3.8 どんどん深みにはまるバンリ

 壁紙はがしを終えた私は、その過程で天井のクロスを少し傷めてしまっていた。スケルトン天井にすることは決定事項だったので、この際、天井のクロスもはがしてしまえ!と思い立ち実行に移してしまった。

 エアコンの効いた部屋で間取り図をiPad Pro画面で作成し、しかも3Dビューでくるくる回してご満悦なカナメに探りを入れた。

「天井のクロスはがしちゃったんだけどさー、ちょっとだけ天井に穴開けてみてもいい?ちょっと実際の天井までの高さを見てみたいねん。動画で見たんだけど、天井って一センチにも満たない石膏ボード貼ってるだけやから、すぐに開けられるらしいで。」

彼は一瞬話を飲み込めないようだったが、一言

「え、クロスはがしたの?なんで?」

と聞いてきた。そんな終わった話の理由聞いてどうする(笑)。

「とにかく。どうせ天井は抜くんだからいいよね。じゃ」

カナメの返事を聞かずに、一本の古びた大型のマイナスドライバーを手に現場に向かった。とりあえず穴を開けてみたかっただけだ。その時は。

 石膏ボードは信じられないくらいにもろく、あっという間に穴が開き、そこに軍手をはめた手を突っ込んで力を入れたら、すぐにぽっかりと穴が空いた。が、何の覚悟もしていなかったすっぴんの私の顔と頭に、石膏ボードの粉&埃などが突撃してしまい、一人ギャーギャーと悶絶してしまった。

これだから素人は………(汗)。

ショートカットの髪の毛にまんべんなく粉塵ふりかけを喰らい、かなりめげてしまったのだが、天井に空いた穴を眺めながら、私の中の何かに火がついてしまった…。

これなら、私にもできるよね。絶対にできるやん。

ということで、もう少しがんばってベリベリを続け、1メートル四方分の天井をはぎとった穴から天井を見てみた。そこには、想像していたよりもキレイなコンクリートの天井と、びっくりするくらい何もない空間が広がっていた。

「え……、この天井裏の空間って何のためにあるの?上の階の排水管と電気コードを隠すだけなら、こんなに深い天井作らなくてもよくない?」

そんな疑問が脳裏をよぎった。

私の想像では、天井裏にはGさんやネズミさんの死骸とホコリその他が溢れかえり、見るも無残なとんでもないことになっていて、天井のコンクリートはハゲたりシミがついたりと何らかの加工を施さないと住める状態ではない、というようなものが現れると思っていた。

が、しかし。

椅子に乗って天井を眺め、スマホで中を撮影している私が呆気にとられるほど、中は機密性が高かったようで、それほどホコリもなく、もちろん死骸も見当たりそうになかった。天井からGが降ってきたら絶対嫌だなと思いながらの作業だったので、とりあえず私は腹を決めた。よし。全部はぐぞ。

改めてカバンの中からメガネを取り出して、とりあえず粉塵が目に入らないように気を付けながら、少しずつ石膏ボードをベリベリとはぎ落とし、ある程度の量になったら大型ゴミ袋にまとめる(かなり重くなる)。

それを一旦別の場所において、また天井をベリベリとはがす(粉塵かぶる)ということをくりかえした。石膏ボードは気持ち良いくらい簡単に崩せるので、こんなおもろい作業を一人でやってもいいのだろうかと、内心ドキドキしながら作業を続けた。そして一部屋分を終えた頃にカナメが様子を見にやってきた。

彼の脳内イメージは

「バンリが天井の様子を知るために、ちょっとだけ穴を開けているところ」

だったはずだが、一部屋分の天井が、すでに、もう、ない(汗)。

「ちょ、待ってよ。これ全部とったの?え?ってか、天井高いねーっ(笑)」

と言うが早いか、天井から石膏ボードのあったところまでの長さを測り始めた。ちゃんと巻尺持ってきてるし。

「70センチあるねー。やっぱり天井抜いて正解。」

「でもさー、なんか排水管が塩ビ?これやだな、オレ。なんかかっこ悪いよね。これさー、アルミみたいなのでカバーすればいいのかな?うーん。コレジャナイ感あるな。」

昔っからだけどさ。カナメって脳の回転が早くてな。一部屋分の天井をなぜぶち抜いてしまったかとか、そういうことはすっ飛ばして、次の話に進んでいる。まぁいい。

 そこで初めてカナメは私の顔に視線を向けた。

「ちょ、ちょっとすごいことなってるで、顔。ドロドロやん。鏡見てみ、鏡。」

リノベ現場に鏡があるわけないやん。スマホでセルフィー撮ればいい?そんなことしたくもないわっ!私は吐き捨てるように言った。

「もうさ、すでにこんな状態になっちゃったから、あと一部屋分の天井もはがしとくねっ!」

「えー、もうやめときやめとき。そんなことしたら疲れちゃうよ。また明日やればいいから。ねっ!」

と言ってエアコンのある部屋に戻っていってしまった。

彼は私の性格をよくわかっている。そして私も彼の性格をよく知っている。私を止めてもムダだし、そんな私を放置して一人エアコンのそよそよ風の中でヘラヘラと自分の好きなことができるヤツである。

平常運転だ。

二部屋目の天井はがしは、最初に比べると簡単だった。すでにコツをつかんでいたので、力の入れ具合でそこそこ大きな面積の天井を一気にはがせるようになり(どこで役に立つ能力かさっぱりわからないけど)、脳裏に「もしかすると、解体作業のパートのおばさんくらいになれるかもしれない!」と思うと、自分の成長を実感できて楽しかった。

(ちなみに、子供が四人いて毎日大量の食事を作っていた頃は「給食のおばさんパートはできるかも」とか、何度も国際引越をする度に梱包と開梱が超高速でできるようになったときには、「日通さんにパートとして雇ってもらえるかも!」と思ったし、子供の転校時のアプリケーション書類を何度も準備しているうちに「進学カウンセラーになれるんちゃうか?」と思ったり、色々とすぐ職業とからめるクセがある………)

 予定通り、二部屋分の天井の石膏ボードをはがしてみたところで、石膏ボードを固定するためのアルミの骨組みがむき出しになっていて、「次はアイツを全部とればいいのね」と目標を定めた。

 自分だけの、自分らしい、世界に一つだけの部屋をつくるため、色々と本を読み、間取りを考え、家具や壁紙を見てまわっていたが、まさか自分の手で解体作業に手を染めることになろうとは、二ヶ月前の私では想像できなかった。が、現実は自分のリノベイメージをどんどん覆して行ってしまった。

なんかDIYリノベって楽しいかも!?


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