでは、心身の疲弊感と離脱の2つの因子を測定します。それぞれ測定結果(バーンアウトの状態)が低いほどワーク・エンゲージメントが高いと評価します。

しかし、バーンアウトが低いからといって必ずワーク・エンゲージメントが高いとは限りません。このため、ワーク・エンゲージメントを測る尺度としてはUWESが最も信頼性・妥当性が高いと考えられています。

※UWESは、学術的使用以外の場合は原著者へ書面での連絡が必要です。

ワーク・エンゲージメントを健康経営に取り入れる

従業員が自己肯定感を高め、自律して仕事とボジティブに向き合う。情熱をもって仕事に集中し、周囲を巻き込んで職場の力を高める。心身ともに健康で活力がみなぎり、不確実な未来に対して柔らかな想像力を働かせ、しなやかに対応し、組織の価値を高め、社会へ貢献する。このようなWell-being経営を可視化するために、ワーク・エンゲージメントは今後最も重要な指標のひとつとなっていくでしょう。

ただ、ワーク・エンゲージメントの測定がこれからの健康経営に不可欠であるとはいえ、健康管理上すでに多くの測定項目があり、調査に多大な負担がかかっているのも事実です。
手続きや集計を行う事務局にとっても、回答する従業員にとっても、次から次へとやってくる調査が負担となりストレスが溜まっていくのでは本末転倒といえるでしょう。

ワーク・エンゲージメントをはじめとした重要な指標をWell-being経営に取り入れ、信頼性・安定性の高い持続的な運用を行うには、各種調査の測定結果を連携させ、少ない負担で分析評価できるデータ管理のしくみの構築が欠かせません。

これからのWell-being経営は、組織としてのビジョンを明確にし、価値観を共有する環境とともに、効果的なデータ管理と評価分析のシステムを整えていくことが望まれます。

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