ライフプランニングと目標設定

ファイナンシャル・プランニングでは、最初に、ファイナンシャル・ゴールの設定、すなわち、「目標の明確化」を行います。ファイナンシャル・プランニングのプロセスは以下のnoteに書きました。

目標の明確化では、ライフイベント表を作成し、ライフプランを設計します。ライフプランは、企業における事業計画のようなものです。ライフプランについては、以下のnoteに書きました。

このnoteでは、ライフプランニングでの目標設定について参考となる調査や考え方を紹介します。

金融機関の調査・研究

ライフプランニングをどのように行うのがよいかは、銀行、証券、保険といった国内の各金融機関にとっても重要テーマです。営業観点で重要というのももちろんあると思いますが、顧客本位な調査・研究もされています。

例えば、野村證券は、個人の資産管理のゴールベース・アプローチについて調査し、2023年に『金融サービスの新潮流 ゴールベース資産管理』という本を出版しています。

ゴールベース資産管理とは、端的に言えば、「顧客とその家族のゴール」を土台(ベース)、あるいは出発点として、その実現に向けて資産などを管理していく方法です。「ゴール」には、趣味や夢といった「将来やりたいこと」、子や孫の教育など「準備しておくこと」、「生活スタイルを守り、実現すること」、「いざという時への備え」など、自分や配偶者がどんな生活を送り、生涯でどういったことを行い、家族や先の世代にどうあってほしいか、どのようなことを避け、また難しい課題に備え、対処していきたいかを具体化したものがあてはまります。また、家族という観点では、本人や配偶者が亡くなった後も考える範囲になりますし、ゴールによっては複数の世代にまたがっていくものもあるでしょう。こうしたゴールを少しでも実現しよう、実現できるようにしていこう、と考えて資産を管理してくのが「ゴールベース資産管理」です。

『金融サービスの新潮流 ゴールベース資産管理』(日経BP 日本経済新聞出版)

人生の「ゴール」というと「人生の終わり」=「死」であったり、事業計画にあるような高い達成目標だったりを想起するかもしれませんが、「ゴール」が何かは人それぞれ多様です。

"goals"と書かれているように、ゴールは複数あることが前提になっています。(中略)ゴールが特に「人生」という言葉とつながってしまうことで、「人生の終わり」と捉えられてしまうこともあります。ゴールベース資産管理で扱うゴールは時間をかけて実現に至るものが前提ですが、そのゴールは1つではなく、一度にいくつものゴール達成を目指すのは当たり前です。だからこそゴール間の優先順位で対立や葛藤が起きるのです。またある1つのゴールが実現したとしてもしれでおしまいではなく、いずれ「次に実現したいゴール」が出てくるものです。

『金融サービスの新潮流 ゴールベース資産管理』(日経BP 日本経済新聞出版)

「ゴール」=「達成すること」「成し遂げること」と考えてしまうとゴール、あるいはゴールを考えることに対してハードルが上がることもあります。「それなりの生活ができればよい」「安心して余生を過ごせるとよい」というのも立派なゴールです。そうすると、「ある状態にあること」「安心できる状態にあること」というのもゴールでしょう。

『金融サービスの新潮流 ゴールベース資産管理』(日経BP 日本経済新聞出版)

ゴールベース資産管理では、まず、ゴールを書き出し、優先順位を決めます。企業に照らすと、事業計画、あるいは、プロジェクトの要求収集・スコープ定義などと似ています。

ゴールベース資産管理はゴールが出発点となる資産管理方法ですので、「(1)ゴールを書き出し、優先順位を決める」ステップが最初になります。顧客を理解し、顧客の想いを共有してもらうステップになります。次は、「(2)将来のお金の状況を試算し、プランを立てる」になります。(1)で見える化し、なんとなく優先順位付けしたゴールについて、実現に向かうためのプランを立てるステップになります。いわゆるライフプランニングを想像してもらうとよいでしょう。

『金融サービスの新潮流 ゴールベース資産管理』(日経BP 日本経済新聞出版)

また、生命保険文化センターは、「生活設計の今日的課題と今後のあり方」研究報告書の「第3章 生活設計における目標設定の考え方」において、生活設計目標を、「日々を生き抜く」「家庭・地域の一員でいる」「他に認められる」「自分らしく生き生きとする」にカテゴリー分けしています。

ライフイベントと人生の3大資金

職業選択、結婚、出産、子どもの進学、住宅取得など人生にはさまざまな「ライフイベント」があります。ライフイベントの中でも、教育資金、住宅資金、老後資金は、特に多額の資金を必要とするため、「人生の3大資金」と呼ばれます。

一生でいくらお金がかかるのか。例えば、22歳で就職してから平均初婚年齢で結婚、65歳で退職し平均寿命で亡くなると仮定した場合、総務省「家計調査」をもとに計算するとおよそ3億円弱になります。

