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私と漆【1】

私と漆の出会いは…とあまり前向きに書けないのは、その出会いがあまりに怠惰と打算の結果だからである。

話は高校時代、大学受験まで遡る。
怠惰な高校生だった私は、指定校推薦で進学を目論んでいた。

自ら勉強したいと思う教科なぞ現代文と世界史だけ。大学に入ってしたい勉強は「文明の発展と戦争によるリセットを繰り返す人類がその発生から現代におけるまで全く進歩していない事を再確認し、これからも進歩しない事を確信に変える」だったので、歴史系の学科があり、頭の良い同級生と推薦枠でかち合わない人気の無い学校という条件で逆算された恐ろしく後ろ向きな大学選びは、恐らく自分の人生を大きく変える事になった。

現代文を担当していた学年主任の先生に相当な心配を掛けながら進学したその大学で一つ大きな誤算だったのは、その学校に世界史を学ぶ学科は存在しないことだった。ちなみに、その他にも誤算は沢山あった。たとえば、通学に2時間弱かかる事とか。
篠崎先生、廣瀬先生、お元気ですか。私は元気です。


そんな訳で、ひょんな事から文化財について学ぶ事になったその学生。過去と誠実に相対するその魅力に取り憑かれ寝食を忘れて没頭…する訳もなく、いかに効率良く単位を取得して学芸員資格を取得しつつ卒業するか、に心血を注ぐことになるのだった。

(入学してからの学生生活について特筆すべき事もないので)時は進み、そんな学生にもゼミ選びの時期がやってきた。それまで、面白いと思う講義はあったが、そもそも真面目に勉強していないのだから、心から勉強したいというゼミがあるはずもなく。自然、関心事はもっぱら要求される卒論のボリュームとその書きやすさになる。

ゼミの説明にひとつひとつ目を通していく。あるゼミの説明書きで目が留まる。そこには「卒業制作」の文字が踊っていた。これだ、と思った。

それが、私と漆の出会いである。

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