知っておきたい国内の取組事例|これで語れる健康経営(4)
6月は、企業における重要な経営戦略となっている「健康経営®」をおさらいしています。第4回は、国内で健康経営に取り組んでいる事例をご紹介しましょう。
「健康経営銘柄」の選定企業からヒントを得る
健康経営の取組については、経済産業省が毎年、健康経営度調査を実施し、優れた健康経営を行う企業を認定する制度があります。
その中でも特に優れた企業は「健康経営銘柄」として選定されます。
健康経営銘柄は、経済産業省と東京証券取引所がタッグを組む形で選定するもので、健康経営度調査の総合評価順位とROE(自己資本利益率)などの状況を踏まえ、評価結果が業種内で最高順位の企業および各業種最高順位企業の平均より優れた企業が選定されます。
「健康経営銘柄2022」取組事例
いま最も優れた健康経営を行っていると評価された「健康経営銘柄2022」の取組内容を事例に、ESG経営に欠かせない健康経営のヒントを探しましょう。
「健康経営銘柄2022」には、過去最多となる32業種50社が選定されています。このうち、特に従業員の行動変容に働きかける取組や、コラボヘルスなどの連携・協働を行っている企業を中心に、13社をご紹介します。
事例の出典)経済産業省「健康経営銘柄2022」選定企業紹介レポート
食料品A社(5度目)
【健康経営のポイント】
食事や運動など24のカテゴリーから自分で選んでチャレンジできる「生活習慣改善キャンペーン」を展開。家族も含めた行動変容を促す取組で健康と生産性のボトムアップを図る。
アルコールに関するeラーニングでは95.8%の社員が受講(2020年)。共通基準も策定して周知徹底を図ったところ、行動変容が促されて多量飲酒の割合が13.2%(2019年度)⇒9.5%(2020年度)と大きく低減した。
アンケートで「きっかけがあれば卒煙したい」と回答した喫煙者が過半数だったことから、健保組合と企業が協働で卒煙プログラムを刷新。参加者が前年度比10倍に。
【企業の経営姿勢】 「おいしさと楽しさで”変化するWell-being”に応え、持続可能な社会の実現に貢献する」を長期戦略のコンセプトに、人々のWell-beingの多様化の中での「リスクと機会」を捉えながら、既存事業の持続的成長と新規領域の拡大に取り組みます。
・創業1949年
・資本金220,044百万円(2021年13月31日現在)
・従業員数20,020名(連結、2021年12月31日現在)
化学B社(2度目)
【健康経営のポイント】
国内すべての事業場に担当者を配置し、一体的に健康増進活動を推進。定期的にプレゼンティーズム調査を実施し、職場の実態にあわせた取組を行う。
重点課題の長時間労働対策では、3年間で約17万時間の削減を実現、パフォーマンスの向上に貢献した。
メンタルヘルス対策として管理職全員を対象に2回のeラーニングを必須化。参加者の声を内容に反映し、高い満足度で事業場内での自発的な情報共有が進んだ。アンケート結果を受けて人事部門と連携した相談受付体制の整備も進めている。
【企業の経営姿勢】 「『住・社会のインフラ創造』と『ケミカルソリューション』のフロンティアを開拓し続け、世界のひとびとのくらしと地球環境の向上に貢献」をグループビジョンに、イノベーションを起こし続けることにより、サステナブルな社会の実現に向けてLIFEの基盤を支え、”未来につづく安心”を創造します。
・創業1947年
・資本金100,002百万円
・従業員数26,419名(連結、2022年3月期)
ガラス・土石製品C社(初選定)
【健康経営のポイント】
海外を含む全拠点へのセミナー同時配信など、ヘルスリテラシーの底上げ・一体推進の基準の醸成を図る。重点対策は喫煙率の低減。2023年4月からの社内全面禁煙化に向け、段階的に取組を推進する。KPIを2022年度22%と定め、2020年度は24.2%と順調な低下を続ける。
メンタルヘルス対策では、1~3次予防施策を強化する中、気分を色で表現しコミュニケーションにつなげるサービスを独自開発。部署内の活性度を可視化することに成功した。
【企業の経営姿勢】 ものづくりの原点である「総員参加」「良品主義」の理念の下、長期ビジョンとして「セラミックスのその先へ、想像のその先へ」とし、世界が抱える課題に向き合い、よりより社会の実現に向けて、セラミックスの領域を超えた挑戦「これまでの延長線上にない変化」を目指します。
