3.2 とりあえず部屋を空にしてみる
話が前後するが、実家の片付けとリノベ計画は同時に行っていた。というか、考えても考えても「これだ」という間取りが思いつかない。
玄関と寝室をのぞくスペースをワンルームにすると決まっているのに、なぜ間取り案が必要なのかというと、こういうことだ。
キッチン、トイレ、シャワールーム、洗濯機、洗面台を、そのワンルームの中に配置しなければならないのであーる。
そしてシャワールームの外には脱衣所を作らないといけないので、少なくともシャワールームと脱衣所は壁で囲む必要がある。それらの設備の場所が決まれば囲うための壁の位置も決まる。
この段階で何枚もの間取り図を描いてみたが、なかなか決定打が出ない。今現在の状況が状況だけに、なかなか自由に想像することが難しくなってきた。解体作業までの時間も少なくなってきたのまずは部屋からモノをすべて移動させることにした。
このあたりの話は、前章の「実家の片付け」で書いた通りである。
とりあえず動かせるモノは移動させて、自分たちだけでは動かせない大型家具(和洋の箪笥など)だけが残った。その家具を別の階に動かすのは難しいが、その場で数十センチ動かすくらいはできたので、掃除も兼ねて箪笥を移動させてみて心底ビックリしたのが、箪笥の後ろに「窓」があったのである!!!!
カナメに至っては、自分の実家でありながらも「こんなところに窓なんてあったかな?」というほど記憶があやふや........。モノが多くて早々に複数の箪笥で窓を隠してしまっていたので、思春期をそこで過ごしたカナメにとっても、窓の存在は最初からなかったモノだったのかもしれない。
実家のビルは、その両側を同じような高さのビルで挟まれている。隠されていた窓は、ちょうどその両側のビルの方を向いており、一方は完全に真っ暗で窓としての機能は果たせそうにもなかったが、片面については、隣のビルの壁まで多少の距離があるため、かなりの光が入り込んでいた。
その窓があるだけで、びっくりするほど部屋が明るくなった。そしてその窓を開けてみたところ、田舎のはずの我が家から見る景色とは思えない程、視界が開けてカッコよく見えたのだ。その時の私には、窓のフレームで切り取られた絵画のように見えたのだ。
田舎暮らしに多くを期待しないでおこうと思っていたが、その部屋から見えた景色が、クアラルンプールの高級スパ付きエアビー物件から見た景色を彷彿とさせて、私たちの気分を最高にアゲてくれたのである。
「超イケてない???」
多くを期待しないまま始動したリノベプロジェクトが、この日を境に大きく動いたような気がする。
もしかしたら、カッコいい生活空間を作れるのかもしれない、と欲が出てきたのだ。
そして大型の押し入れの中に入っているものもすべて外に出して掃除をしてみたら、押し入れの内部の木はびっくりするほどキレイで、この押し入れはそのまま置いておいてもいいと思えてきた。
押し入れをそのままにするなら、解体作業も減るし、収納の問題は一気に解決する。衣類や雑貨、ゴルフ用品を含めたスポーツ用品類の収納もどんと来いだ。つまり、最小限のリノベ コストでそこそこの結果が得られるかもしれない。ただ押し入れの扉に貼られていた壁紙が古いタイプのデザインだったので、それだけは張り替えようとは思った。
カナメは空になった部屋を見渡して「意外と広いね!十分だね!」というセリフを連発していたが、私は逆のことを考えていた。
「このスペースにキッチンとダイニングテーブルを置いたら、私の机は一体どこに置けばいいのかな.......?」と。そう。私はずっと自宅SOHO(Small Office/Home Office)だったので、海外のコストコで買った大型のデスクに複数のコンピュータやラップトップ、タブレットを並べて作業していた。そしてレーザープリンターとインクジェットの複合機の二台を並べる棚もあった。そして部屋の壁全体が書類と書籍で埋め尽くされているのが過去の日常だったのだが。このスペースの中に収まるようなオフィス空間のイメージが全くつかめない。っていうか、そもそもその作業用デスクを置くスペースが、何をどう考えてもないような気がしていた。
新たな葛藤が生まれた。正直にカナメに言うべきか、それとも自分で何とかすべきか(=小さいデスクで納得するか)。
段々と今回のリノベで自分の希望をどの程度押し通すべきか、我慢すべきなのか、そのあたりの落とし所がわからなくなってきた。自分の実家ではないからわがまま言えない気もするし、自分が住む家だから主張した方がいい気もする。言うなら今だとも思うし、このまま我慢してもいいか死ぬわけでなし、と心が揺れてきた。
でもさ。カナメはエスパーじゃない。私が口に出さない限り、彼が私の心の葛藤に気づくわけない。言わなきゃ、このまま私のワークスペースがなくなってしまう!!
何も決まっていない今のうちに言わなきゃ!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?