ESG投資の「S」が深化する~健康経営は企業戦略の重大な柱に
前回の記事で、まもなく発表される「健康経営銘柄」が、ESG投資として定量的な評価が難しい「S(Social)」の指標のひとつとして注目されているというお話をしました。
本記事では、このESG投資における「S」について掘り下げていくことにしましょう。
ESG-「Social」領域は深化している
ESG投資の「S」、つまりソーシャル領域については、人材をリソースではなく資本として扱う視点が定着しつつあります。
QUICKリサーチの調査が示す事実
QUICKリサーチ本部ESG研究所が日本に拠点を置く投資家を対象に実施した「ESG投資実態調査2021」によると、ESG投資手法で2位に入ったエンゲージメント(投資家と事業者との戦略的対話)活動において、「S」にあたる「人権」と「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性尊重)」が2位に入りました。
前回2位だった労働慣行(健康と安全)は6位に入っています。今年から新たに「ダイバーシティ&インクルージョン」が独立したテーマとなったこともあり少し順位を落としましたが、それでも全体として高い注目を集めているといえるでしょう。
ESGの「S」領域は経営戦略基盤
人材の活用は、もはや単純な労働法規の遵守や健康管理にとどまらず、多様な属性や価値観をもって生き生きと活躍する場をつくり、積極的に経営基盤とすることが求められているといえます。
ESG投資のトレンドが先行する欧米ではすでに、人的資本のエンゲージメントの場においては、CHO/CHRO(最高人事責任者)ではなくCFO(最高財務責任者)が語ることを求められるようになってきています。
企業価値を高め、戦略的経営を推進するエンジンとして、人的資本をどう活用させていくのか、具体的に問われ始めているのです。
ESG-「S」の具体的な枠組みの行方
世界の潮流では、ESG-「S」がもはや概念的な情報開示のパーツはでなく、企業戦略の柱として積極的に取り組んで価値を高める方向がはっきりとしてきました。
とはいえ、具体的な規制や評価の枠組みについては、まだ確立されていないのが現状です。
例えば、世界的に影響力をもつ世界経済フォーラム(ダボス会議)において、2020年にESG指数と情報開示の原則が発表され、「人」「繁栄」「プラネット」「ガバナンス」の4観点、21の中核指標と34の拡大指標で構成される新たなESG報告のスタンダードが示されましたが、人的資本に関する内容はそれほど具体的にはなっていませんでした。
しかし、議論は進んでおり、規制強化は不可避の状況です。
2022年1月に行われた世界経済フォーラムの中で「ダボス・アジェンダ」に出席した岸田文雄内閣総理大臣は、約40分の演説を行い、人への投資というテーマで次のように述べました。
ESG-「S」の足がかりとなる
健康経営とウェルビーイング経営戦略
今後、欧米での規制の具体化が進めば、日本にも必ず波及してきます。
まもなく発表される健康経営銘柄や健康経営度調査は、その先駆的取組みのひとつともいえそうです。
自社の企業価値を客観的に把握し、今後の企業戦略へ人的資本をどのように位置づけていくのか。
その鍵となるのが、「健康経営」であり、人の存在価値を高める「ウェルビーイング経営」なのです。
そう遠くない将来、人的資本は最も重要な経営主題になります。
世界のトレンドをよく見極め、戦略的に健康経営に取り組みましょう。
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