・創立1936年
・資本金47,869百万円
・従業員数16,145名(連結、2022年3月)
非鉄金属D社(初選定)
【健康経営のポイント】
安全専一(SAFETY FIRST)のもと、早くから安全衛生管理を推進してきた。2021年に健康宣言を公表。「中期経営方針2022年」では健康経営推進を重点施策に位置付けた。
再検査の受診勧奨の強化では、産業医と人事総務部長の連名による勧奨通知を、対象者だけでなく予備軍も含め網羅的に行う。プレゼンティーズムの評価にも好影響となった。
喫煙率低減に向けては、2020年に就業期間中の禁煙を制度化。禁煙外来治療の補助のほか、禁煙デーの実施や禁煙支援アプリの提供などを計画している。
【企業の経営姿勢】 「鉱山開発に始まり社会基盤を支えてきた技術を進化させ、常に挑戦する気概をもって社会に必要とされる企業」であり続けることを経営理念に、すべてのステークホルダーの期待に応えるべく、Power(力強さ・スピード)とPassion(熱意・情熱)をもって「変革・創造・共存」を実践します。
・創業1875年
・資本金282億818万円
・従業員数2,804名(連結、2022年3月31日現在)
電気機器E社(7度目)
【健康経営のポイント】
会社と健保組合が緊密に連携した高度なコラボヘルスを展開。2020年度からは新たに、組織の生産性や活性化の指標となる「組織健康度調査」を導入した。全組織長にフィードバックし人事部門が自律的な対策を発案・実行できるようサポート。あわせて産業保健スタッフによる管理職研修やワークショップで改善を図った。1年後の調査では生産性の高い職場比率が5.1ポイント上昇。
2020年4月から構内所定就業時間内全面禁煙化、禁煙サポートプログラムを積極的に展開。自主的な禁煙行動が増加し、喫煙による離席損失の減少で生産性が年間約5,600万円相当アップした。
【企業の経営姿勢】 「お客さまの『みたい』を実現することで、グローバル社会から指示され、必要とされる企業」「人と社会の持続的な成長に貢献する、足腰のしっかりした、進化し続けるイノベーション企業」を経営ビジョンに、持続的な社会を実現するため、イメージングの力を、これからの人と社会の力に変えていきます。
・設立1936年
・資本金37,519百万円
・従業員数39,121名(連結、2022年3月現在)
電気機器F社(2度目)
【健康経営のポイント】
若年層(40歳未満)への肥満対策では、ICTを利用した健康指導プログラムを提供、食事や運動習慣の改善・定着による減量をサポート。体調やパフォーマンスの変化を感じ取り、達成感を得られるよう工夫し、食事習慣は前年度比85.5%、運動習慣は同55.1%改善。平均体重は同3.2kg減、平均腹囲は同4cm減と効果が現れている。
メンタルヘルスでは、ストレスチェックの集団分析で高健康リスクと判定された職場に対し環境改善を行い、8職場⇒5職場に減少。メンタルヘルス検定の受験を奨励し、内部からの改善作用の向上を図る。
【企業の経営姿勢】 「地球・社会・人に対する誠実さと競争力で、新しい社会づくりに挑む」をビジョンに掲げ、120年を超える歴史の中で培ったものづくり力とサービス力を通じ、社会やお客様の課題解決に貢献します。
・設立1917年(創業1897年)
・資本金170億7000万円
・従業員数9,647名(連結、2021年3月31日現在)
電気機器G社(4度目)
【健康経営のポイント】
運動の促進では、ラジオ体操を推奨する情報発信、ウォーキング大会やWebフィットネスなどのイベントを組み合わせて利活用を促した。KPIや各拠点の指標を可視化するなど取組を浸透させ、社員の94%が健康経営を認識。KPIに定める運動・睡眠・メンタルヘルス・食事・タバコの5つの指標のうち3項目以上達成者が54%と、前年比9ポイントの過去最高の上昇となった。
長時間労働対策では、働く時間と場所の選択肢を拡大し、社員一人ひとりが自律的に業務の質を高めるよう促したことにより、総実労働時間、所定外労働時間ともに前年比で大きく減少した。
