3.17 カフェ的オフィス空間を考える

 フリーランスの方や、時々カフェで仕事をする方なら同意していただけると思うのだが、カフェだと異様に作業が進むことがある。

その理由は、自宅だと生活音に引きづられて、作業の手が止まったりするからだ。洗濯機が知らせる終了音が聞こえると、ついつい家事を続けてしてしまったり、お手洗いに行ったついでに便器にブラシをかけてしまったりと、意外に集中を欠く要素が散らばっているのだが、カフェの場合は、目の前のラップトップに対して何かする以外にやることがないので、あっという間に二時間くらい経ってしまう。なのでカフェが大好きなのである。

 今までは、どの国のどの都市に住んでも、時々作業用カフェとして使える場所が複数あり、特に問題はなかった。WiFiと電源完備、カウンターから死角になる座席があり、ランチタイムを除けば数時間粘っても平気な場所が、あちこちにあったのだ。しかし。帰国してそこそこの田舎に住むことが決定して初めて、カフェワーク候補店があまりにもないことに気づき、かなり狼狽した。

 いわゆる昭和の喫茶店のようなところ、パン屋の隅で珈琲が飲めるところはあるにはあるが、少し暗くて落ち着いた雰囲気のカフェチェーン店がそもそもない。そしてそういう雰囲気を醸し出してくれるような場所もない。ない。ないのである。

 高級住宅街のセレブな一戸建に住みたい欲求も、東京の湾岸エリアのタワマンに住みたい欲求もない。でも唯一の住むエリアに対する希望が、「徒歩圏内に、作業に使える素敵なカフェがいくつかあること」だけだった私が実際に住む場所には、それがない。

ある程度の人口のある、そこそこの都会でなければチェーン店は出店しないのね、という現実を知り愕然としたが、そこでかなり考えた。

自宅の中に素敵なカフェスペースがあれば?

 残念なことに、実家のワンフロアの面積としては15坪程度。そこの一部にカフェを作ったら住む場所がなくなる(笑)。ということで、ワークスペースとして設定しているエリア、ひいてはキッチン、ダイニング、リビングとして設定したエリア、つまり寝室以外のエリアをすべてカフェ風にすればいいのでは!?と思いついた。

我ながら、いいセンスしてる(笑)。

そしてカフェ的なオフィス空間、キッチン&ダイニングを考えてみたのだが、実際に「どういう要素があれば、それっぽくなるのか」ということから考え始めないといけないということに気づいた。

プロってすごい、と思うのはこういう時だ。

たとえば建築士さんが、クライアントから「スターバックスリザーブみたいな、天井が高くて少し暗くてイケてる空間が欲しい」と言われれば、まさにそれっぽい雰囲気を創り出し、ハイセンスなアイテムを適切に配置して提案してくれる。だが、私はど素人の中のど素人なので、そんなプロの知識も経験もない状態で、それをゼロからどうやって創り上げればいいのか、どこから手をつければいいのか、全くわからない。

 スタバリザーブのような空間が、具体的には何を指すのか自分でもわからない。全体の色味なのか質感なのか、床や壁の彩度や明度の統一なのか、置かれているインテリアそのものなのか、そのインテリアの質感なのか、全体的な照明のスタイルなのか、そしてそのすべてなのかもわからない。

でも確かに「スタバ的カフェっぽい空間にしたい」と私が言ったとき、私の言わんとしていることがカナメには完璧に伝わったので、それを指すものに何かの共通認識はありそうだった。

そして輸入壁紙店のお兄さんの言葉がよぎる。

「まず壁紙を決めて、そこからインテリアを揃えていくんだよ。」

なるほど。好きなものを寄せ集めるのではなく、壁紙にあうものを取捨選択していくということか。

でも。我が家にはこれから船便で届く家具も入っているからな。合うのかなぁ。

 国際引越が多く、家具を多く持ち運べない環境の苦肉の策として、スチールラックが大量にある。ステンレス素材で、板部分とスタンド部分が分離して畳むとかなり容積が減る(が、重量はかなりある)。シンプルで汎用性は高いけれども、個人的にはこれが大嫌いで、いつかまともな家具を揃えて本を並べたいと思っていた。日本に帰国する際にすべて捨てて帰ろうかと思っていたのだが、カナメに止められた。倉庫に設置したら何でも使える、と。

が、アイアンブラックのペンキを塗ったら、使えるかも!と思えてきた。

少なくとも天井は抜くし、コンクリート打ちっぱなしは、確かにカフェっぽいかもしれない。

ということで、カフェっぽい空間とは何かを考えねば。

 Pinterestでカフェを検索してみた。その中で自分が好きだと思うイメージをクリックすると、どんどんと「目指しているイメージそのもの」の写真が大量に出てくる。それらの写真を見ながら共通項は何か、構成しているアイテムは何かを考えてみた。

 実にこのプロセスには2ヶ月くらいかかった。カフェっぽい空間とは何かをいつも考えていた。結論が出るまで時間がかかったのは、写真だけではなく、いろいろな場所を実際に訪れて、食事をしながら、店長さんに店舗リノベのポイントなどを尋ねたりと、かなり足も使ったからだ。

 実際に見てみると、ステキなお店は一種類であるはずもなく、色々なステキの中から、家でも実現可能なものを選んだり、グラグラと揺れる気持ちに区切りをつけたりする必要があった。日本の明治時代や昭和初期の雰囲気にするのはどうだろうか、と考えたりもした。

毎日毎日議論をして、やっとカナメとコンセンサスがとれた、我が家を構成するパーツは、以下の通り。

- 高い天井とコンクリート打ちっぱなし
- 黒(モノトーン)とダークブラウンの木目調(ビンテージウッド)の色味
- ポイントにネイビー(青)
- アイアン素材(黒)

こんなシンプルなことを決めるのに、どれだけ時間かかってるのだ!

でもね。これには、壁紙や床材の色や、キッチンカウンター&デスクの色、デスクやテーブルの足の素材、購入する家電の色.......

すべて関わってくるのだ。それらのすべてにわたって共通するものを探すのも骨の折れることだった。

これでそろえておけば、大きく印象が逸脱することはないと結論づけた。これから注文する設備は、これらの内装に合うものを選ぶことにした。そう言えば20年ほど前に買ったダイニングテーブルも、深い茶色の木目調だ。

きっと合うよね。


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