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【リレー】インタビュー:トップサイエンスと産学連携の両立のハードルを下げるには?

"【リレー】インタビュー”では、様々な先生方の産学連携への想いや期待を伺います。第1回目は京都大学高等研究院 物質―細胞統合システム拠点(iCeMS)教授である鈴木淳先生にお話を伺いました。

1.ご研究テーマについて教えてください

体の中の不要な細胞や細胞の不要な領域が除去されるメカニズムについて研究しています。細胞膜を構成するリン脂質は非対称性を有しており、細胞膜の内側に存在するホスファチジルセリン(PS)は、例えば細胞が死んだときに細胞表面に露出し”Eat-me” signalとして機能します。このPSを細胞表面に露出するタンパク質(スクランブラーゼ)を同定し、機能解析して、病気の予防につなげようという研究をしています。また、最近は原点に戻り、膜そのものについての研究にも注力しています。

2.産学連携について

これまでどのような産学連携をしてきましたか?

複数の事業会社から研究費の提供を受け、共同研究を実施してきました。いろいろな事業会社と様々な深度で共同研究をしているので、きっちりとテーマと人を分けるところにはもちろん気を遣っています。

産学連携を行うきっかけ、目的は何でしょうか?

恩師の先生方が「トップサイエンスをしていたらそれ以外の時間は捻出できない」というお考えで、バリバリと基礎研究に従事されていたので、その姿勢に憧れていた私自身も産学連携活動には非常にネガティブでした。しかし、自分が研究室のPIとして研究費獲得、学生指導を行うなかで、やはり基礎研究だけに従事していると国力の強弱に左右され、自分のしたい研究を自分の采配でリードすることが難しいと感じるようになり、『時代の変化』を実感しました。いろいろな先生方との出会いの中でも、社会貢献を行いつつ基礎研究の土壌を整えることの重要性を感じるようになりました。


事業会社との連携はいかがですか?

私たちの場合は、我々のシーズを全力で上市したい、という熱意を持った事業会社さんと出会えたので、いろいろな面でサポートいただき感謝しています。しかし、いろいろな企業さんと連携するなかで、時には契約内容が厳しくてアカデミア活動の妨げになるときもあり、一長一短だと感じます。
現在、自分たちがスクリーニングで同定し、メカニズムを明らかにした因子に対する薬剤を開発したり、病気に関する因子を一緒に見つけるというところで共同研究しています。

学内の産学連携部門に相談はしましたか?

わざわざ相談しようと思ったわけではありませんが、偶然のご縁で産学連携部門の先生とお知り合いになり、いろいろとざっくばらんにご相談できたのが有難かったです。腹を割って相談できたので、私の中にあった「産学連携はシームレスというけど全然シームレスじゃなくてハードルがあるだろう」という不安が解消できました。このような出会いが無ければ産学連携に一歩踏み出す気にはならなかったかもしれません。

3.起業について

起業についてどのように考えていますか?

実はスタートアップにトライしてみようかな、と考えています。

起業に関心を抱いている理由やきっかけを教えてください。

やはり研究を大きく遠い未来まで広げたいと思ったことです。私は台湾にオンサイトラボを持っていることから、台湾の研究者からスタートアップ事情などをききますが、日本の科研費などと桁の違うお金が動いています。スタートアップでシーズを育て、得られた利益でさらに自由な研究に繋げられれば良いというビジョンを描いています。また、学生にもゼロからイチを産み出すタイプとイチを10や100にするのが得意なタイプがいます。後者のようなシーズの可能性を広げていけるような学生には、スタートアップでの研究を選択肢の一つとして示せるのではないかと思います。

4.最後に

産学連携や起業を考えると、どうしても研究以外の業務に時間を割かれます。いろいろなベクトルに気が散るので、それを産学連携部門やVC、事業会社などがサポートしリードしてくれるとありがたいです。
研究でお金を稼ぐのは褒められたことではないような風潮がありましたが、今は違います。ノーベル賞を取るような研究をして、それがお金になる、というのが、これからの研究者のロールモデルになるとよいと思います。

お話を伺った先生

鈴木 淳(すずき じゅん)
高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS) 教授

医学博士(大阪大学)。大阪大学大学院医学研究科博士課程修了。京都大学大学院医学研究科 助教、大阪大学免疫学フロンティア研究センター寄付部門准教授を経て、2017年1月より現職。専門は医生化学、細胞膜生物学。2014年科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞、日本生化学会奨励賞受賞。


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