【企業の経営姿勢】 「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」の社会課題が解決された「社会全体の豊かさと、自分らしさの追求が両立する「自律社会」を目指し、センシング&コントロール+Think技術で、持続可能な社会をステークホルダーとともにつくっていきます。
・創業1933年
・資本金641億円
・従業員数29,020名(グループ、2022年3月末時点)
電気機器H社(初選定)
【健康経営のポイント】
勤怠システムによる本人・上司の把握、マネジメント層で部署別の状況・課題を共有し、労働時間の縮減と有給休暇の取得推進を図る。労働組合によるアンケート結果から、従業員の疲労感を課題として重視。時間外労働や有給休暇取得のデータ分析も踏まえ、量的な負担だけでなく質的な負担にも着目している。
職場ストレス軽減のためのeラーニングなども実施。メンタルヘルス不調による休職や、ストレスチェックの総合健康リスクは3年間で減少する一方、ストレスチェックからは見えないストレス要因を保有する社員が潜在することも判明、改善を図っている。
【企業の経営姿勢】 「進化する半導体バリューチェーンで顧客価値を追求」をビジョンステートメントに、「コア・ビジネスの強化、重点投資」、「オペレーショナル・エクセレンスの追求」、「さらなる飛躍への価値探求」、「新事業領域の開拓」、「ESGのさらなる推進」に取り組み、業容の拡大と企業価値向上を目指します。
・設立1954年
・資本金32,363百万円
・従業員数6,464名(臨時従業員含む)
その他製品I社(初選定)
【健康経営のポイント】
20年前から「誕生月健診」を実施する。受診日の午前中に検診結果に基づき医師診察・保健指導・集団健康教育を行う。産業医を含む医療スタッフが前年度の健診結果などを検討して集団健康教育のテーマを毎年変更。健診で顕在化した健康リスクに教育などで素早く対応するしくみが健康リスクの低減を実現している。
2018年には「社員とその家族の健康は会社の財産」とするグループ健康宣言を制定。働き方の変化に対応しながら社員とその家族が心身ともに健やかに自分らしく生きる「Sound Living」の活動を加速する。
【企業の経営姿勢】 「感動を・ともに・創る」を企業理念に、経営ビジョン「『なくてはならない、個性輝く企業になる』~ブランド力を一段高め、高収益な企業へ」を定め、音・音楽を通じて人々のこころ豊かな生活に貢献することを目指しています。
・創業1887年
・資本金285億34百万円
・従業員数19,859名(連結)
電気・ガス業J社(初選定)
【健康経営のポイント】
喫煙率、アブセンティーズム、プレゼンティーズム、ワークエンゲージメントなどの健康経営の指標を定め、数値目標を設定して生産性低下要因の改善を図る。
各自が日常生活で続けやすい健康行動を目標として設定する「スモールチェンジ活動」を実施。また「健康チャレンジカード」を携帯し、社員同士が励まし合いながら実践することによって職場コミュニケーションも深まっている。活動状況が会議などの場で話題になるなど、健康を意識する職場風土が醸成されている。
【企業の経営姿勢】 「ともに輝く明日のために」をコーポレート・スローガンに、地域のみなさまと新たな価値を創りあげる「共創」の考えに基づき、総合エネルギー企業として企業価値の向上を図るとともにSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献します。
・設立1951年
・資本金114,291百万円
・従業員数2,554名
陸運業K社(初選定)
【健康経営のポイント】
運動習慣の定着を組織一体で進めるため、健保組合主催の歩行イベントに独自のインセンティブを付与して積極的な参加を呼びかけ。2018年春の参加率5%が2021年秋には76%まで上昇した。
全社的に導入したオンラインフィットネスアプリには社員の44%が登録。2021年の定期検診の問診結果で週2回以上運動する者の割合が2018年比で男性5.9ポイント、女性2.3ポイント増加した。
喫煙対策では屋内喫煙室の集約を進め、併せて研修での禁煙教育を継続。健保組合によるオンライン禁煙外来補助制度の利用を促進し、喫煙率を徐々に低減。
【企業の経営姿勢】 「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」を経営理念に、各部門における「安全に仕事を進める力」「より良いサービスを提供する力」「効率的に仕事をする力」の3つの力を不断に高めつつ、すべてのステークホルダーからの信頼を高め、持続的な成長を果たします。