上記リンクの「家計調査」をもとにした集計では、支出の平均的な内訳は税・社会保険料を除くと、食費が最も多く、次いで住宅が多くなっています。また、教養娯楽や交際費にもかなりの金額が割かれています。なお、生命保険料も大きな支払ですが、家計調査では金融商品の性質上、消費支出には含まれず、貯蓄などのような実支出以外の支払となります。

ライフプランにおける目標設定では、ライフイベントで金額の大きい教育、住宅、老後であったり、人生における金額の大きい食事や住宅、あるいは、娯楽・交際などの目標の数が多くなったり、優先度が高くなったりするでしょう。

企業におけるプロジェクトとプランニング

ライフプランは企業における事業計画のようなものと言ったり、ゴールを書き出し優先順位を決めることは、プロジェクトの要求収集・スコープ定義などと似ているという話をしました。
企業にはざっくりルーチンワーク(定常業務)とプロジェクトがあります。プロジェクトは『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOKガイド)』では、次のように定義されます。

プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期性のある業務である。プロジェクトの有期性とは、明確な始まりと終りがあることを示すものである。プロジェクトが終わりとなるのは、プロジェクト目標が達成されたとき、もしくは、プロジェクトが中止されたときである。

プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOKガイド)

一方、ルーチンワークは「定常的な業務は組織の既存の手順に従うので、一般に反復的なプロセス」です。

ライフプラン、あるいは、人生にも、ルーチンとプロジェクトの性質のものがあります。例えば、平日毎日会社に行く、毎週ランニングする、安心して余生を過ごすなどはルーチンといえます。一方、結婚式、海外旅行、自動車購入、資格試験などはプロジェクトの性質を持っています。ルーチンとプロジェクト、どちらに当てはまるかあいまいなものもありますが、毎年恒例年末年始の旅行であればルーチンといえますし、結婚10年目は奮発して海外旅行に行こうだとプロジェクトといえそうです。

また、プロジェクトマネジメントは次のように定義されます。

プロジェクトマネジメントとは、プロジェクトの要求事項を満足させるために、知識、スキル、ツールと技法をプロジェクト活動へ適用することである。

プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOKガイド)

プロジェクトマネジメントには、立上げ、計画、実行、監視・コントロール、終結の5つのプロセス群があります。そして、プロジェクトをマネジメントするには、通常、以下の事項が含まれます。

  • 要求事項を特定すること

  • プロジェクトの競合する制約条件(要求、スコープ、スケジュール、予算、品質、資源、リスク)のバランスをとること。ただし、これらの項目に限定されるものではない

プロジェクト計画では、まず、要求を収集し、スコープを定義します。WBS(Work Breakdown Structure)を作成し、「有期性」の特徴にあるように期限を決めスケジュールを作成します。また、コストを見積もり予算を設定します。

ライフプランにおける「要求」は、人生でやりたいこと、ゴールベース・アプローチでいう「ゴール」を挙げていきます。企業のプロジェクトと異なり、ステークホルダーから要求を「収集」はしませんが、どんなことが人生に起こるのか、どんな生きがいにできそうなことがあるのか調べるのも良いと思います。金融機関の調査・研究の例で取りあげた内容や人生の3大資金なども参考になります。

スコープ定義は、プロジェクトおよび成果物(アウトプット)を定義するプロセスです。プロジェクトが何を持って成功(達成)とするか、完了要件は何かを定めます。

スコープ定義をライフプランニングに当てはめると、例えば、資格試験であれば、FP1級合格が成果でありプロジェクト完了要件になることもあれば、もしTOEICのようなスコアのある試験だと、昇進に必要なスコア800点を完了要件とするといったことも考えられます。

企業のプロジェクトマネジメントの考え方は個人のライフプランニングにも活かすことができます。

ライフプランと目標設定

ライフプランニングでは、まず目標(ゴール・要求)を洗い出します。そして、以下の観点で目標を明確化します。

  • 優先順位

  • 達成・成功・完了など要件

  • タイム・スケジュール(いつorいつまでor定常的に)

  • 費用・予算

『金融サービスの新潮流 ゴールベース資産管理』には以下のような記述があります。

「漠然としたゴールを、会話しながら見える化していく」ところからゴールベース資産管理が始まります。そして、ゴールに向かって進んでいるのか適宜確認し、顧客を励まし、必要に応じてゴールを見直していく、というプロセスを延々と繰り返していくことになります。これを、顧客のそばで支えていくのがアドバイザーの役割になります。

『金融サービスの新潮流 ゴールベース資産管理』(日経BP 日本経済新聞出版)

ライフプランの目標設定が自身だけだとなかなか進まない場合には、会話相手としてファイナンシャル・プランナーに相談してみるのも良いかもしれません。

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