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研究の国際競争力向上に向けて:若手も若手ではない研究者もキャリアについてそれぞれの「最適解」を探している
今年度も含め、過去三年にわたり、日本免疫学会の学術集会で「若手研究者のためのキャリアフォーラム」を実施してきました。初回のフォーラムの実施は成り行きから、二回目は「今年度は若手のキャリアイベントはないんですか?」と学生に促されて、そうこうするうちに「イベントが得意な人」というイメージがついたのか「今年もやるよね?」という場の空気を読んでしまい、あれこれ悩みながら、12月に長崎で行われた学術集会で三回目のフォーラムを実施する運びとなりました。
過去二回のフォーラムでは特に、1)留学に関すること、2)アカデミアでのキャリアについて、そして3)アカデミア以外でのキャリアの可能性に関すること、の大きく三つが研究者が知りたいことや相談したいこととして挙げられましたので、今年度は、ランチタイムに少人数ずつのグループに分かれていただいて、お弁当を食べながら、年齢や職位にこだわらずざっくばらんにこれらのテーマについて議論が出来るような場作りを目指しました。
イベントには40名を超える研究者が参加し、学生を含む様々な職位の研究者が、悩みを分かち合い、経験を共有しました。「悩んでいたのは自分だけではなかった」「いろいろな悩みが聞けてよかった」など、参加してよかった、という感想を多くいただきましたが、一方で、もっと時間をかけてじっくり議論したかったという声も少なからずありました。それぞれのテーマに、キャリア選択に影響を及ぼす人生の出来事(結婚、出産・育児、介護など)が絡み合ってきますので、確かに時間をかけた丁寧な議論の場を提供出来たら良かったのにと思いました。
私自身、この度の初めての試みとしては、イベントへの子連れ参加を可能としたことですが、実際には、子連れの研究者の方はお子さん達の面倒を見ながら他の研究者と議論をするのに難儀されている様子で、子連れ参加できるようにするためには企画により工夫が必要であると感じました。一方で「お子さんがいてくれたことで、そのグループのメンバーがすぐに打ち解けて、なごやかに盛り上がることができた」というコメントもあり、「なんでもあり、という雰囲気を作ることで、それぞれにとっての最適解が探せるのではないか」という大変貴重なお言葉もいただきました。
国際競争力向上のための研究人材の養成・確保の重要性が謳われています。研究は確かに楽しい、楽しいけれどそれだけでは食べてはいけません。不透明すぎる研究者のキャリアの先に不安を抱くことで、アカデミアの基礎研究から優秀な若手研究者が離れていくことがないよう、それぞれのライフスタイルに沿った研究環境の整備はもちろんのこと、様々なキャリアパスの明確化、そして、アカデミア以外のキャリアを選択してもまたアカデミアに戻れるような人材の流動性の確保など、手当てすべき課題は多くあります。これらの課題に対処するためには、国全体の政策的支援だけでなく、大学や研究機関、さらには企業等、多くのセクターによる方々の理解と協力が必要と思われます。
研究者が「楽しさ」だけでなく「将来の安心感」も得られる、そんな環境作りのための取り組みを通じて、基礎研究の国際競争力が高まり、それにより生まれた新たな発見からの技術革新を通じて社会に貢献できるような、持続可能な「研究エコシステム」の醸成をしたい、気が遠くなるような話かもしれませんが、そのために私たちはこうした活動をやり続けるしかないと思うのです。
このような活動はオンサイトのイベントだけをスポット的に実施していくのではなく、TikTokやユーチューブの活用など、様々な媒体も活用しながらもっと連続性のある活動を実施していくべきであろうという声もありました。もちろん私がそれを一人で成しえるものではありませんので、当事者である若手の研究者達と共に作り出す活動でなければならないと思います。
キャリアに関する課題は年代に関係ありません。キャリアフォーラムを実施すると、毎回、幅広い年代の研究者が集まります。違う世代の研究者がそれぞれキャリアに関する悩みを吐露する場があるということは、それだけでも研究者コミュニティの活性化のためには大切なことなのではないかと思うのです。
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この度のフォーラムの実施には、日本免疫学会事務局の皆様に大変お世話になりました。来年度も実施してほしいという要望を多くの研究者からいただいておりますので、きっと来年度もお世話になりますが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
(文責:京都大学 成長戦略本部 鈴木 忍)