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世界のうつくしさを思い出すためのおすすめ短歌集まとめ
最近短歌にハマっているのですが、なぜだろうと考えてみると、言葉にはならない、胸に積もった感覚や感情を言い当てた概念を探しているからではないかと思います。
『悲しみの秘義』というとても好きな本があるのですが、その本の中に、こんな言葉があります。
人が語ろうとするのは、伝えたい何かがあるからであるよりも、言葉では伝えきれないことが、胸にあるのを感じているからだろう。
言葉にならないことで全身が満たされた時人は、言葉との関係をもっとも深めるのではないだろうか。
本当にこの通りだなあと思うと共に、いま日々に忙殺されていたり、静かに自分の胸に過ぎる想いの名前を知りたかったりする方がもしいらしたら、短歌に触れてみることで少しだけ、心が軽くなることもあるかもしれないので、Xで呟いていたおすすめの歌集を中心にまとめていきたいなと思います。
①あなたのための短歌集
依頼者からのお題や想いをもとにつくられた短歌が並ぶ、木下龍也さんの歌集です。
どれも本当に素晴らしい歌ばかりで選んでいたらキリがないのですが、個人的には下記の短歌に鮮やかな気持ちになりました。
どなたって戸惑う祖父を抱きしめたかなたで思い出してほしくて
認知症になってしまった祖父を持つ方から、「この悲しみを歌にしてほしい」というお題に対しての短歌が上記です。
この短歌を見て、「あ、これは救いだ」とハッとしました。
ぼうっとしているときたまに、救いの本質とは何か?と考えることがあります。
救う。救われる。救いだった。
いろんなところで聞く「救い」という言葉ですが、その意味のひとつはきっと、人でも物でもなんであっても、「自分以外の何かの存在により、世界の見え方が変わること」ではないかと考えています。
この歌を受け取った方がどんな気持ちになったかは私にはわかりませんが、まさに木下さんの紡がれたこの歌は、世界の見え方を変えてくれる一助となったのではないかと感じ、敬服したのでした。
言葉の持つうつくしさ、祈りのような佇まいを感じたい方にはぜひおすすめの一冊です。
②花は泡、そこにいたって会いたいよ
初谷むいさんの短歌集です。
好きすぎて以前もこの記事で紹介させていただいたのですが、めちゃくちゃにつらかった時期、深夜にひとりで読んではまだ、たとえ今はつらくとも、世界はこんなに綺麗なのだからと、生きていられる気持ちになっていました。
最近、詩集や短歌集を読むのにハマっているのですが、初谷むいさんの『花は泡、そこにいたって会いたいよ』、透明な言葉の組み合わせが詰まっていてとてもよかったです pic.twitter.com/jAX2dYb4la
— welca (@welcaaam) August 5, 2020
きみの声しろくてきれいで許せない夏に射られるまでの数秒
ひかりを永遠未遂をあげる 言語のない日々でプリズムになる約束
この方は本当に短歌が好きで、うつくしさや楽しさを感じているのだろうと歌集を読みながら、真夜中感じたことを覚えています。
だからこそ、歌のひとつひとつが完成された祈りの標本のように、すべて柔らかく透明なんだと思い、この世界にも綺麗なものがまだあるのだと信じることができました。
読むタイミングは春夏秋冬おすすめですが、やるせない悲しみを感じている春の夜更けに読むと、きっと飛びます。
言葉という言葉が透明で軽やかで、それでいてなぜかどこまでもやさしさを感じさせる一冊でおすすめです。
③ナイトフライト
伊波真人さんの歌集です。
あと最近は短歌熱が再燃しているので、昔買った歌集たちを読み返しています 短歌は瞼の裏で見たことのない景色がひらめくのがとても綺麗 年老いてこの世の何もかもを忘れてしまう極致に至っても、その景色だけは覚えているだろうと思うような、永遠を切り取った一瞬を味わえるのがとても楽しいです pic.twitter.com/b6eg1Rh2im
— welca (@welcaaam) July 10, 2022
歌集の帯にも書かれている下記の短歌が特に好きです。
雨つぶが道一面を染め上げて宇宙は泡にようにひろがる
また、あとがきに、
日常の風景から人影や物音が消えるだけで、いつも目にしている道路の標識や電柱が特別なものに見えた。
歌は、そんな瞬間によく生まれた。
日常の風景が強い存在感を帯びる一瞬。
という言葉があって、とてもよくわかるなあと思いながら度々読み返しています。
短歌と一緒に夜間飛行してみたい気分の時におすすめの一冊です。
④ビギナーズラック
阿波野巧也さんの第一歌集です。
以前もこの記事で紹介させていただいたので、改めて過去記事から引用する形で良さを書いていきたいと思います。
きみを見たらきみが笑った一瞬をそのいっしゅんでわすれてしまう
この辺りが、「きみ」のこぼれた笑顔とそれを捉えた「ぼく」の瞬きのスローモーションすら浮かんできそうな言葉でとても好きでした。
また、あとがきに書かれていた、
いまなすすべもなく失われていく瞬間や時間のことを考えると、怖くて泣きそうな気持ちになる。けれど、怖くて泣きそうなこの気持ちすらも、やがて忘れていくのだろう。
僕は時間へのせめてもの抵抗として短歌を書く。ここに僕やあなたがいた記憶が、定型の中で生き延びればいい。記憶のなかで、僕は繰り返し鴨川で花見をしつづけるだろう。
という言葉にとても救われたのでした。
どんな痛みも悲しみも、喜びや幸福さえもいつかは実感を持てなくなるほど薄れていくと思っています。
それでも、物語や言葉にして残しておくことで、その輪郭がいつまでも標本のように保存され蘇ると思っており、そんな感覚を端的にあらわしてくださっている一文だなと思い救ってもらえた気がしました。
忘れかけていた日常のワンシーン、やさしい世界を思い出したい方におすすめです。
⑤水上バス浅草行き
岡本真帆さんの歌集です。
君からのさよならばかり切り取ったビデオのほとんどが交差点
愛だった もしも私が神ならばいますぐここを春に変えたい
季節や街になぞらえた短歌が並んでおり、忘れかけていた日常の温度を思い出させてくれるような気がします。
何の予定もない午後の春の路地裏で、ちっぽけで確かなこの世の自由を感じていた時のような、穏やかで軽やかな気持ちにさせてくれる一冊です。
以上です。
また良いなと思った歌集を発見次第追記できればと思いますので、もしおすすめの歌集などあればマシュマロなどで教えてください!
世界のうつくしさを忘れかけた日には共に、短歌沼に潜水しましょう。
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