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にぎりめしと麦茶

GW後半戦初日。
例によって、早朝、あるいは深夜と言うべき時間に出立した我々一家は、時計の針が7時半を指す頃には自宅から200km離れた川に石を投げ込んでいた。

茨城県は常陸大宮市。
学生時代の先輩が居を構えるこの地に、子連れでやってきたのには訳がある。
「あそびにいきたい!!!!!!」
という強い想いである。

だがしかし、懸念があった。
先方にも歳の近い子供たちがいて、子供たちは子供たち同士大いに遊んでもらうことも目的のひとつではあったが、子供同士にも相性というものがある。下の子は半年ほど前に顔を合わせているが、上の子同士は赤ちゃんの頃ぶりの再会である。
1泊2日、子供としてはかなり長い時間を過ごす訳なので、果たして……。


「おはよう!おとうさんとおかあさんは家の中にいるかな?」
車を停め、子供たちの対面。挨拶を交わしてはいるが、お互い目を合わせようとしない。

家の中へ案内してもらい、改めて先輩夫妻に挨拶をする。やはり子供たちは目を合わせることはしない。
むむ、これは……。

しかしその懸念は、大人が荷解きをしている間に、子供部屋のレイアウトと共にガラガラと崩れ去っていくのであった。ちょっと崩れ過ぎな程に。

心配事がなくなったところで、次の予定の準備だ。
この日は先輩夫妻のご厚意で、田植え体験に我が家も参加させて頂いた。

体験という言葉に軽く考えていたが、植え始めて1時間ほど経った頃、遅々として進まない田植えと「そろそろ休憩を入れた方が良いですよ」の声掛けで気付く。これ、終わるまで終われないやつだ……!!

かなりの面積を手伝って頂きながらも、結局作業を終えた頃には3時間以上が経過していた。疲労困憊である。
それでも、泥と汗にまみれた肌に吹く風が、雉や蛙の鳴く声が、体験した者にしか分からない感覚を運んできてくれた事だけは確かだった。
だいぶ早いタイミングで離脱した我が家の子供たちも、陽の当たる泥の暖かさと重さ位は覚えていてくれたら嬉しい。

労働の後には、嬉しいおやつタイムが。
その場所で採れた食材を使った食事、わざわざ食レポなんてする方が野暮ってもんで、それはそれはごちそうであった、と言えば充分じゃなかろうか。
サプライズでお土産まで貰ってしまって、恐縮するしかない。自分はこの土地に、何を返せるだろうか。

さて、予定はこれで終わらない。
泥田坊から泥だらけくらいにまで身綺麗になったところで、2家族合同のBBQ大会だ。合同とは言いながら、我が家は寄生しているだけという指摘があればそれを否定する言葉を持たない。人生、いつも誰かに助けられてばかりだ。

これを一番の楽しみにしていた我が家の子供たちも、俄然やる気を見せている。火を起こす間に遊具でお腹を空かす事に余念がない。
さほど待たせることなく無事に焼けた肉を提供して、なんとか親父の面目を保つ。

炭火で赤く照らされる顔が疲労と眠気に満たされる頃には、夜はすっかり深まっていた。遠くに蛙の合唱を聴きながら、泥のように眠りにつくのだった。

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