・設立1987年
・資本金1,120億円
・従業員数18,499名(連結、2021年3月末現在)
情報・通信業L社(8度目)
【健康経営のポイント】
2015年度から健康増進施策の基盤として「健康わくわくマイレージ」、労働時間の訂正化や有給休暇の100%取得を目指す「スマートワーク・チャレンジ20」を実施し。運動不足に対し、トップからのメッセージや役員会での現状報告、新入社員等への活動量計配付などを行った結果、2020年4月の1日平均歩数6.731歩が2021年10月には8,204歩と20%以上増加した。
日本健康マスター検定の費用補助では150名が受験。セルフケアセミナーには、肩こり腰痛に500名以上、睡眠には2,000名以上が参加。活用度は9割以上に達し、社員の意識変化や行動習慣を促す組織風土の定着が現れている。
【企業の経営姿勢】 「夢ある未来を、共に創る」を経営理念に、コア事業であるITサービスによるお客様企業や、お客様企業を通じた社会への価値提供を拡大し、自らも主体的に社会の価値創出に取り込むことで、お客様や社会とともに成長する「共創ITカンパニー」の実現を目指します。
・設立1969年
・資本金21,152百万円
・従業員数14,938名(連結、2022年3月31日現在)
サービス業M社(2度目)
【健康経営のポイント】
会社全体の健康経営課題として、健保組合との連携により健診結果と医療費をと突合分析し、「健康リスクの保有者率」「再検査や治療率の向上」「健康リスクの改善率と悪化率」「生活習慣の改善率と健康リテラシーの向上」を抽出して対策。再検査・治療率は27.1%⇒33.7%、健康リスクの改善率は12.9%⇒14.9%と改善。
自社開発の検診結果管理システムをバージョンアップし、ダッシュボード機能を搭載。グラフやリストを見やすく可視化し、産業医や人事担当社が再検査フォローしやすい仕組みを構築。従業員も視覚的に確認できるようにし、健康リテラシーを高めている。
【企業の経営姿勢】 「一人ひとりの健康管理・健康行動を支援することで健康管理と健康寿命の延伸に貢献」をミッションに、「健康管理のインフラ」企業としてお客様から教わり、学び、信頼される仕事を続けます。
・設立2001年
・資本金155,658万円(2021年12月31日現在)
・従業員数682名(2021年12月31日現在)
取組のカギは「連携」と「データ」
以上、現在の日本を代表する健康経営の取組事例をみてきました。
健保と企業が連携した健診結果の積極的な活用、きっかけをつくりやすいイベント、自発的な継続を促すシステム・アプリの導入など、取組のヒントが数多くみられます。
例えば、WellGoのアプリでは、歩数がランキングになったりポイントとして貯めて商品券と交換できたり、イベントに参加してSNS上でつながりをつくったりと楽しく続けるうちにいつのまにか運動の対策につながります。
また、食事や睡眠記録、勤務状態や健康診断結果も一緒に記録することができるため、データが積み重なってくるほど、自分の体調を正確に把握しながら環境の変化に対応できるようになります。
毎日チャレンジする健康クイズは、ポイントを貯める楽しみや遊び感覚で続けるうち、健康意識が醸成されます。
このように、健康アプリは単なる記録以上に、従業員の自発的健康行動を促し、職場の生産性を向上させるしかけとして活用することができるのです。
持続的な健康経営の手段として、ぜひ一度、健康アプリをお試しください。
事例の出典)経済産業省「健康経営銘柄2022」選定企業紹介レポート
※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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「これで語れる健康管理」シリーズ 目次
(1) 健康経営とは
(2) 健康経営を歴史から学ぶ
(3) 押さえておきたい健康経営ワード15選
(4) 知っておきたい国内の取り組み事例 ←本日の記事
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